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第56話 魔性の瑠璃との出会い


「園田機長、22時59分にガッチャンするとタクシー出ないんですよ。酷くないですか?」

 今、目の前にいる新人の子はCAのイメージだけで入社してきた子だ。


「大鳥居なら帰れるでしょ」 

 前にその子が空港線沿いの大鳥居に住んでいると言ったのを思い出した。


「8千円貰えないんです!」


 CAは会社のタクシーを手配するか、毎回8千円貰って個人でタクシーを手配するかを選べる。8千円が欲しいが為に、航空運航に口を出す馬鹿女を採用した会社が悪い。すると、隣にいた新人の子まで俺にお願いのポーズをして手を合わせている。呆れていたいたところに口を出してきたのが、森本瑠璃さんだった。


「安全運行とお客様をいち早く到着地にお届けするのが何より重要でしょ。お客様のご搭乗開始まであと10分よ。雑談する時間は終わりにしなさい!」

 森本さんは冷ややかに言い放つと、機内のトイレチェックに行った。凛として清楚で美しい理想の女性だ。見た目だけじゃなくて、中身も俺の好みのドストライクだった。


 新人の子2人はむくれた顔をして陰口を言い出した。


「森本さんって怖いよね。言い方とかキツくない?」

「アラサーなのに実家から通ってるらしいよ」


 実家から通っているという事は、空港の近くに住んでいない可能性が高い。彼女が一番タクシーがないと困るはずだ。


「マジで? 美人なのに性格で難ありで売れ残り? こどオバじゃん」

「いや、長く付き合ってる商社マンの彼氏がいると風の噂で聞いた。顔が良い上、実はお嬢様だから性格悪くても無問題もうまんたい!」


 こそこそと話をしている新人CAの子たちに聞き耳をたてる。森本さんに彼氏がいる事に予想以上に落ち込んだ。彼女に恋人がいなかったところで、自分からアプローチする術が分からないのが笑える。

(あんな素敵な女性、男は手放さないよな⋯⋯)


 そして、それから程なくして俺はBARで森本さんと出会した。


 上品なクリーム色のワンピースに身を包んだ彼女は、柔らかく俺に微笑みかけた。脳が溶けるような感覚を初めて覚えた。普段、凛として近寄り難くさえ見える彼女が甘えたような顔をしている。誘惑するような視線と言葉に、俺は気がつくと彼女をお持ち帰りしていた。


 玄関に入るなり、彼女から理性が吹っ飛ぶような甘い口付けを受けた。必死に理性を保ちながら、彼女に「後悔しないか」意思確認をする。


「後悔するのは一樹の方なんじゃない?」

 魅惑的な視線と柔らかな指先に完全に理性がとんだ。


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