「実はさ。駐妻コミュニティーって閉鎖的で、先輩の奥さんがメンタルやられちゃったんだ。その時に、俺はやっぱり瑠璃は最強だって思った。瑠璃は強いからメンタルやられるどころか、妻コミュニティーを牛耳れるでしょ」
「私が強いって?」
「瑠璃は女の世界に慣れてるじゃん。CAなんて自分が美人だと勘違いしている気の強い女ばかりに囲まれて7年もやってさ。実際、CAって化粧濃いだけでブスが多いよな。まあ、瑠璃は本当に気の強い美人だけどね」
冴島傑は自分の浮気未遂で私がどれだけ泣いたか知らないだろう。私は気が強いが決して強い人間ではない。親の理不尽にいつも泣いていたし、普通の家庭の子を装う事に虚しさを感じていた。色々な事情を冴島傑には話してきて、彼はその話を頷きながら聞いていた。私は彼なら私の人に見せられない弱さを受け止めて見守ってくれると信じた。本当に私は他人を見る目がない。どうやら私の数々の言葉は彼の心には全く届いていなかったようだ。彼を自分の一番の理解者だと10年近く思い込んでいたのだから、私は愚か者だ。
CAのスッピンを見た事がある口ぶりの彼はおそらく浮気常習犯。実際、商社マンとCAの合コンというのは頻繁に開催されている。同じ職場の桃華さんと浮気しようとするような男が他でしていない訳がない。なぜ、この男を支える未来を描き努力していた時間を思うだけで虚しい。
「冴島さん。本当に警察呼ぶよ」
「10年尽くした俺にそんなに事にするの? うちの親も他の子連れてっても文句ばっかなんだよ。やっぱり瑠璃は親受けも抜群だし、戻って来いよ」
いつ彼が私に尽くしたのか不明。もしかしたら、気疲れする私と一緒にいるだけで男性には負担なのかもしれない。もう1秒たりとも彼といたくない。彼は一言も私が好きだから諦められないとは言わない。今、彼は焦っていてメッキが剥がれて本音が漏れているのだろう。
真咲隼人がルリさんに愛を伝え続けると縋ったように欲してくれれば私の中の女の部分は満たされた。10年付き合った男からも「愛」や「好き」という言葉を引き出せない自分。私の頭の中を冴島傑と過ごした時が巡る。ときめきはなかったけれど好青年だと思っていた彼と描いた未来。
私が冴島傑との10年の虚しい時を回想していると、私の愛しい夫の声がした。