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第11章 世界を越えた恋(ルリ)

第106話 賑やかな家族

 フランスに移住して6年の時が経った。私は可愛い4人の子に囲まれて愛する人と過ごしている。

 パリの郊外の新居は宮殿のようで、ちょっとした観光名所になってしまっていた。今は広い芝の庭に敷物を引いて、可愛い4人の子供と日向ぼっこ中だ。


『奥様、日本からお手紙です』

『ありがとう』


 メイドのオレリーから受け取った手紙は真智子からのもの。真智子は先月、職場の男性と入籍した。新婚旅行でフランスに来るらしく、私は来週親友と再会できるのを待ち遠しく思っている。


 手紙の中には、来週会うのを楽しみにしていることと一緒に並行世界のもう1人の私のことが記してあった。並行世界に関して得た情報に関しては秘密だ。真智子曰く、科学や医療の発展の為に限られた人間にだけ並行世界の存在を教えることになったらしい。2つの世界の頭脳を使い、今よりも多くのものが発展してくだろう。


 私が並行世界に移動したのは、真智子の独断だった。あの時は私は自分のことしか考えられていなかったが、今思えば真智子は下手すれば失職するくらいのリスクを負っていたはずだ。だから、私が並行世界に行ったことは、愛する隼人にも秘密。私は手紙で並行世界の森本瑠璃についてこっそりと真智子が教えてくれるのを楽しみにしていた。



「ホテルの女王か⋯⋯凄いな」

「女王って何? お母様はお姫様だよね」

「お姫様は恵麻よ」

 手紙の内容に驚いて思わず漏れてしまった呟きに、長女の恵麻が反応する。恵麻は5歳になって、よく2歳の3人の弟の世話をしてくれる。

 隼人が私を頻繁に「ルリ姫」と呼ぶせいか、恵麻は私を御伽話の中のお姫様だと信じている。私は隼人限定の姫だ。


 手紙には瑠璃が一樹と結婚して幸せに暮らしていて、現在3歳になる娘がいると書いてあった。一樹の実家の事業を継いで、敏腕社長として活躍しているらしい。瑠璃が雑誌の記事で発言したコメントについて言及していて、彼女の「サプライズこそ最高の感動を呼ぶ」という言葉が印象に残った。


「ルリー!」

 隼人が仕事を終えて、私たちの方に小走りで近づいてくるのが見える。隼人は日本にいる時はワーカホリックだったが、こちらに来て家族中心の生活に変わった。仕事大好き人間の隼人が私の為に無理をしているんじゃないかと心配になったが、フランスのワークライフバランスはこんなものだと返された。


「パパー! 抱っこ!」

 2歳の3人息子に囲まれて、隼人が慌てて両手で3人を抱える。

「隼人、力持ちだね」

 私は、隼人が子供を落とさないように支えながら、クッションを彼の前に置く。


「可愛い、クッション。ルリの手作りだよね」

「恵麻の手作りだよ。恵麻がママに教わってパパにプレゼント作った!」

 隼人の言葉に恵麻が反応する。

「本当か? 流石に天才過ぎるだろ⋯⋯」

 隼人がクッションにある王冠の刺繍を指差す。


(「流石にそれは私がやったよ」)

 私が口をパクパクさせて隼人に伝えると、彼は私の唇を読んでくれた。


「恵麻、ありがとう。一生大切にするよ。恵麻は本当に素敵な子だね」

 隼人は3人の息子をゆっくりと敷物に降ろすと、恵麻の頭を撫でた。隼人が私の手元にある手紙をじっと見ていたので、私は咄嗟に手紙を後ろに隠した。


「この手紙は真智子からだよ。来週、新婚旅行でフランスに来るから会えるねって話!」

「ふーん」

「相変わらずヤキモチ? 隼人は本当に可愛いね。私は真智子の旦那様と初めて会えるのも楽しみだけどなー」

 目を瞑って真智子の隣にいる男性に思いを馳せる。きっと彼女の選ぶ人だから素敵な人だろう。夫婦で同じ研究をしているのだから、きっと話も弾んでいる。彼女の夫はしっかり者で弱音を吐かない真智子を甘えさせてくれる優しい男性に違いない。

 突然、唇に温かいものを感じて目を開ける。


 すると目の前には私の王子様の顔があった。


「今、他の男のことを考えていただろ」

 私の目を真っ直ぐ見つめる隼人の顔に、初めて彼が銀座の『ジュエリー真咲』で私にキスしてきた顔が重なる。自分だけを見て欲しいという彼の独占欲のようなものが籠ったキス。それは、世界から見捨てられた私を守ってくれる安心感を与える魔法のキス。


「ふふっ、魔法のキスで隼人のことしか見えなくなったよ。王子様、幸せにします。だから、ずっと私を愛してください」


「言われなくても、僕はルリを愛し続けるよ」

隼人がもう一度顔を近づけてきて、私は目を閉じた。


「ストップ! また、子供できちゃうよ。せめて、3人娘が生まれてからちゅうして! ママが壊れちゃう」

 恵麻の言葉に私は驚いて目を見開く。

「ちゅうで子供はできないぞ」

 隼人も珍しく動揺しているようだ

「オレリーがパパとママはちゅうばかりしてるから、子供が沢山できるんだって言ってた」

 私と隼人は目を見合わせて、思わず笑った。


「恵麻は、僕とママの愛の結晶。愛で子供が生まれるんだ」

 隼人は本当にロマンチストだ。隼人の語りに恵麻も5歳ながらうっとりしている。


 私はそっと自分のお腹を撫でた。あと、2ヶ月くらいで会える3人娘。また真咲家は賑やかになりそうだ。


「また3つ子とは驚いたけどな。大変かもしれないけれど、7人の小人に囲まれているルリを見るのが楽しみだったりする」

 隼人はまた3つ子と分かった時に、私の体をひどく心配した。でも、私は自分が一人っ子だったせいか兄弟がワイワイしているのが嬉しい。


「白雪姫? 私、さっき隼人からキスされた時、白雪姫の気持ちが分かったよ」

 騙されて食べた毒リンゴ。絶望のまま眠りについて、目を開けた時にいた王子様。

 私の言葉を聞いて隼人がそっと私を抱き寄せ、髪を撫でる。彼の手が温かくて気持ち良い。 



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