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第107話 もう1人の隼人

「ねえ、隼人。私、真智子にサプライズしたいんだけど、協力してくれる?」

「もちろん。ルリ姫は何をご所望で?」

「真智子の結婚式をサプライズで挙げたいんだ。今、私が考えているのは舞踏会に行こうって彼女を誘って、ウェディングドレスを着せて教会に連れて行く。そこで、タキシードを着た旦那さんがどーんと待ち構えている。どお?」

 私の披露した提案に隼人は首を傾けた。


 私は真智子が入籍だけで良いと言いながら、実は結婚式に憧れているのを知っている。私が自分のウェディングドレスを試着していた時に、彼女が「結婚式か⋯⋯いいな⋯⋯」と小さく呟いたのを私は見逃さなかった。照れ屋で男勝りな真智子も女の子。愛する人との幸せを皆から祝福されお姫様になれる日に憧れるのは当然だ。


「槇原さんはウェディングドレスを着させられた時点で、ルリの企みに気がつくんじゃないのか? サプライズにならない」

(た、確かに!)

 隼人のいう通りだ。私は瑠璃の「サプライズこそ感動を呼ぶ」というメッセージに影響されて真智子を驚かせたいと思っていたがなかなか難しい。


「隼人、ビビデバビデブーの杖を来週までに作れないかな? 真智子が一瞬でウェディングドレス姿になるような」

「来週か⋯⋯もう少し時間がないと厳しいかな。せめて、来月まで待ってくれれば類似品を作れるかもしれない。完全に着替えとなると難しいかな。映像的なもので楽しめる杖⋯⋯それだと子供向けか?」

 私の願いを全て叶えてくれるという王子様にも流石に出来ないことはあるらしい。でも、私のどんな言葉も大切にして、必死に実現させようと考えを巡らせてくれる彼が好きだ。


「私もビビデバビデブーの杖が欲しい!」

 恵麻が私たちの会話を聞きつけ、隼人の腕にしがみついて可愛くおねだりする。

「どうやらうちの小さいプリンセスもご所望のようだから、本気で作ってみようかな。ビビデバビデブー」

「やったー! パパ大好き」

 隼人の言葉に恵麻がぴょんぴょん飛び上がって喜ぶ。


「サプライズって難しいね」

 真智子は私の良き理解者。彼女は私がコソコソしていたら、直ぐに何かやるつもりだと察してしまいそうだ。

「そもそも、槇原さんはサプライズを喜ぶタイプなのか?」

 隼人の言う通りだ。私は真智子と暮らしていたが、彼女はサプライズに動揺してしまうタイプ。


「違うかな。素敵な結婚式とパーティーを用意することにする」

「ふふっ、手伝うよ」

 隼人が私の頭をポンポンとしてくる。


「ママのお友達だよね。私がサプライズに踊るよ」

 恵麻がその場で、手足を伸ばして優雅なバレーを見せてくれる。最近、彼女はバレーを習い始めた。隼人に似て手足が長いのでバレリーナ向きなのではないかと親バカにも思ってしまう。


「お姉ちゃま、僕も」

 3人息子たちも後ろで、恵麻の動きの真似をして踊り出す。

 そんな子供たちの可愛い姿を隼人が楽しそうに見ていて、私は幸せな気分になった。


 そして、今、私はずっと視線を感じている。その視線の先を辿っても、誰もいない。でも、確実に誰かが私たちを見ている。



 (未来人が透明人間になって過去にタイムトラベルツアーに来た?)


 私は自分が並行世界という現実的ではない場所に行ったせいか、色々な可能性を考えていた。


(そもそも、透明になれる薬は既にオープンになっていないけれどあるのかも!)


 だとしたら、私たちに熱視線を送っているのは誰だろう。ここは、元々隼人が投資目的に購入していた土地。この私有地に入れる人物。


「隼人?」

「んっ?」

 目の前の隼人が私の言葉に反応する。


 私の中で生まれた1つの仮説。


 こちらの世界のパラレル総合研究所は、真智子曰く隼人の寄付で潤っている。あちらの世界の研究所は、是非、うちにも寄付をと瑠璃の世界の隼人を並行世界の見学に連れてきた。しかし、隼人は研究者ではない。この世界の人間に姿を見せるのはルール違反。そこで、瑠璃の世界の隼人に透明人間になる薬を使用させ、私の世界に興味を持たせている。


 私は見えないもう1人の隼人に向かって微笑んだ。


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