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第109話 親友の結婚式

 隼人は私が空港まで真智子を迎えに行くと言うと着いて行くと言って聞かない。

 私は隼人が今、新規事業を始めて忙しい事を知っているので断ってもなかなか納得してくれず苦労した。


 押し問答を繰り広げる私たちを見て、しっかり者の娘、恵麻が「私が、付き添う! お姫様にはボディーガードが必要だもん」と申し出てくれた。

私と可愛い娘の2人で行くのはますます心配になった隼人だが、恵麻が「お父様はお仕事に行って、私1人でお母様を守れる」という可愛い気持ちを守りたいという結論に達する。

結局、民間SPを雇い、私と恵麻で真智子のお迎えに来た。


 空港には沢山の人が行き交っている。

 以前は周りの人が皆、私を非難しているように感じる事があった。

 周りの風景が色を無くしていて、私を世界から拒絶しているような感覚。



 でも、今、人混みの中にいても恐怖はない。

 繋いだ先にある小さな娘の手が本当に私の心を守ってくれていた。


遠目に見てもわかる。私を安心させてくれる、いつも変わらぬショートカットヘア。



「真智子、久しぶり。会いたかった」

私は思わず真智子に抱きつこうとしたが、控える事にした。

真智子の隣には彼のダーリンがいたから。


誠実そうな眼差しをした彼に私は頭を下げる。


「真咲ルリと申します。設楽大和さん。真智子の運命の人に会えるのを楽しみにしてました」

 私が頭を下げると、軽やかな笑い声が聞こえてきた。


「真智子に聞いてた通り、可愛らしい人ですね」

 優しそうな声にホッとしていると、私に付いてくると言って強引に付いて来た娘の恵麻が顔をだす。


「そうだよ。お母様は世界一可愛いお姫様なの。だから、世界一かっこいいお父様に選ばれたんだよ」

 恵麻が得意げに言うことに気恥ずかしくなっていると、真智子が私の耳元で囁いた。

「良かったルリが幸せそうで」


 その言葉に胸がキュッとなる。

今まで彼女にしてもらってばかりで、私はきっと彼女に沢山迷惑を掛けてきた。



「真智子! 大和さん。今日と明日は私に預けてくれるんですよね。真咲ルリ、プロデュースの結婚式受け取ってくれますか?」

 私の言葉に真智子と大和さんが顔を見合わせて微笑む。


 空港から、リムジンで移動し真咲家に向かう。


「本当に宮殿みたいな家だね。これは確かに観光地化するわ」

 真智子の言葉の通り、うちはちょっとした観光地になってしまっていた。


「今日、ここは真咲家ではありません。真智子と大和さんのスペシャル結婚式場です!」

 私の言葉に真智子と大和さんが目を見開く。

 セーヌ川クルーズや大聖堂での挙式など色々考えた。


しかし、私の知る真智子をいくら呼び起こしても彼女は派手なものを好まない。

 彼女は昔から変わり者として、人との接触が苦手だった。

 私は彼女の話を聞くのが好きだったけれど、同じグループの佳奈や美香は彼女を苦手そうにしていた。


 自分が口を開く度に、嫌そうな顔をされて寂しそうにする真智子を何度も見てきた。 

 真智子が私の結婚式の時に自分の両親にも煙たがられていたと話したときには胸が痛くなった。


 沢山の招待客なんていらない。

 真智子を大好きな人だけで彼女を祝う。

 ありったけの彼女の好きを詰め込んだ空間を作る。


「真智子はこっちに来て」

 大和さんの準備をメイドに頼み、私は邸宅の部屋を控室にして真智子の準備を始める。


「綺麗なウェディングドレス」

 真智子が掛けてあるウェディングドレスを誉めてくれた。

「私が、真智子に似合うようにデザインしたの。それを、隼人が形にしてくれて」


 真智子がドレスを見て泣いている。

「レースが凄い素敵、花柄?」

「うん。ゼラニウムを模したんだ⋯⋯」

 自分と真智子の思い出の花ゼラニウム。本来ならば大和さんと彼女の特別な日なのに私が出張ってしまった。


「ありがとう。ルリ。最高のプレゼント」

 真智子の言葉に胸が熱くなる。

私は彼女を今日一番幸せで美しい女性にする為、メイドと一緒に着飾った。


「綺麗。これ本当に私?」

真智子が姿見を見て驚いている。


「真智子は元から綺麗だよ。世界一綺麗な女の子の綺麗を今日は引き出せたと思う」

 私は彼女のウェディングドレス姿が目を見張るほど綺麗で胸を張った。

 世界一優しくて大好きな私のかけがえのない友達。化粧っけがないけれど、元々綺麗な子だ。


 隼人の気を引く為に、外見を磨き続けた私。

 鏡に映る自分が見惚れる程に美しくなっても、自分を好きになれなかった。

 私の内面は幼いままで止まってしまって、1人で生きていけないくらい弱く脆い。


 隼人が私をいくら褒めてくれようと、私の中で世界一綺麗な子は真智子。


 私は彼女以上に綺麗な子を知らない。どん底の私を皆が無視した。

それは私の両親も例外ではなかった。そんな私に手を伸ばしてくれたのは真智子だけ。


 男に騙され陥れられたのに、また、男に縋りどん底に落ちた私を救ってくれたのは彼女。

本当に私にとって救いの女神のような人。


 彼女をエスコートしながら、広大な庭に作った結婚式場に行く。

 私と子供達で手作りした結婚式。


 隼人に頼めば、もっと豪華な式をプロに発注しただろう。でも、私は真智子が贅沢を好まない人だと知っている。

彼女は研究にしか興味のないような人に見られがちだが、誰よりも繊細で人の心を理解しようとする温かい人だ。


 赤長い絨毯を引いた先には新郎である大和さんが立っている。


「真智子さん、ご結婚おめでとうございます」

 突然、隼人の声がして振り向く。

彼は今日夜まで仕事だったはずだが、駆けつけてくれたようだ。


「ありがとうございます。真咲さん。これからもルリをよろしくお願いしますね」

「それはこちらのセリフです」


 私の大好きな2人が笑い合っている。

 私は花々で飾られたバージンロードを真智子と一緒に歩く。


 子供達が懸命にフラワーシャワーを浴びせていた。

ひらひらと花びらに彩られる世界。私の世界が灰色になった時も、沢山の色を持ってきてくれた真智子。


「バージンロード、ルリと歩きたかったから嬉しい」

「本当に? 私も嬉しいよ。真智子、幸せになってね。というか私が幸せにしたい。大好きだよ」

「もう、ルリがそんな事言ってると、真咲さんにまたヤキモチ妬かれそう」


 笑い合い話しながら歩いていると、大和さんの元に辿り着く。

 永遠の愛の誓いと指輪の交換を終えた後は、恵麻と私の3人の子達が出し物をして2人を笑わせていた。

 夢のような光景。


「隼人、私、こんな日が来るなんて思わなかった。本当に幸せ、ありがとう」

 私の記憶にあるのは私を心配していた真智子。学生時代、一緒に笑った記憶なんて無くなるくらい沢山一緒に泣いてくれた人。

私がまた彼女を笑顔にできる日が来るなんて思ってもみなかった。


 私の言葉に答えるように隼人が私を抱き寄せた。  

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