真智子と大和さんは一週間はフランスに滞在する。
2人とも私たちの手作り結婚式を喜んでくれた。
沢山はしゃいだ子供達はぐっすり昼寝中だ。
隼人は新事業の発表が近いのでまた仕事に戻っている。
庭に置いたガーデンテーブルで私は新婚夫婦とアフタヌーンティーを楽しんでいた。
真っ赤なハイビスカスティーに浮かぶ花びら。色とりどりの庭の春の花々。
チューリップ、ヒヤシンス、フリージア、ムスカリの優しい香りが私達を包んでいる。
花の美しさを楽しみ、香りに癒されている今、目の前に大好きな親友が愛する人を連れてきた。
(本当に幸せ⋯⋯)
「ルリ、ありがとう。本当に夢みたいだったよ。このドレス、ルリがデザインしたんでしょ。凄い才能」
ウェディングドレス姿の真智子が頬を染めて照れている。
「私が一番真智子を知ってるから、真智子の綺麗を引き出せているでしょ」
研究職で生真面目で近寄り難く見られがちだが、本当は誰よりも優しく温かい人。
スラリと背の高いスレンダーな体型に、私のデザインしたドレスはピッタリ合った。
ふと、真智子の隣にいる大和さんと目が合った。
「すみません。一番、真智子を知ってるのは大和さんですよね」
「いえ、ルリさんだと思いますよ。私はこれから真智子を知っていくところなので」
穏やかに微笑みを返され、穏やかな時間が流れるのを感じる。
2人は同僚だったらしいが、これからどんどんお互いを知り一番の味方になっていくのだろう。
「真智子、実はね。私、こないだ並行世界の隼人に会ったよ」
「「はぁ?」」
真智子と大和さんが目を丸くしている。
「ふふっ、凄い、息、ピッタリ夫婦だね」
私の言葉に真智子が冷や汗を流していた。
「流石にまずいんだ。こちらの世界の真咲隼人さん⋯⋯ルリの旦那さんに対する契約違反になっちゃうから。本当に会っちゃったの? 並行世界の真咲隼人と⋯⋯」
真智子が捲し立てるように尋ねてきて、大和さんが頭を抱えている。
「会ってないよ。ただ、そこにいて私と隼人をもう1人の隼人を見ている気がしたの。だから、私が勝手に想像しただけ」
私が以前、家族でピクニックをしていた時に視線を感じた方向を指す。
「ルリさん、凄い人ですね。その話は旦那様には絶対秘密でお願いします」
手を合わせてくる大和さんに私は首を傾げる。
「ルリ、大正解! 実は並行世界の真咲隼人さんに透明人間になる薬を摂取してもらい見学に来てもらってたの。相変わらず察しが良いな、流石ルリ」
戸惑っている私を見て、真智子が答えを教えてくれた。
「本当にいたんだ。並行世界の隼人が! それより隼人って並行世界の事知ってるの?」
隼人は瑠璃との入れ替わりも、私が怒って悪魔化しただけだと思っていたはずだ。
「こちらの真咲隼人さんは、並行世界の話はしたけれど興味はないって、だからルリの入れ替わりの件はお話してないんだけど⋯⋯」
「それなら、なんで並行世界の隼人がパラレルトラベルツアーに?」
私の言葉に大和さんが手を叩く。
「パラレルトラベルツアー! 確かにそんなものが実現する未来を最初は私も夢見てたんですけれどね」
「危険を伴うという事でね。科学者や研究者といった専門家限定で許可制で並行世界を行き来して良いことになったの」
大和さんと真智子の会話から推察すると答えはやはり1つ。
「あちらの並行世界の真咲隼人は、寄付枠で来たんだね」
「その通りよ。真咲ルリ」
私の言葉に手を叩いて真智子が笑う。
「私と会わない契約で並行世界の隼人を連れて来たのはどういう事?」
私の言葉に大和さんと真智子が顔を見合わせて頷く。
「ルリの旦那さんが100パーセントもう1人の自分が、ルリに惚れるから会わせたくないって言ったからだよ」
「まあ、結局、お話をされなくても世界を超えた恋をした真咲氏によって、並行世界のパラレル研究所も潤わせて頂きました」
「本当に? 実はそんなことかと思って、ちゃんと隼人の大好きな笑顔で誘惑しといたんだよ」
私の言葉に2人は目を丸くすると、手を叩いて私を褒めてくれた。
このような和やかな雰囲気で、聞いて良いのか分からないが私はずっと気になってた事を聞くことにした。
「一般人のパラレルトラベルツアーがないのは私のせいもあるよね。真智子、ごめんね。私、あの時、自分の事しか考えられてなかった。真智子はあの時⋯⋯」
私の言葉を遮るように大和さんが口を開く。
「真智子は確かにルリさんに薬を渡した事で懲罰委員会に掛けられました」
「ちょっと!」
大和さんの口を真智子が慌てて手で塞ぐ。
「ルリ、気にしないで。結局、処罰はされなかったの。真咲社長が多大な寄付をしてくれたから、逆に周りから感謝されたくらいだよ」
真智子が庇うような事を言ってくるが、私は自分が許せなくて唇を噛んだ。
認可されていない薬だと聞いていた。そんなものを持ち出して私に飲ませた事で親友が負うリスク。いくら追い詰められていたとはいえ、真智子が頑張っていた研究を私が奪うところだった。
「ルリさん、私は正直、ルリさんの件があるまで真智子を無感情な人だと思ってました。友達の為にリスクを負った彼女を見て、本当の彼女に気がついたんです。それは私だけではなく周りの同僚もだと思います」
「でも⋯⋯」
「私が大和と結婚できたのは、ルリのお陰って事! ルリ、謝ったりするのは禁止だよ」
私の鼻を真智子が摘んでくる。
(謝るのが禁止って⋯⋯)
「真智子、ありがとう。私が今、幸せなのは真智子のお陰だよ」
「ごめん」が言えないなら、「ありがとう」と言うしかない。
「大和さんも、真智子の良さに気がついてくれてありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ多大な寄付をありがとうございます。真咲夫人」
「真咲夫人」という呼び名に嬉しさと共に、少し虚しさが過ぎる。
妊娠していて精神不安定になっているのかもしれない。瑠璃の活躍を聞いてから自分は瑠璃に比べて隼人がいなければ何もできないと落ち込んでいた。
家族が増えて賑やかで楽しい。私の王子様は私を溺愛してくれている。
(何が不満なのか⋯⋯)