「本当に性格最悪の女だから、出来上がったドレスに火をつけられるかもよ」
「同じ男を好きになった女として幸せになって欲しい」
私は隼人と結婚できるなら、愛人の存在くらいは許そうと思っていたと言った彼女を思い出していた。
私なら、そんな風に寛容には慣れない。
「ルリ? 僕と彼女の間には全く情はないよ。ビジネス的な婚約だったから」
隼人にとってそうだとしても、彼女にとっては違った。
どれだけ彼女が私の存在に苦しんだかと思うと胸が詰まる。
「次があったのは、麗華さんの方だったね。私は隼人しか無理だから」
「僕もルリだけだよ。ルリ姫が望むならマレフィセントの結婚祝いもする」
「うん、ありがとう」
隼人はいつかの誓いの通り私の望みを叶え続けてくれている。
私たちはベッドに移動して、くっつきながらお喋りを始めた。
隼人は仕事とプライベートの切り替えが完璧だ。
でも、私は仕事を始めると頭で常に仕事のことを考えてしまう。
時々、手を伸ばしてくる隼人を適当にあしらいながら私は恋にドライだったもう一人の私を思い出していた。
『ホテルの女王』になった瑠璃。
真智子から新婚旅行も行っていないと聞いたが、旦那さんに寂しい思いをさせていないだろうか。
一樹は包容力があって優しそうに見えたけれど、流石にほったらかしにしたら拗ねてしまう気がする。
あの夜の彼は激しさの中にも甘えん坊な一面が見られた。
隼人が不意に覆い被さってキス攻撃をしてくる。
「きゃー、ストップ」
「今、他の男のことを考えてただろう」
「⋯⋯」
隼人のエスパーっぷりに私はドキッとする。
じっと彼を見つめていると、どんどん不安そうな顔になってくる。
あちらの世界の一樹と浮気したことは墓まで持ってく案件。
何だか一生消えない罪の十字架を背負った感覚がある。
精神的に不安定だったとはいえ、私は目の前の愛する人を裏切った。
「考えてた。ごめん。隼人のことだけ考える」
「えっと、謝らないで良いんだよ。ルリ。大河原麗華の新郎のこと考えてたんでしょ。結婚式の男なんてオマケだから、格好はそんなこだわらなくて良いよ」
隼人は私が浮気したと言っても絶対に信じない。
信じないというより、受け入れられないから信じようとしないと言った方が正しいだろう。
彼の中で私は純粋に自分を想ってくれる唯一の人。
両親を子供の時に失った彼が、無償の愛を私に求めているのは気がついていた。
隼人は今、自分が私に無償の愛を与えてくれている事に気がついているだろうか。
私の体がどれだけ歪になっても愛おしそうにしている。
あれだけ見た目に拘って毎日を過ごしていた七年があったのは何だったのか。
隼人は綺麗な子が好きなんじゃない。綺麗な子ならいくらでもいる。
私が好きで、私に愛して欲しいとずっと願っている純粋な人。
私自身、親から無償の愛を受け取った事はない。
もしかしたら、彼もそうかもしれない。
だからこそ願ってしまうのは理解できた。
いつもいつまでも自分を心から愛してくれる人。
決して自分を裏切らない安心させてくれる存在。
だから、私が自分を裏切るなんて彼にとってはあってはならない事で絶対に認めない。
私は器用そうに見えて、子供のように愛を必死に求める彼が愛おしくて堪らない。
私は体勢を変えて、今度は私が彼に覆い被さる。
私を見上げる彼の顔がなんだか幼い。
「隼人、愛してる。何があっても、これからもずっと一緒だよ」
私は彼を安心させるようにそっとキスをした。
彼がくれるから私も無償の愛を捧げる。
本当の私は彼が思っている程、純粋でも一途でもない。
私を心から想ってくれる彼の理想の女になりたい。
その気持ちは出会ってからずっと変わらない。
大事なのは見た目じゃない。
彼が必要としているのは、一途に自分を愛してくれる安心させてくれる人。
出会ってから干支が回る以上の時が経った。
「ルリ、本当に好き。僕と出会ってくれてありがとう」
私の前の隼人は子供のように素直だ。
仕事中の厳しい彼、実は結構意地悪でダークな彼を知っている。
どんな彼も可愛らしいけれど、今、私だけを見つめる彼が一番好きだ。