目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第114話 みんなお姫様になりたい

大河原麗華さんはフランス人の実業家と某宮殿で結婚式をする。

私はオンラインで彼女から直接希望を聞いて、最高にお姫様な結婚式に仕上げた。

雲ひとつない青空に優しい春風が吹く春の日。

私は本日の主役である花嫁に挨拶をしに控え室にいる麗華さんに挨拶に行った。


ティアラを頭に被せ、純白の幾重にも重なったレースのウェディングドレスは彼女にとても似合っていた。

「麗華さんご結婚おめでとうございます」

「ありがとう。オンラインでは話したけれど会うのは十年くらいぶりね。真咲ルリ」

私は彼女の笑顔に思わず涙が溢れる。


「ちょっと、どうしたの? 貴方が泣くところ?」

「綺麗です。麗華さん、本当に⋯⋯」

胸が詰まる。ストリングスカフェ銀座で隼人と婚約破棄をしたと言った時の彼女は幸せそうではなかった。

でも、今、純白のドレスに身を包み世界一幸せそうな顔をしている。

(本当に、良かった)


「⋯⋯貴方って、二重人格よね? 大丈夫? 自分で気がついてる? 貴方の中に獰猛な人格がいるのを私見たことがあるんだけど」

花嫁に心配されている事実に涙が引っ込んだ。

それにしても、瑠璃は一体どんなやり取りを彼女としたのだろう。


「二重人格ではないと思います」


私が笑いながら返した言葉に麗華さんは心配そうな顔をした。

「あの⋯⋯心配しないでください。麗華さん、過去に未熟な主人と私が貴方を傷つけた事を改めて謝らせてください。思い出したくもない事かもしれませんが、本当にすみませんでした」

深々と頭を下げる私の上にポンっと手が置かれる。


「未熟か⋯⋯そんな風に真咲隼人を言うなんて貴方くらいよ」

優しい声に顔をあげると私の頬をぷにっと麗華さんが掴んで来た。


「こんな可愛いのに、急に乱暴に罵倒してきたり。それくらいじゃないとあの男とは遣り合えなかったかもね」

私は頭の中にクエッションマークが浮かぶ。

当時、隼人の婚約者だった麗華さんに向かって、いわゆる浮気相手的なポジションになるはずの立場で瑠璃はどれだけの事をしたのだろう。


「すみません。厚顔無恥で、お恥ずかしい限りです」

「怒ってない! ただ、幸せにしてあげて欲しい。真咲隼人って見た目は良いけどサイボーグみたいじゃない? 心を吹き込んであげてね」


私は麗華さんが隼人を本当に好きだったのだと思い胸が熱くなる。

出会った時からサイボーグみたいな隼人は見たことがない。


彼は外ではスマートな王子、二人っきりの時は甘えん坊な子供。

隼人も色々な顔を持っている人だ。

もう一つの世界の隼人はどんな人なんだろう。

きっと、私の愛する人と同じように純粋な人だ。


「麗華さん、本当にお優しい方ですね。幸せになってください。今日は本当に綺麗でお姫様みたいです」

「私の事、優しいっていうなんて貴方くらいよ! ルリさんって本当に理解できないくらい面白い人ね。こんなキラキラした渾身の衣装作られたら嫌がらせもできないじゃない。一日中見てて幸せになれるドレスだわ」


私は麗華さんの言葉に少し驚く。

嫌がらせ? 自分の結婚式に? きっと冗談だろう。

素人の私がデザインしたようなドレスを褒めてくれる彼女に嬉しさが込み上げる。

『一日中見てて幸せになれるドレス』というのは彼女がオーダーした時の言葉。


私が真智子にデザインしたドレスを見て連絡したと言われた時は驚いた。

真智子へは特別な思い入れがあるけれど、私は麗華さんをよく知らない。

だから、麗華さんと何度もやりとりした。

そうやって完成したドレスを喜んでもらえるのはこの上なく嬉しい。


扉をノックして入ってきた黒髪に青い瞳をした男性。


『麗華! なんて美しいんだ。君のような人を花嫁にできるなんて僕は世界一幸運な男だ』

彼女のパートナーのピエールさんはフランス人。

彼もまた王子様のような人だ。

手を広げて麗華さんを受け入れる準備をしている。



『貴方も本当に素敵だわ。ピエール』

麗華さんが嬉しそうに彼に抱きつく。


「ルリさん。今日は本当にありがとう。もうすでに、人生最高の1日になってるわ」

私にウィンクしてくる彼女は本当に幸せそうだった。



感動のウェディングは、日本円で1億円以上かけているだけあり贅を尽くした壮大なものだった。

私は麗華さんの要望を事前に聞いてプロデュースしたけれど、本当に彼女の夢はロマンチック。

王子様とお姫様の結婚式という私の好みとも一致し、とても素敵なものに仕上がった。


そして、その結婚式がまた話題になり、ウェディング事業への問い合わせが殺到している。

最初は表に出ることに躊躇があった私だが、あまりに件数が多いために慣れてきた。

それに結婚式やキラキラした可愛いものが好きな私には好きなものに囲まれる素敵な仕事だ。

側から見れば承認欲求の高いセレブ妻のお遊びにも見られるかもしれない。

それでも私が生きるには必要な仕事だった。

仕事の成功が私のボロボロになっていた自己肯定感を取り戻してくれた。


♢♢♢


サンルームで日向ぼっこしながら過ごす、休日。


「お母様、最近、また可愛くなったね」

一番下のまだ8ヶ月の3人娘の授乳中、突然、恵麻に話しかけられる。


「恵麻の方が可愛いわ」

私がそんな事を言ったら、案の定、三歳になった3人の息子たちが近寄ってくる。


「みんな可愛い。みんな私の宝物よ」

「本当に?」

「誰が一番可愛い?」

「ねえ、誰が一番?」


子供たちが争っている姿が可愛い。

こんな幸せが私にやってくるなんて想っても見なかった。


遠くからガタガタと音がする。

今日は夜まで仕事だと聞いていたけれど、早めに帰って来られたのだろう。

玄関に入って来た隼人の足音。

私に会いたくて仕方がないという彼は足音まで可愛い。

「一番はね⋯⋯」

言い掛けた私に子供たちが、「やっぱり」と笑う。


「ルリー、会いたかった」

出会った頃より、もっと素敵になった私の王子様。

私に一直線に駆け寄ってくる彼を私は思いっきり抱きしめた。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?