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第122話 貴方の落ちるところが見たい(真智子)

今日は毎月定期的に会っている園田瑠璃と会う日だ。


私と彼女は小学校一年生から知り合いだが、実際仲良くし始めたのは3年程前から。

彼女は私と友達になれたと思っているようだが、世の中そんなに甘くない。


私たちの小学校は女子ばかりの1クラス。卒業までクラスが変わらないという地獄。私はずっとボッチで寂しい時を過ごした。もう1人の私が現在の真咲ルリと楽しい学生生活を過ごしたと聞いた時には気分が悪くなった。


今日はホテルの女王のホテルのカフェの個室でアフタヌーンティーをする。

約束の場所に着くこと5分、園田瑠璃が到着した。


「お待たせ、真智子さん。あーお腹空いた。ごお昼食べてないんだ」

「全然、待ってないよ。ほら、お食べ」


イギリスフェアをやっているらしく、スコーンがあった。そのスコーンをお手拭きでさっと手を拭き園田瑠璃はパクっと食べる。

食べるよりまずは遅刻の謝罪をしろよと私は心の中で毒吐いた。


彼女は仕事では絶対に遅れないだろう。時間厳守の真咲隼人と仕事をしている。そして、ここは彼女の働いているホテル。わざわざ会いに来た私より遅れる彼女は完全に私を舐めている。


「真智子さん、聞いて欲しかったの。実は旦那さんが内勤になってさ」

「ええ? それは残念だね」


思わず心からの言葉が漏れてしまった。私の思わぬ反応に彼女が目を白黒させている。

私は彼女が不倫をし、家庭が壊れるのを観察してやろうと思っていた。


その布石は十分だった。

並行世界を頻繁に見学している真咲隼人は、別世界の真咲ルリに夢中。


彼の面白いところは園田瑠璃を自分の理想に近付けようとしているところ。並行世界の見学後、必ずと言って良い程、園田瑠璃に会いに行っている。真咲隼人は園田瑠璃が気になっているのは確か。そして、彼のような百戦錬磨の男に言い寄られたら園田瑠璃も揺れそうだ。


そして、パイロットとホテルの女王はすれ違い生活を送っていた。子供たちは殆ど義実家にお世話になっている。園田瑠璃が不倫でもしたら、彼女は夫も子供も失うだろう。


私は私を助けてもくれなかった癖に、平然と友達面している彼女の苦しむ姿が見たい。

仕事も順調、完璧な夫に一姫二太郎。彼女は相変わらず勝ち組人生を送っていた。彼女が勝ち組なのは昔からだ。


頭も良く美人でクラスのリーダー格。あちらの世界の真咲ルリは大人しい性格だったらしいからかなり違う。

そして、昔から彼女は常に上から目線。だから、彼女の周りの女は何処か彼女を嫌っていて、彼女が落ちるのを見たがっていた。私もその1人だ。

園田瑠璃は何も分かっていない。

他人の勝ち組快進撃を見せられて楽しい訳がない。

サバサバとナチュラルに見下す彼女は多くの女の心を抉ってきただろう。


生まれながらの美人。

生まれながらのお金持ち。

彼女の実情がそんなに恵まれていない事など知っていても妬ましい。


次から次へと現れる男は皆彼女を好きになる。

男は結局見た目しか見ないのかとムカつく。

彼女は女たちから見れば嫌な女。

あちらの世界の真咲ルリのような思いやりに溢れる女とは違う。

自己顕示欲に溢れてるくせに、承認欲求に取り憑かれる女を馬鹿にし、私のような何もない女を下に見る。


私は対抗意識の強い彼女にあちらの世界の真咲ルリの幸せな生活を語る。


彼女の夫の元カノは嫉妬もできないくらいヘボだったらしい。その事で彼女の中で園田一樹の評価は明らかに下がっていた。

女を見る目がないという減点をされたのだ。変な話をする私を減点して遠ざけた頃から、変わらぬ偉そうな減点方式だ。


真咲ルリの話をすると、当然飽くなき野心を持つ彼女は考える。


真咲隼人と一緒になった方が幸せだったのでは?


彼女は誰が見ても十分幸せだ。悩みのように見せて幸せ自慢をされるのも疲れて来たので、そろそろ本当に刺激的な展開を見せて欲しかった。


「まあ、子供との時間をとって欲しいかなとは思うんだ。毒親育ちの私より一樹の方が良い子が育つと思うし」


「そんな事ないでしょ。瑠璃さんは自慢のママだと思うな」


結婚もしてない子供もいないアラフォーの私にフォローさせる彼女は今日も女王様だ。


彼女は自分の親を毒親と言うが実際彼女は教育虐待を受けていた。私はその影響が園田瑠璃と真咲ルリの違いを生んだと考えている。


園田瑠璃は自分でも自認していた通り、自分の物差しで人を判断し切り捨てる父親にいつの間にかに似て来ている。

一方で真咲ルリは話を聞いてくれず一方的に責めてくる父親の虐待に苦しみ、人の話を自分はできるだけ聞こうとするようになっている。


「虐げられシンデレラ」のように自信がなく人の顔色を見て自分を押し殺す真咲ルリ。虐待を受けた子にありがちなパターンの性格になっていた。

しかしながら、そんな彼女の受け身な性格により救われた人間がいる。真咲隼人と私だ。


孤独な時間を過ごしていた私は、ひたすら話を聞いてくれる彼女に依存した。そして、幼くして親を失い愛に飢えていた真咲隼人は自分を捧げることしか知らない彼女にハマった。

虐待という悲惨な行為により偏った育ち方をしてしまった園田瑠璃と真咲ルリ。

2人は全く違う性格をしている


どんなに寄せても園田瑠璃は真咲ルリにはならない。

園田瑠璃は虐待により、父親と同じように王様になった女。

虐待の連鎖とはよく言ったもので、親と同じような行動をしてしまうのも良くあるパターン。

園田瑠璃はどこにいても女王様だった。


彼女の悩み?


そんなもの他者からすれば取るに足らないものだ。


そんな結論に達した私は眼前の女が野心と情欲に身を焦がし不倫に身を落として笑い者になる日を楽しみにしていた。

友達なんてものは知らない。

私は30年近く親からも怪訝な顔をされながら孤独に生きていきた。


目の前の成功した女はそんな事も知らないどころか興味もない。



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