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第45話

 シルヴァとヘルガの元に向かう間、壊れた馬車の中から、どうやって詰め込まれていたのか、ぞろぞろと体の一部が欠損したり、曲がってはいけないところに曲がってしまった人達が出て来る姿が見えて、横たわったお母様へと向かい群がって行く。

けど……、雷の魔法に身を包まれているおかげで、触れる事が出来ずに体ごと勢い良く弾かれ地面を転がる。


「……良かった、お母様は無事みたい」


 背中に深い傷を負っているから無事では無いけれど、お母様なら大丈夫だと信じれる。

だから今は私の出来ることをやらなければ……。


「マリス様!どうしてこっちに来たんですか!?危険ですから離れてください!」

「マリス、この魔族は俺達が何とかするから、君は安全な場所にいて欲しい」


 けど、二人に合流した私に投げかけられるのは、足手まといだという声で、今の私には自分の身を守る術しか無いのを理解しているとは言え、悔しく感じる。

もっと私が大人だったら、以前魔王になってしまった時のように戦う力があったなら、そんな事を考えて、今の無力な自分に泣きそうになるけど、それでも出来る事はある筈……だから。


「大丈夫!お母様から雷魔法の使い方を教えて貰ったから、私も戦える!」


 と強がりを口にしてみるけれど、実際に出来るのは相手を痺れさせて一時的に動けなくさせる事だけ。

そもそも、相手は人ではなく、人の形をした魔族だから、雷の魔法が効くのかどうかが分からない。

お母様の魔法を受けても負傷したのは大蜘蛛だけだったのを考えると、雷に耐性があるのかもしれない。


「……わかりました、けど少しでも危険だと判断したら、私がマリス様を戦場から無理矢理にでも引き剥がし……ます!」

「お願いするよ、さすがにこの魔族相手だと、余裕が無いからね」


 そう言いつつ紙を切るかのように糸を切り裂いていくシルヴァと、重い金属音を上げながら無理矢理断ち切って行くヘルガを見て、二人の実力の差が分かるような気がする。

たぶんだけど、この場で一番戦い馴れているのは間違いなくヘルガで、身の丈以上の大剣を空間魔法を使いながら振るう姿は、とても頼もしく……けれど、何処か捨て身に感じて危なっかしい。

現に振りかぶる時は重さを利用して地面を抉る程の一撃を放つけれど、横に薙ぐ時は少しばかり姿勢が崩れているように見える。


「……ヘルガ、大丈夫なの?」

「えぇ、全然問題……ありま、せんっ!」


 額に大量の汗を浮かべながら大剣を振るう姿は、サラサリズの攻撃を防ぎながらも、息が切れかかっている。

徐々に編み込まれた糸を力任せに両断していた横薙ぎの一振りも、半分くらいまでしか刃が入らなくなってきているようで……


「……シルヴァ王子、あなたの月の魔法を私の大剣に掛ける事って出来ませんか?」

「すまない護衛騎士ヘルガ、今の俺の能力だとそこまでは……」

「そうですか、ならこのままがんばるしか、ない……よう──」

「ヘルガっ!」

「……くっ!うそっ……斬れないっ!」


 戦いの流れが変わったのは一瞬だった。

力任せに振り下ろした大剣が甲高い音と共に上に弾かれ、大勢を崩したヘルガが尻もちを付く。

その隙を逃す事無く、彼女の身体を拘束するとサラサリズの元へゆっくりと引きずられ……


「……あなたも私のお母様になって?私を愛して?私だけを見て、必要として、愛して、ずっと、ずぅっと一緒にいて」

「はな、はなせ!このっ!離せ!」

「……大丈夫、辛いのは少しだけ、あなたは生まれ変わるの、私達が望んだ、欲しがった、愛して欲しいと願ったお母様の一人に、あのね?生み直す中で沢山のお父様が出来たの、けどお母様は増えないの、けどあなたは頑丈そうだから大丈夫、だから、ね?ずっといっしょだよ?」

「くっ!護衛騎士ヘルガ!何とか抵抗して耐えてくれ!その間に俺が何とか……?」


 シルヴァが自身へと迫りくる数えきれない程の糸を切りながら、ヘルガへと向かって走る。

けれど、近づけば近づく程、数が増えていくせいで徐々に前に進めなくなって行く。

そして切り損ねた一本の糸が私の腕に巻き付くと、恐ろしい力で引っ張られバランスを崩す。


「……シルヴィ!」

「マリス様っ!くっ!は、なせぇぇぇ!」


 このままだと以前のように作り直され、私が上書きされてしまうけど……今回はお母様から教えて頂いた雷の魔法がある。

引きずられながら指先に魔力を集めると、教わった通りに雷の魔法へと変えて行く。

そして巻き付いた糸を掴み、サラサリズへと向けて電流を流す。


「……あぁっ!?なんで、どうして、いたい……ひどい!なんで!」


 サラサリズから伸びていた無数の糸が、一瞬で弾け白い霧が発生する。

それと同時に拘束されていたヘルガが地面に着地すると、地面に落ちた大剣を手に持つと全身のバネを使い、勢いを付けながら頭に向かって振り下ろす。


「……許さない、許さない、あなた達……絶対に許さ……」


 愛欲のサラサリズが角を隠す様にかぶっていた独特な形をした帽子が裂け、その中から可愛らしい形をした二本の短い角が現れる。

それと共に、刀身が半分に折れ剣筋がぶれた大剣が魔族の身体を上下に別った。

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