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第46話

 肉が崩れるような、ぐしゃりとした音と共に少女の身体が二つに分かれて、力なく崩れ落ちる。


「……武器が壊れてしまいましたね」

「……え?」

「リバスト護衛騎士隊長に選んで頂いた、大剣がこの通り……折角今まで大事に使って来たのに」


 この状況で武器の心配をするの、ヘルガらしい気がするけど、まだ戦闘中なのを忘れて無いだろうか。

そんな心配が脳裏を過るけれど……


「痛いっ!イタイイタイ!なんで、ナンデ、酷い、どうして」


 ヘルガの足元で、上半身を腕で支えながら恨めしそうに、私達を見る。


「私はただ、生きたかっただけなのに、必要とされたかった、愛されたかっただけなのに、どうして、こんなにひどい事……するの?」

「酷い事って、君がした事を忘れたのかい?人を都合の良いように作り変えて、って酷い言いたいのは俺達の方だよ」

「……なんで?なんでそんなこと言うの?ねぇ、私を愛して?必要として……?生きてるって証拠が欲しいの」


 本来なら赤い血液が地面を濡らして、水たまりを作っている筈なのに、そこには何も無くて、断面からは純白の糸が伸びている。

その姿を見て、人の形をしているけど……やっぱり、別の存在なんだと感じて無意識に数歩後退ってしまう。


「マリス様、この子は使い魔にせずに殺してあげるべきです」

「……ヘルガ?」


 そんな私に気付いたのか、ヘルガが険しい表情を浮かべてこちらへと振り返ると、折れた大剣を力強く握りしめる。


「魔族……いや、この子の眼を見れば分かります、何が悪いのか理解できず、ただ産まれたかった、生きたかった、親を求めて全てを食い尽くし、作り変えてしまう……到底、人に制御出来るものだとは思えません」

「……ほんとにそう思うの?」

「はい、この子は純粋で何も知らないから、危険なんです」

「俺もそれには同意するよ、けど……ここで殺してしまうのは、当初の目的から離れすぎているよ、マリス、君はどうしたいんだい?」

「私は……」


 ヘルガの気持ちを考えたら、確かにここでサラサリズを殺すべきなんだと思う。

けど、シルヴァが私に意見を求めているという事は、こちらの考えを尊重してくれるというわけで、けど……彼の気持ちはヘルガと同じだと思うから、ここで私の意見を通してしまっていいのか。


「なんで、ナンデ、無視するの?ねぇ、見て、私を──」

「……ごめんね?サラサリズちゃん、ちょっとだけ考える時間を貰っていいかしら」


 私を見て苦し気に手を伸ばすサラサリズの口を手で塞ぐ。

たぶんだけど、ここまで弱った彼女なら今の私でも殺す事が出来るだろう。

けど……本当にそれでいいのだろうか、見た目が私よりも幼くて……相手が見た目が似ているだけで、中身は私達とは別の存在だと分かっていても、迷いが生まれる。

ヘルガが言うように、何が悪いのか理解できないのなら、教えてあげる事が出来れば無害になるのでは?、そう思うと目の前で苦しみながら必死に生きたい、愛されたいと願うこの子を救う事が出来るかもしれない。


「私はこの子を使い魔にするわ」

「マリス様……それは、いえ、分かりました」

「うん、俺は君の考えを尊重するよ……」

「ありがとう、後ごめんなさい、二人の気持ちを裏切るような事をしてしまって……」

「……思う事が無いと言えば嘘になりますが、私はマリス様が決めたのならそのご意思を尊重します、だって、いえ……何かしらの考えがあっての事なのでしょう?」


 ヘルガの気持ちを考えたら、今すぐにでもサラサリズの事を殺してしまいたいだろう。

けど、その気持ちを抑えて私の気持ちを尊重してくれた事に、心の中で感謝をしながら、指先に魔力の光を灯すと、宙をなぞるように触れ、何も無い空間に穴を空けると中に手を入れ魔導書を取り出す。

そして、口を塞いでいた手を放して、目の前にいる幼い少女の虹色に輝く眼を見る。


「サラサリズちゃん、あなたさえ良ければ私について来て欲しいのだけれど、良いかしら?」

「……あなたは、私を必要としてくれる?見てくれる……?愛してくれるの?」

「えぇ、私はあなたを必要としてあげるし、見てあげる、それに……出来る範囲で愛してあげる」

「……痛い事しない?あのね?今の私、凄い、すごい、スゴイ、痛いの、苦しいの」

「うん、私はあなたが痛がるような事はしない、苦しい思いもさせない、だから……使い魔契約をして欲しいの」


 使い魔を使役するのに魔力を持った道具を触媒にする必要があるけど、相手は魔族である以上、生半可な道具では契約をする前に壊れてしまうだろう。

だから……色々と私なりに考えてみて、触媒として最も適しているのはこの、【強欲の魔王】が封じられている魔導書しかない。


「……そのご本、懐かしい、優しい匂いがする」

「え?」

「偉大なる魔王様の匂いがする、あのね?わたしね、あなたの事信じる、だから沢山必要として?愛して?ずっと一緒にいてね?」


 安心したように微笑みながらサラサリズが魔導書に触れる。

そして、身体全体が溶けるかのように崩れ落ちると、淡いピンク色に白いレースのついた可愛らしいリボンが私の髪に結ばれた。

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