紫色の髪に淡いピンクの可愛らしいリボンは似合わない気がする……そう思いながら触れていると、凄まじい速度で体内の魔力が減って行くのを感じて眩暈を覚え、その場に膝をつき両腕で倒れないように身体を支える。
「マリス様!?」
「マリス!」
二人の心配するような声が聞こえるけど、今は反応する余裕が無い。
魔族を使い魔にするという代償に失った魔力と足りない分を補う為に、触媒にして消費された大量の血液による倦怠感。
……後少しでも魔力が少なかったら、サラサリズを使役した時点で死んでしまって再び、死に戻りをしていたかもしれない。
そう思うと、お母様やヘルガ達が身を挺して戦ってくれて良かった。
「……おかあ、さまは?」
「アデレード様ですか?、それなら問題ありません……サラサリズの姿が消えた後、襲っていた者達はみな、姿を白い糸へと変えて崩れました」
「あの大きな蜘蛛の死体も同じようになったよ」
「……そう」
お母様が無事なのは安心したけれど、作り替えられてしまった人達が形を失い、その身を白い糸へと変えて崩れてしまったという事は、リバスト達も同じように死体を遺す事無く消えてしまったのだろう。
『パパやママになってくれた人はね?私の魔力供給が切れると、皆死んじゃうの』
そんな私の思考を読んだのか、頭の中で愛欲のサラサリズの声が響く。
彼女の言葉が、事実なら作り変えられた人達にとどめを刺したのは私だ。
その罪悪感から、込み上げてくる不快感があるけど、この子を使い魔にするという決断をした以上、事実を受け止めないといけない、けど…….
「ヘルガ、ごめんなさい……リバスト達が……」
「謝らないでくださいマリス様、私達護衛騎士は、あなた様とアデレード様を守るのが使命です、仮に生きてたとしても自らの意思を失い、守るべき方達に剣を向ける事を知ったら恥じて、その場で自らの首を切り落としていたと思います」
ヘルガはそう言うけれど、他の人達はどう思うだろう。
リバストを慕っていた護衛騎士は沢山いる、そんな彼等の事を考えると、彼女のように割り切れる人は少ない。
だから戻って来た私達を見て、どんな反応をするのだろうかと想像すると、少しだけ怖くなって気が竦み動けなくなりそうになる。
「……マリス、立てるかい?」
「……うん、ありがとうシルヴァ」
心配してくれたのか、シルヴァが立ちやすいように手を差し出してくれる。
その手を取って、ゆっくりと立ちあがると私にだけ聞こえるような声で
「……サラサリズが言っていた魔王の事について、後で教えて貰っていいかい?」
聞いて来るけれど、魔王について教えて欲しいと言われても、私はこの魔導書の中に封じられている【強欲の魔王】がどういう存在か詳しく知らない。
分かる事と言えば、領主の地位を継ぐには、魔導書に封じられている彼女に選ばれなければいけなくて、選ばれた者は死に戻りの力を得るという事だけ。
「……教えてって言われても困るわ、私よりも王族のあなたの方が詳しいんじゃないかしら?」
「そうなら良かったんだけどね、この国の王族は魔王という存在にそこまで詳しくないんだ、だから興味があってね」
「……なら、知らなくていいと思うわ」
知らない事を知りたいって思うのは、シルヴァの性格を考えればしょうがない。
でも、知らなくてもいい事の方が世の中には沢山ある……だから、彼には死に戻りの事を知らないで欲しい。
「そう言われると余計気になるよ、けどその前にここを移動しようか、護衛騎士ヘルガ、君は先頭をお願い出来るかい?」
「ですが、今の私には武器が折れた大剣しかないので……」
「それなら俺が借りている騎士剣を渡すよ」
「いえ、それは私の騎士剣ではないので、受け取れません、アデレード様を運ぶついでに投擲したのを取ってます」
ヘルガが魔力を使い切り、意識を失ったたのか、木に身体を預けたまま動かなくなってお母様へと近づいていく。
その道中で、私達を助ける為に投げた騎士剣を探しているようだけど、見つけた場所にあったのは刀身が欠けて使いものにならない状態になっていたけど、何も言わずに鞘にしまいお母様を背負うと戻って来る。
「ヘルガ、その騎士剣……使えるの?」
「これくらいなら、職人に預ければ治して貰えます……たぶん」
「たぶん?」
「はい、リバストが良く、私の武器の扱いは大変雑らしいので、整備費用が嵩むと愚痴をこぼしていましたから、これくらいなら折れた訳ではないので、直ると思います」
「……それなら、その間武器が必要じゃないかな、護衛騎士ヘルガには道中の護衛を頼みたいからね」
シルヴァが借り物の騎士剣を、ヘルガに渡そうとすると不満そうな顔をしながらお母様を地面にゆっくり下ろすと騎士剣を受け取り、腰のベルトから外した自分の剣を彼に預ける。
「分かりました、そう言う事でしたら受け取りますので、変わりにこれを預かっておいてください、さすがに騎士剣を二本、腰から下げるのは邪魔になるので……、後アデレード様を運ぶのはシルヴァ様とマリス様に任せます」
「それなら、彼女は俺が背負って運ぶよ、マリスは、まだ体調が回復していないだろうからね、歩幅を合わせるから一緒に歩こうか」
「……ありがとう」
そうしてヘルガを先頭に、お母様を背負ったシルヴァの後ろを着いて行く。
暫くして、無事にジョルジュ達に合流出来た私達は、事の経緯を彼らに伝えるのだった。