経緯を伝えた後、皆がそうでは無かったけど、自分なりに納得をできる答えを出したようで、最初は不満気な表情を浮かべていた護衛騎士達は頷いてくれた。
そうして、野営地へ戻る道中で意識のないお母様をジョルジュ達に預けて、セレスティア王女の護衛をしているアーロの様子を見に行くと…-
「……アーロ様、あなたがいなかったら、わたくし、わたくしは!」
「あぁ、もう、分かりました!分かりましたから離れてください!」
そこには目を覚ました、セレスティア王女に抱き着かれるアーロの姿があった。
どうしてそんな状況になっているのか気になるけど、それよりも野営地の状況に目を奪われる。
傷つき倒れた者や、鋭利な刃物で切り裂かれたテントの数々、そして服を血で濡らしながらも、騎士剣を杖代わりにして、アーロが辛うじて立っている。
「……ねぇそこのあなた、いったい何があったの?」
「マリス様、無事に戻られたのですね……実は、皆様が魔族の探索に行かれた後、暫くして野盗達の襲撃に合いました」
「……野盗の襲撃に?」
「はい、それもただの野盗ではなく、正規の剣術を使って来ましたので、騎士崩れの野盗だったのかもしれません」
騎士崩れの野盗、それってもしかして……シルヴァの護衛をしていた人達かもしれない。
そう思って、彼の方を見ると、どこか思いつめたような顔をして、護衛騎士達を見ていた。
「すまないが、その野盗はどうなったのか教えて貰えるかい?」
「はっ!野盗達は、我々の包囲を突破した後、突然目を覚まし、状況が理解できていない、セレスティア王女を攫おうとテントの方に向かったのですが、アーロが地面に落ちている騎士剣を拾い必死に抵抗をしたおかげで、被害が出ず──」
「そういう事では無くて、彼らがどうなったかを教えて欲しいんだ」
「……そ、それが、我らも何が起きたのか分からず、いきなり身体が崩れたかと思うと、全身を糸に変えて……ですが、彼らが持っていた武器ならこちらに」
護衛騎士の一人が、野盗が使っていた武器をシルヴァに見せる。
すると、何も言わずに無表情で受け取り、何かを調べるかのような仕草を初めて、地中で手の動きが止まり……
「……シルヴァ?」
「これは、俺の護衛達が持っていた剣だ……」
心配になって声を掛けると、シルヴァから掠れたような声で返事が返ってくる。
……つまり、ここに攻めて来た野盗は、サラサリズによって作り変えられた護衛達で、奪われたセレスティア王女を取り戻すために、襲撃しに来たのを、傷だらけになりながらもアーロが守り切ったのだろう。
「……?シルヴァ王子の護衛は亡くなった筈では?」
「それが……」
「言いづらいと思いますので私が、説明します」
「護衛騎士ヘルガ……、気を使わせてしまって申し訳ない、」
「構いません、ここで私が伝えなくても、いずれジョルジュからリバストの事を知り、あの野盗達が何なのか知る事になりますから、それが早いか遅いかの差です」
シルヴァを気遣ったヘルガが、先の戦いで起きた出来事を話して行く。
始めは半信半疑という感じで聞いていた護衛騎士達も、彼女の大剣が折れている事、そして帰りの道中で、ジョルジュから預けられたリバストの騎士剣を見せると、理解ができたようで……。
「……つまり、リバスト護衛騎士隊長はもう」
多くは言葉にしないけれど、愛欲のサラサリズを私の使い魔にする事が出来れば、可能性が低いけれどリバスト達が元に戻る可能性があるかもしれないと、彼らに希望を持たせたのは私だ。
勿論、彼らがもう戻って来ることは無いと、心の何処かで諦めていた人もいたと思う。
「ごめんなさい、私が皆様に希望を持たせるような事を口にしたのに、それを裏切るような事をしてしまって……」
ここにいる、セレスティア王女を守る為に残ってくれた、護衛騎士達に対して謝らないと、だってこの状況を作り出してしまったのは私なのだから……。
ついて来てくれたジョルジュ達は、理解をして受け入れてくれたけど、彼らもそうだとは思わない。
怒りに任せて罵倒されたとしても、許して貰えるまで頭を下げ続けよう。
「マリス様、我々は覚悟が出来ていたので問題ありません、むしろ……ありがとうございます」
「……え?」
私の謝罪を聞いた護衛騎士達が、深々と頭を下げる。
その姿を見て、何が起きたのか分からずに、ヘルガとシルヴァを見てしまうけど、状況を見守るように無言で頷き見つめ返す。
「我ら護衛騎士は、忠誠を誓った主君とそのご家族の命を守るのが責務」
「その我らが命を賭してまで、守るべき尊き方々に対して、剣を向けてしまったのです……」
「たとえそれが、死後に存在を歪められ作り替えられてしまったとはいえ、許されない事です」
「なので……リバスト護衛騎士隊長達も、感謝していると思います」
罵声を浴びせられると思った。
罵倒され、手を出されたとしても受け入れようとも思った……けど、実際に帰って来たのは感謝の言葉で、状況に理解が追い付かないせいか、無意識に数歩、後ろに下がりそうになるけれど、その背中をヘルガが優しく支えて受け止めてくれる。。
「マリス様、これが私達……護衛騎士の相違です、どのような結果になったとしてもあなたは、あなたの選んだ選択を誇ってください」
「ヘルガ……」
「それに、主君が道を踏み外した時に、その道を正すのが騎士の役目です、その際はしっかりと間違いを指摘しますのでご安心ください」
「……ありがとう」
「礼には及びません……、では私はこれから皆を連れてジョルジュの元へ行き、王都へ向けた旅の再会について相談してきますので、マリス様とシルヴァ様は、頑張ったアーロを労ってあげてください」
ヘルガはそう言葉にすると、深々と頭を下げ他の護衛騎士達を連れてジョルジュのもとへと向かって歩き出す。
その姿を見送った私達は、誇らしげな顔で私を見て笑うアーロと心配げに彼を気遣うセレスティアに近づき、微笑みかけた