アーロ達と合流した後、小屋に戻り怪我の手当てをする事にしたけど……思いの他、傷は深くない。
「それでね?兄様、この方が野盗に襲われたわたくしを助けてくださったのよ?」
「……それは分かったけど、身体の方は大丈夫なのかい?今まで意思を奪われて奴隷になっていたのだから、無理はしてはいけないよ?」
「それが、奴隷になっていた時の記憶が一切無いので……無理をしてはいけない、身体の方は大丈夫なのかって言われても、反応に困りますわ、だって──」
セレスティアが言うには目を覚ましたら知らない場所にいて、ここは何処なのか調べる為に外に出たら野盗に襲われたらしい。
その時にアーロが、相手に体当たりをして体制を崩した相手から、騎士剣を奪い取ると必死に戦ったそうで……
「アーロ……凄い頑張ったのね、主人として誇らしいわ」
「シルヴァと約束したから……いえ、しましたから、男として一度やると言った事は守らないと」
そう誇らしげに笑う彼を見て、本当に頑張ったんだなって感じる。
けど……アーロがそこまで強いなんて思わなかった……、シルヴァの護衛だった人達だから、ピュルガトワール領の護衛騎士のようにモンスター討伐に特化した騎士とは違い。
彼らは対人戦闘に秀でていた筈なのに、そんな彼らと必死に戦った結果、本人の傷から出た血液よりも返り血により服が汚れている方が多い。
「アーロ、本当に感謝するよ……俺は君のような友に恵まれた事を心から誇らしく思う」
「……そんな事言うなって、俺達は友達だろ?」
「本当に感謝するよ」
従騎士になってから剣の才能があると褒められたと以前、聞いた事があるけれど、ここまで強くなっているなんて思わなかった。
「マリス様、わたくし思うのですけれど、このような優秀な方が、従騎士という立場でいるのは大変勿体ないですわ!ですから……王都に着いたら是非、騎士として叙勲、いえっ!正騎士になるべきですわ!そして私を守る剣になって貰い──」
「セレス、アーロはマリスの騎士だよ、人の臣下を奪うような発言は王族と言えど軽はずみに言うものではないよ」
「ですがお兄様……」
「今は非公式の場だから笑って許して貰えるけど、王族の発言には責任が常に付き纏うから気をつけないと」
「……分かりましたわ、マリス様申し訳ございません」
自分の騎士にしたいと言われた時は驚いたけど、私も同じ立場だったとしたら、襲われあわやという瞬間に助けられ、傷付き返り血を浴びながらも必死に守ってくれたら惹かれてしまうと思う。
特にアーロは荒っぽい口調で損をするところはあるけれど、根はマジメで優しく面倒みが良い。
従騎士になってからは、たどたどしくとも準貴族として恥ずかしくない行動が出来るように、リバストから指導を受けたおかげで、ただの平民だった頃と比べて大分落ち着いた性格になった。
その背景を知らないセレスティアからしたら、とても魅力的な異性に見えるのは仕方のない事……なのかもしれない。
「いえ、セレスティア様の気持ちは分からなくは無いので、気になさらないでください」
「まぁ、セレスティア様だ何て他人行儀な……、マリス様はアーロの主人ですのよ?、言わばあなたもわたくしにとって恩人です、なのでセレスって呼んでくださいまし!」
「……それでしたらセレス、私の事もマリスって呼んでください」
「えぇ、分かりましたわマリス、ふふ……これでわたくし達お友達ねっ!ずぅっとお友達が欲しかったから嬉しいですわ!」
セレスが私の手をぎゅっと握り笑顔を浮かべると、そのまま感極まったのか勢いに任せたかのように抱きしめて来る。
……気持ちは嬉しいけど、人前でいきなりこんなことをされるのは少しばかり気恥ずかしい。
「……悪いねマリス、気を使わせてしまって」
「気にしないでシルヴァ、あなたの妹だもの」
「……?何だかお兄様とマリスの距離感、近くありませんこと?」
「そんな事は無いよ、それよりもアーロ、君は身体の方は大丈夫かい?」
「ん?あ、あぁ……俺の方は問題無いよ、それよりもシルヴァやマリス様の方が大変だったろ?」
心配げにそう答えるアーロの声を聞いて、気を抜くと今にも倒れそうなくらいに疲れている事を身体が思い出したのか。
激しい眩暈に襲われ、セレスに抱きしめられたまま身体の力が抜けてしまう。
「ちょっ、ちょっとマリス!?大丈夫ですの?」
「えぇ、ちょっと気が抜けてしまっただけ……少し休めば大丈夫よ」
「ほ、本当ですわね!?お兄様、アーロ様!マリスを休ませてあげてくださいまし!」
「分かった……りました、マリス様をベッドに運ぶか……ん?」
アーロが、私を支えてくれているセレスの前に背を向けて屈み、背負おうとした時だった。
小屋の扉が激しく叩かれたかと思うと、勢いよく扉が開かれヘルガが入って来る。
「ご歓談のところ、大変失礼致します……マリスさ……ま?」
「あれ?ヘルガさん、どうしたんですか?」
「アーロ、これはどういう状況ですか?」
「どうやらマリス様の疲労が限界に来てしまったようで、今からベッドに運ぼうとしてました」
「そうなの?、マリス様、おやすみになられるところ申し訳ございませんが、今から出発し王都への道を急ぐことになりましたので、馬車の方への移動をよろしくお願いいたします」
王都への道を急ぐ……?まだ日程には余裕がある筈なのになぜ?とは思うけど、心当たりがあるとしたらお母様だろうか。
もしかしたら意識を取り戻して、私達を急いで王都へと送り届けた後に、お父様に連絡をして、リバスト達の事を報告したいのかもしれない。
けど、もしかしたら違うかもしれないから、確認をした方がいいと思い、重い瞼を閉じないように気を強く持ちながら口を開く。
「今から?ヘルガ……それってどういうこと?」
「はい、大変申し上げ辛いのですが……アデレード様の治療を急ぐ為に、急ぎ王都へと向かう事となりました」
「お母様が?うそ……傷は塞いだはずじゃ……」
「えぇ、傷は雷の魔法で焼かれて塞がっておりますが、何分失った血が多く、そして魔力の消費も激しかった為に、生命を維持するだけの魔力しか残されて無いようでして、直ぐにでも然るべき場所で治療を受け安静にして頂かなければ危険な状況です」
その言葉を聞いた瞬間に、遠のきかけていた意識が戻って来る。
そして……話しをしながら背負ってくれたアーロの上で暴れて、強引に下りると外へと向かって走り出そうとして、シルヴァに止められるのだった。