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第2話

 愛欲のサラサリズの出来事から大分月日が経過して、学園への入学が近づいて来た。

それまでの間にあったことはというと、お母様は屋敷に着いた後専属の治癒魔法師による迅速な治療を受けたおかげで、無事に意識を取り戻す事が出来た。


 他にはアーロがセレスティア王女を守った功績が認められて、一時的に領地を離れてお母様の看病をしに来たお父様と、シルヴァとセレスのお母様の支持を受けて、従騎士から晴れて騎士になった。


(お母様、出来そう……?)

「……うん」


 そして私はというと、使い魔にしたサラサリズの力を使えるように、暇な時間があれば庭で訓練をしている。


【リトルレギオン】


 この子の依り代として使った、魔王が封じられている魔導書に新たに記された魔法。

サラサリズの元になった魂達を憑依させ、対象を支配し存在を作り替えることで、自分を愛し、必要としてくれる軍勢を作り出す恐ろしい能力。


「ねぇリズ、これって生きている人にしか使えないの?」

(分かんない、だって私、今まで人にしか使った事がないもの)

「……それなら人形に使うとかは?」


 相手を作り替える際に、白い糸に微弱な電気を流して抵抗を出来なくさせて、洗脳を施すらしいけど、そんな恐ろしい事をしなくても人形を使えばどうだろうか。

そうすれば憑依させた後に、元の人格を有したまま作り替える何て言う歪で、恐ろしい魔法にならない筈。


(だから、こんなにかわいいお人形を沢山用意したの?)

「うん、その方が誰にも被害は出ないでしょ?」

(……私達はそれでもいいけど、浮気は駄目よ?)


 何処か不安げな声に、苦笑いを浮かべつつ魔導書に記されたサラサリズの魔法を使ってみる。

私には複数の魂が無いから、呪術を使う時の要領で自身の血液を魔力に変換して用意した可愛らしい動物を模した人形達の頭に垂らして行く。


「……失敗かしら」


 人形達の動く気配がない。

これは失敗したかもしれない……そう思って、魔法を使うのを止めようとした時だった。


(……だから、浮気は駄目ってサラサリズは言ったよ?)


 頭の中に声が響いたと同時に、頭に着けているリボンから魔力の糸が伸びて人形へと入っていく。

そして何度か脈打つかのように、ビクンっと動いたかと思うと手足を使って器用に立ち上がり、各々が私の意思に反して自由に動き出す。


「マリスお嬢さまぁ!アデレード様が呼んで……うわっ!なんだこれ!」

「……ん?アーロ、どうしたの?」

「どうしたっておまえ、何だよその人形の数?」

「かわいいでしょ?新しく使えるようになった魔法のおかげで、操れるようになったわ」

「なったわって……それぞれが手に武器を持ってるのは怖いぞ……です」


 アーロが引き攣った笑みを浮かべてるけど、そこまで怖い光景だろうか。

それぞれがナイフとフォークを持って素振りをしたり、お互いにぶつけあったりしてるけど、とてもかわいらしいと思う。

産まれることが出来なかったり、幼いうちに亡くなってしまった子達が集まって生まれたサラサリズの特徴なのだろうか。

小さい子がおままごとをしているように見えて、凄い微笑ましく感じてしまう。


「怖がらなくてもいいのに……それで?お母様が呼んでるってどうしたの?」


 そう言いながらアーロの姿を見ると、従騎士の時とは違い立派なサーコートを着ている。

けど……まだ子供だからだろうか、ちょっとだけ似合ってないというか、背伸びをしているように見えて、少しだけ微笑ましい。


「あぁ、学園の入学について、準備が出来ているのか確認したいから、来て欲しいんだってさ」

「準備?一応必要な道具は、ヘルガと一緒に用意したし後はもう明日になったら入学して寮に入るだけよ?」

「分かってるよ、ただ……寮に入ったら俺とヘルガも一緒の部屋だろ?」

「しょうがないわよ、騎士と使用人を一人ずつ学園に連れて行く事は許可されても、別室を用意することは許されてないもの、だってそうでしょ?騎士と使用人は私の財産扱いなんだから」


 学園の寮に連れて行く騎士と使用人は、入学する貴族の子達が唯一、外部から持ち込む事が許された大事な財産だ。

優秀な人材を連れて来ることが出来るという事は、それだけ優れた統治がなされていると判断される。

最初の人生では、私の行いを改めさせるという意味も込めて、評価が下がると分かっていても、お父様とお母様の判断で連れて来ることが出来なかったから、周りからの印象が良くなかった。

でも今回は、ヘルガとアーロがいるから、以前のようにはならない筈。


「それは分かってるけど、俺達の年齢的に変な噂とか立ったりしないか?」

「噂なんて立つわけないじゃない、あなたは使用人の役よ?異性だろうが、使用人相手にあれこれ妄想する方がおかしいのよ」

「それは分かってるけどさ、騎士剣を持ってる使用人って……色々と突っ込まれてめんどうじゃねぇ……ですか?」

「別に使用人だけど自衛の為に剣を持ってますって言えばいいのよ、それに護衛騎士の役はヘルガがいるでしょ?私からしたら戦える人が、二人もついて来てくれるだけでありがたいわ」

「……ならいいけどさ」


 それに……セレスから、何があってもアーロを学園に連れて来て欲しいって言われてるから、仮に変な噂が立つとしたら、私ではなく、セレスとアーロの二人だと思う。

けど、そんな事を言ってしまったら、面倒な事になりそうだから触れないでおこうか。

そう思いながらお母様の元へと向かうのだった。

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