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第3話

 アーロに連れられて、お母様の元へと向かう。

するとそこには思わず目を疑いそうな光景があって、反射的に眼をそらしてしまいそうになる。


「えっと……ヘルガ?」

「マリス様、見ないでください」


 見ないでくださいって言われても、目の前にいるメイド服を着たヘルガを見て、どう言葉にすればいいのか分からない。

これで、似合ってるって言っても良くない気がするし、何をしてるの?って問いただすような事をしたら、恥ずかしい思いをさせてしまうと思う。


「どう?可愛らしいでしょう?ヘルガももう年頃だからね、ジョルジュと婚約して将来貴族の妻になるのなら、一通りの事は出来るようにならないと」

「……お母様、そういう身の回りの世話は使用人がしてくれるんじゃない?」

「そうね、普通の婚姻関係ならそれでいいかもしれないけれど、平民から準貴族になった騎士よ?ピュルガトワール領の騎士が他領の貴族と婚姻する以上、マリウスの評価が落ちないようにしっかりと教育させて貰うわ」

「だからって……」

「マリス……それにあなたもいずれ、自分の臣下の結婚相手を選ぶ必要があるのよ?例えばそこの、騎士になれたのにまだ礼儀作法が出来てないアーロ、この子も平民から準貴族になったけれど、将来的に功績をあげて爵位を授与される可能性があるわ」


 アーロが爵位を得て、準貴族から貴族になる。

……彼の性格的に、貴族位に興味は無いかもしれないけど、もしそうなったら凄い面倒な事になるかもしれない。


「この子が爵位を得て下級貴族になったのなら、自分の意思で婚姻相手を選べばいいわ……」

「んー、俺は別に、準貴族から下級貴族?っていうのになっても、美味しい飯が作れるそれなりの嫁さん貰うから……あ、いえ、大丈夫です」

「……マリス、これから大変だと思うけど、この子は正式にあなたの護衛騎士になったのだから、しっかりと教育しなさい」

「えぇ……善処はするわ」


 アーロの事だから幾ら頑張っても、騎士として恥ずかしくない行いが出来る程度だと思う。

彼が爵位を授与されて、領地を得るような事があったら……余程、優秀な令嬢と婚姻を結ばなければ運営する事すら出来ない気がする。


「アーロの結婚相手を探すってなると、彼の後ろを歩いて支えてくれるタイプじゃないとダメだと思うけど、お母様……学園で見つかるかしら」

「難しいと思うわよ?貴族の子は、計算高い子が多かったり、蝶よ花よと可愛がられて世間知らずになった子が多いわ、そんな大人しく後ろについて来るような子がいたら……それこそ、計算高い子でしょうね」

「俺はどっちかというと、旦那を尻に敷いてくれる子の方が良いんだけど……です」

「そんな子いるわけないじゃない、けどそうね……純粋な貴族では、マリスの求めるような子はいないけど、最近男爵の爵位を得た平民の一族がいるから、その家の子ならおすすめかもね」


 確かにそれなら、アーロと相性が良い可能性があるかもだけど……以前の人生で、そのような人がいたとは聞いた事が無い。


「【フォーチュネイト男爵家】の一人娘、【ヴァネッサ・リリアナ・フォーチュネイト】……この家は商人から貴族になったのだけれど、とても大人しくて、女は男を立てるべきって言う教育を受けて育った子だそうよ?」

「……それなら、確かに条件にあうかも」

「でしょう?確かその子も、今年から学園に通うらしいから機会があったら、アーロと合わせてみなさい」

「えぇ、そうするわ、ありがとうお母様」


 とりあえず、入学式を終えた後に会うような事があったら声を掛けてみよう。

でも……私は上級貴族のピュルガトワール辺境伯の娘で、ヴァネッサさんは下級貴族の男爵家の娘だ。

私から近づいたら、立場的には断れないと思うから……出来れば無理強いはしたくない。


「なんか……俺の意思に反して勝手に話が進んで行く……ます」

「諦めなさいアーロ、この国で護衛騎士になった以上は、自分の意思で結婚相手を探すのは難しくなるわ」

「……ヘルガ姉さん」

「けどピュルガトワール辺境伯はまだ優しい方よ?こうやって真面目に臣下の事を考えて、未来を考えて貰えるからね……特に私とジョルジュの婚約が許されたのも、私達の事を考えてくれているからだもの、だからあなたがそのヴァネッサ嬢に会ってみて、合わないと思ったら素直に言えば大丈夫よ」

「ならいいけどさ」


 確かにお父様なら、そういう気遣いが出来ると思う。

私もアーロの主人である以上、そういうところをしっかりと出来るようにならないといけない。


「なら決まりね……後は、マリスあなたの事になるのだけれどいいかしら?」

「私のことって事は学園の準備に関してですよね?」

「えぇ、ちゃんとシルヴァ王子と親密な関係になる準備は出来ていて?」

「……え?」

「してないようね……」


 お母様が眉間を皺を寄せて私の方を見る。

けど……シルヴァ王子と親密な関係になる準備が出来ているかなんて言われても、そんな事を考えてなかったから、どうすればいいのか分からなくて……


「マリス、私はね?あなたが将来ピュルガトワール領を継がない未来を選んでも別にいいと思ってるわ」

「……え?」

「ほら、私とマリウスは貴族としては珍しい恋愛結婚でしょ?勿論周りから凄い反対されたし辛い思いも沢山したわ、だから……あなたには辛い思いをして欲しくないの」

「でもそれだと、後継ぎが……」

「それくらい気にしないでいいわ、欲を言えばシルヴァ王子に婿養子に来て欲しいけれど、それが無理なら……私はもう子を産めないけれどマリウスに頑張って貰えばいいもの、彼も話せば分かってくれるから安心しなさい」


 お母様はそういうと、椅子から立ち上がって困惑している私の頭を優しく撫でてくれる。

それがなんだか、凄い暖かく感じて思わず抱き着いて気が済むまで甘えてしまった。

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