あの後、お母様と暫くお茶会を楽しんだ。
そして終わり際に、明日から学園に通うのだから、今日はもう早めに休むようにと言われ、湯浴み等を済ませた後、自室に戻りベッドで横になっているうちに、いつの間にか朝になっていた。
「──というわけで、あなた達はファータイル国の貴族としての誇りを持ち、その尊き青き血を汚す事なく、常に正しい行いをするように」
次の日になり、お母様とジョルジュに見送られて学園へと向かった私達は、荷物を寮に置いた後、アーロとヘルガを連れて始業式へと向かった。
けれど、私の記憶では学園長は整えられた白い髭が特徴的で話が長い事で有名な老人だったはず。
けど……そこにいたのは青い髪に吸い込まれそうな翡翠の瞳に、頭に着けた薔薇を模した髪飾りが印象的な話が短い若い女の人で、やり直す前の人生との違いに違和感を覚えてしまう。
「では、次に今年から学園の仲間になる、ファータイル国の第三王子【シルヴァ・グラム・ファータイル】と第三王女【セレスティア・リゼット・ファータイル】様から、ご挨拶を頂きたいと思います」
「……ロザリア学園長、いきなりそのような事を言われても困ります」
「えぇ、わたくし達はこれから学園で切磋琢磨しあう仲間です、それなのに特別扱いをされるのは──」
学園長に名前を呼ばれたシルヴァとセレスが檀上に上がると、困惑した表情を浮かべ抗議を始める。
二人の言う通り、学園では……表面上は身分の差は無く、王族や貴族であれど対等な立場だけれど、実際には上級貴族から下級貴族の間で大きな差があって……でも、これに関しては、もうしょうがないのかもしれない。
「確かにそうかもしれませんね、ですがあなた達は、ファータイル国の王族ですからね、今のうちに人の上に立つ経験をするべきでしょう」
「わかりました、このままでは皆を困惑させてしまいますし、シルヴァ兄様……ここはロザリア学園長様に従いましょう」
「……わかった」
渋々と言った感じで頷くと、何があったのかとざわつき始めた生徒達の前に立ち、シルヴァが入学の挨拶を始める。
周囲が徐々に聞きながら落ち着きを取り戻していくけれど、一度違和感を覚えてしまったせいか……この光景が異様に感じてしまう。
「マリス様?どうなさいましたか?」
「ヘルガ、何でも無いわ」
「それなら良いのですが……」
心配したヘルガが声を掛けてくれるけど、声に出してしまったらいけない気がして、伝えることが出来ない。
もしここで言葉にしてしまったら、何故だか取り返しがつかなくなってしまう気がして……
「──という事で、わたくし達は王族であると共に、この学園において一人の生徒として皆様方と支え合い、共に学び合える仲間でありたいと思いますわ、そうですわよね?お兄様」
「うん、だから気を使わせて貰うかもしれないが、俺達とは友人に接するようにしてくれると助かるよ」
心の中に浮かぶ不安を他所に、話は進んで行って二人の挨拶が終わり、檀上を降りて何処かへと去っていく。
その姿を目で追っているうちに、いつの間にか身体も動いていたようで……気付いたらヘルガ達を生徒達の人ごみ中に置いて来てしまった。
「……学園長はクラウディオさんだった気がするけど、私の間違いかな」
急いで二人の元へと戻ろうとした時だった。
私と同じ疑問を感じた人がいたようで、不思議そうな言葉を漏らす。
驚いて声のした方を振り向くと、そこには陶器のような白い肌と特徴的な純白の白髪に映える血のように真っ赤な瞳の女性がいた。
「あなたも、あなたも……そう思うの?」
「え?あなたは……?」
目が合った瞬間、体に電気が走るような感覚に襲われる。
まるで、私が……いや、私の中にいる何かがこの人の事を知っているかのような。
「あ、まずは自己紹介が先ですね、私はフォーチュネイト男爵家の一人娘、ヴァネッサ・リリアナ・フォーチュネイトです」
この子がお母様の言っていたフォーチュネイト男爵家のヴァネッサ、その所作はたどたどしくも何処か気品があって、違和感を覚える。
「あの……あなたのお名前は?」
「わ、私はピュルガトワール辺境伯……マリウス・ルイ・ピュルガトワールの娘、マリス・シルヴィ・ピュルガトワールよ、よろしくねヴァネッサさん」
「……へぇ、あなたが」
「え?」
「いえ、何でも無いの、よろしくお願いいたしますわ、マリスさん」
私の名前を呼びながら、不慣れそうにスカートをたくし上げながらお辞儀をする彼女を見て、感じた違和感は考え過ぎだったのかもしれないと反省する。
学園長が変わっていたせいで、過敏になっていたのかもしれない。
「こちらこそよろしくね?ヴァネッサ、私の事は気安値なく呼び捨てにして貰って構わないわ」
「そう……?ならマリスって呼ぶね」
「えぇ、それでいいわ……ところで、ヴァネッサ、あなたも学園長について違和感を覚えたのよね?」
「マリスもそうなの?私も──」
「あなた達、クラウディオ学園長は少し前に引退して、遠い血縁の学園から海外に派遣され、学者として活動をしていたロザリア様が新たに就任したのを知らないの?」
私達の話に、水色の髪に赤い瞳を持った可愛らしい女の子が、口を挟んで来る。
その瞳はどこか人を小馬鹿にしているように見えて、返事に詰まってしまった。