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第6話

 あの後、ロザリア学園長の指示の元、駆け付けてきた教師達により、一連の騒動はこれ以上大きくならずに入学式は終わりを告げた。

けれど、その際に


「貴族の癖にいい子のフリなんかしちゃって、あなたもどうせ私達を同じように見ているんでしょ?」

「ツィオーネ、止めるんだ……彼女は善意で声を荒げようとしてくれたんだから、失礼な態度はとってはいけないよ」

「……お兄様」

「ちゃんと謝罪しようか」

「……ごめんなさい」


 と兄のネーヴェに優しく諭され、不服そうな表情を浮かべながらツィオーネが謝罪をした後、ロザリア学園長に連れられて何処かに行ってしまった。


「……マリス?あなた、貴族至上主義を掲げる派閥とは交流をしないように言ったのを忘れたのかしら?」

「忘れてはいないわ、けど……」


 そして私はというと入学式の後、保護者として同伴してくれたお母様に寮の部屋でお叱りを受けている。

どうして、アリステア家の庶子と関係を持ってしまったのか、予め言った事を忘れたのか。

……本来なら、無視をすれば良かった、けどあの状況で、彼女に冷たい態度を取ってしまったら、見ているだけで何もしようとしなかった人達と同じになってしまうような気がして嫌だった。


「──けどまぁいいわ、マリウスも学園にいた頃は同じような事をしたもの」

「……お父様が?」

「えぇ、私達が学園にいた頃、当時のピュルガトワール辺境伯……そうね、あなたからしたらお婆様にあたる方は、貴族至上主義を掲げていたわ……けどね、マリウスはその考えに疑問を持っていたの、懐かしいわね、そう、そう言えばこんなことも──」


 まるで私と同じ年頃の女の子がするような表情を浮かべて、当時の事を語り出すお母様を見て、あぁ……本当にこの人はお父様の事を心から愛しているんだと感じて、思わず笑みがこぼれる。


「──でね?私が平民主義の子達と意見がぶつかり合って、取り返しがつかなくなりそうな時にマリウスがかばって守ってくれたのよ?その姿に惹かれて、一緒に居るうちにお互いに思い合うようになって、自然と交際を始めることになったのよ」

「……うん」

「だからね?表面上は関わるなとは言うけれど、学園で様々な子達と交流を持ってあなたの派閥を作ればいいわ、例えそうが平民主義や貴族至上主義であろうと、様々意見、価値観を知って成長していきなさい」

「お母様……?」

「これは死に戻りの力だけでは得ることが出来ない大切なものよ?若い内に色んな経験をして、大人になったら私みたいに道を間違えたりする親にならないよう、支えてくれる友人を増やしなさい」


 そう言いながら優しく頭を撫でてくれるお母様を見て、暖かい気持ちになる。

以前の私と違って、今は周りに理解をしてくれる人がいる、それがただただ嬉しくて……。


「あぁ、後……帰る前に一つ相談なのだけれど、フォーチュネイト男爵家が最近、新しい化粧品を開発したらしいの、だから……あなたのお友達になったヴァネッサ嬢ともっと親しくなれたら、屋敷に送って貰えると嬉しいわ」

「化粧品って、お母様はまだ若いと思うけど……」

「あなたはまだ分からないと思うけれど、歳を取ったら色々と気を遣うの、まぁ……大人になったら分かるわ」


 以前の人生では、親子の会話があんまり出来なかったから……こうやって色んな話をする事が出来るのか、素直に嬉しい。


「さて……私はそろそろ屋敷に帰るわね、……次にあなたに会えるのは夏季の長期休校頃かしら、良い出会いと素晴らしき学びがある事を祈っているから、出来る限り色んな事に頑張ってみなさい?」

「えぇ、私なりに頑張ってみるわ」

「そうしなさい、ただ……何かがあったらヘルガと、まだ頼りないけれどアーロに相談するように」


 そう言葉に残すとお母様が部屋から出て行き、屋敷の部屋と比べたら少しだけ狭い室内に一人取り残される。

中には使用人と護衛騎士が使う為の部屋もあるけれど、これがあるのは私のような上級貴族だけで、以前の人生ではシルヴァ以外には親しい相手もおらず寂しい時間を過ごしていた。

けど今の人生では、アーロやヘルガがいるし、シルヴァ達もいる。


「……ツィオーネとネーヴェ、ね」


 こんなにも満たされていて良いのかと思うけど、今はそれよりもアリステア侯爵家の庶子として生まれた二人の事が気になる。

以前では出会う事が無かったけれど、今はロザリア学園長の推薦という形で学園に来た双子の兄妹、無意識に惹かれ、眼を奪われてしまうほどに美しい容姿。


「……大丈夫かしら」


 もちろん、見た目の美しさで気になっているわけじゃない。

庶子だから、特別扱いしているわけでもない……お互いに名前を教え合って、少ない時間でも交流を持った相手だから、あの二人が酷い目に合うような事があったら力になりたいと思う。

後はヴァネッサとも仲良くなって行きたい……アーロの奥さんになるかもしれない人っていうのもあるけど、私と同じようにロザリア学園長に違和感を覚えた彼女なら、お互いに情報を共有し合える関係になれるかもしれない。


「……以前の人生とは違って、学園でやる事が沢山ありそうね」


 そう一人呟きながら、すっかり冷めてしまった紅茶を口に運ぶと、学園生活についての必要な書類を取りに行ってくれているアーロとヘルガの帰りを待つのだった。

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