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第7話

 二人が戻ってくるのを暫く待っていたけれど、何故だか一人で居るのが退屈で……


「ちょっとだけ、歩こうかしら」


 そう一人で、誰に聞かせるわけでもなく呟くと、書き置きを残して部屋を出た。


「……懐かしいわね」


 以前の人生でも通った学園の中は、記憶と変わらないままで、どこか懐かしい気持ちになりながら、何かに誘われるかのように中庭へと足を運ぶ。

そしてベンチに腰を掛けると、色とりどりの花が咲く花壇を眺めて小さく息を吐く。


「いつ見てもここは綺麗ね」


 夕焼けの光でオレンジ色に染まる視界の中で、今日あった出来事を振り返るけれど……ヴァネッサに、ツィオーネとネーヴェ、それにロザリア学園長。

記憶にない人達が今回の人生ではそこにいて、いる筈の人がいなくなっている。

この事に違和感を感じるけれど、周りが受け入れているのを見ると、もしかしたら……私の方がおかしいのかもしれない。


「……それともセレスティアを助ける事が出来たおかげで、何かが変わったの?」


 そんな考えが一瞬脳裏を過ぎるけれど、彼女を助ける事ができたおかげでシルヴァの事を以前よりも知る事が出来た。

でも、それで本来生きている筈の人が亡くなってしまったのだとしたら、死に戻りの影響は私が思っている以上に大きいのかもしれない。


「お婆様やお父様は、どうやって……この能力を使ったのかな」


 あんまり人の死因を見るのは良くない気がするけど、腰のベルトに付けられるように、王都の職人に特注で作って貰ったブックホルスターから、魔導書を取り出してページを開く。


【領地の不作による飢餓で発生した、領民の死を乗り越える為に専門知識を得て投身】

【息子が風邪を引いて熱を出した為、薬を予め用意する為に溺死】

【自分の進めた相手と息子が結婚しなかったから、政略結婚を成功させる為に数えきれない回数の自害】

【未来の出来事を予め知り、領民の信用を得るために焼死】


 お父様の死因は、行方不明になったお姉様を探す為に危険な場所へと赴いて命を落としたくらいだったけど、お婆様は……異常だ。

お母様との結婚を止める為に、何度も何度も数えきれない程の回数、自分の命を捨てている。

まるで死に戻りをする事が、息をするのと同じだと言う程に……


「──ヴィ」


 だから、お父様が領主になった時に、お婆様は屋敷を出て行ってしまったのかもしれない。

それに……私がまだ小さかった頃に一度だけ会ったことがあるけれど、感情が感じられない程に冷たい瞳で見つめらた後


【……あなたなんて、生まれなければよかったのに】


 という無慈悲な言葉で突き放されたのを思い出して、あの時はまだその言葉の意味が分からなくて、気にならなかったけど……理解してしまったせいで胸が苦しくなる。


「──ルヴィ?、そんな暗い表情をしてどうしたんだい?」

「……え?」


 考え事をし過ぎていたせいで、人が近くにいる事に気付かなかった。

いったい何時から声を掛けてくれていたのだろうか、少しだけ申し訳ない気持ちになりながら魔導書を閉じて顔をあげると……そこには心配げな表情を浮かべたシルヴァがいて


「……シルヴァ?何時からそこにいたの?」

「いつからってシルヴィが、本を開き始める前からかな」

「それならもっと早く声を掛けてくれれば良かったのに……」

「そうしようとは思ったけどね、あまりにも夕日に照らされる姿が美しかったからタイミングを逃してしまったよ」


 平然した表情で言葉にするシルヴァに、気恥ずかしさを覚えて思わず俯いてしまう。

以前も今も、こういう事を素直に口にしてくれるのは嬉しいけど、出来れば……もっと親密な関係になってからにして欲しい。

だって、そうじゃないと……彼と私の間で悪い噂が立って、迷惑を掛けてしまうかもしれないから……。


「ところでシルヴィ、入学式で問題に巻き込まれたらしいけど……大丈夫かい?」

「……え?」

「俺とセレスティアはあの後、これ以上面倒事に巻き込まれない為に寮の部屋に戻ったせいで、その場にいる事が出来なくてごめん」

「シルヴァのせいじゃ……」

「確かに俺のせいじゃないかもしれないけど、大切な人……いや、友人が辛い目にあっているのに側に居られなかったのは、素直に心が苦しいよ」


 隣に座りながら言葉にするシルヴァを見て、心配させてしまった事に申し訳ない気持ちになる。


「アリステア侯爵家の婚外子に、フォーチュネイト男爵家のヴァネッサ嬢、それに……記憶に無いロザリア学園長」

「……え?」

「どうやらその反応を見るに、どうやらシルヴィも違和感を覚えたみたいだね」

「という事は、シルヴァも?」


 私の神妙な面持ちで頷くと、懐から小さなベルを取り出して鳴らし始める。

すると……日が暮れて夜の帳が降り始め、灯りの魔法が付与された外灯により幻想的な空間へと変わり始めた中庭に静寂が訪れ、周囲の音が何も聞こえなくなった。


「……何をしたの?」

「少しばかり、周りに聞かれたくない話をするからね、盗聴防止の魔導具を使わせて貰ったよ」

「ロザリア学園長の事ってそんなに、大事な話なの?」

「……それも含めて色々と話をするよ、その為に俺の護衛に頼んで人払いを頼んでおいたからね」


 ……人が来ないって分かってたから、ずっと私のことをシルヴィって呼んでいたのね。

そう思いながら頷くと、シルヴァの話を聞く為に彼の顔を見つめて静かに頷いた。

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