「……へぇ、そんな面白そうな事があったのですわねぇ」
「学園の生徒達がそんな事を……」
話を聞いた二人が、それぞれ違った反応をする。
興味有り気な素振りをしながらも、どこか冷ややかな声で遠くを見るセレス、そして申し訳なさそうに私を見るシルヴァ。
彼の事だから、学園で起きた事に関して王族という立場から責任を感じているのだろう。
「んー、けど変ですわね、昨日そんな騒ぎがあったという話は聞いていませんわよ?」
「……え?」
「だって、王族であるわたくしとお兄様は、学園の生徒ではありますけれど……ある程度の権限は持ち合わせてはいますので、直ぐに耳に入りますわよ?」
セレスの言う事が事実だとしたら、昨日のあれはいったい……ツィオーネが嘘をついているようには見えなかった。
それに……血相を変えて、部屋に駆け込んで来たネーヴェの姿を見たら、彼女から聞いた話は事実だとしか思えない。
「セレスが聞いてなかったとしても、私はツィオーネから聞いた話は事実だと思う」
「んー、マリス様がそう仰るのでしたら、わたくしは信じますけれど、お兄様はどう思います?」
「俺もマリスが信じるなら、信じたいって言うべきなんだろうけど……そうだね」
シルヴァが胸ポケットから、懐中時計を取り出して時間を確認する椅子から立ち上がる。
「ただ無条件に信じるって言われても、君の性格だと納得するのが難しいだろうから、今から寮を周って聞き込みをしてみるかい?」
「……いいの?」
「構わないさ、登校まで時間がまだあるからね、それに……散歩ついでに話を聞くのも良いと思ってね」
「あら?それなら、わたくしはお邪魔かもしれないから、アーロ様とお話でもしてましょうか?お兄様とマリス様の逢瀬を邪魔する訳にはいきませんし」
「逢瀬って、セレス……あなた何を言ってるの?」
私の問いに、セレス何を言っているのか分からないと言いたげな顔をして
「だって、マリス様は将来お兄様と婚約して、わたくしのお姉様になるのでしょう?」
「……え?」
「セレスティア、いったい何を言ってるんだい?」
「何をって、二人の姿を見たら分かりますわよ?昨日も態々護衛を使って人払いをしてまで、お会いしてましたし……あ、もしかして、わたくしが知らないと思ってらしたの?」
と楽し気に目を細め、私とシルヴァを交互に見る姿を見て、どうして昨日の事を知っているのだろうか……そんな疑問が脳裏を過ぎる。
「……シルヴァ、人払いとかしてくれてたんじゃなかったの?」
「あぁ、うん……その筈だったんだけどね」
「わたくしとお兄様は同じ部屋を使っておりますから、護衛も同じですもの……お兄様が護衛を引き連れて何処かに行ったら、気になって聞くでしょう?」
「……マリス、ごめん」
セレスの事だから、護衛が答えるまで強引に聞いたのかもしれない。
だってアーロが従騎士から騎士になった後、彼女に釣り合う爵位が得られるように協力して欲しいと手紙を送って来たくらいだから、それくらいはするだろう。
「気にして無いわ……だって、セレスだもの」
「なんか妙にトゲがあるような言い方ですわね……」
「まぁ、妹らしいとは俺も思うよ」
「お兄様まで!?」
立ち上がって心外だと言わんばかりの声を出す彼女を見て、シルヴァと二人で笑うと、彼の手を取って椅子から立ち上がる。
「あなたの気遣いと、何で知ってるのかは分かったけれど……大丈夫よ、一緒に行きましょうか」
「……あら?本当に良いの?」
「えぇ、ただそうね……私達だけだと余計な心配を周りに掛けてしまうかもしれないから、アーロも連れて行きましょうか」
「アーロ様も!?それなら、わたくしも喜んで同行させて頂きますわ!」
彼女の言葉を聞いて、返事をする変わりに頷くと扉へと向かって歩いて行くと、ドアノブを回してゆっくりと開き。
「アーロ、私達は今から部屋を出て、昨日の事について調べに行くからあなたもついて来てちょうだい」
「……え?俺も?」
「えぇ、あなたがいないと、セレスが余計な気遣いをしてしまうもの……あなたからしたら気まずいとは思うけど、力を貸してちょうだい」
「……わかりました」
セレスに聞こえないように囁くようにアーロへと伝えると、渋々ながらも頷いてくれる。
けど、彼からしたら主人からお願いされるという、とても断わりづらい提案だったと思うから、後でご褒美にアーロのやりたい事をやらせてあげようかな。
「マリス様……私はどうしますか?」
「そうね、ヘルガには雑用を頼んでしまうのだけれど、戻って来たらいつでも学園に行けるように必要な物を運んでおいて貰ってもいいかしら?」
「……承知いたしました、それなら私の方でシルヴァ様達の部屋にも赴き、お二人の必要な物も運んでおきます」
「……いいの?」
「はい、これくらいの事は察して先に動くのも、騎士の努めですから」
ヘルガの気遣いに小声でお礼を言うと、アーロを連れて何も言わずに待ってくれている二人の元へと戻り笑顔を浮かべると
「待たせて悪かったわね、アーロもセレスと是非ご一緒したいらしいわよ?」
「まぁ!?それは凄い嬉しいですわ!」
「お、おぅ……よろしくな、いえ、お願いします」
「ふふ……では、手を繋ぎましょうか、わたくしの運命の騎士様?」
「ちょ!俺はマリス様の護衛だって!待てって!」
眩しい程の笑顔を浮かべたセレスが、強引にアーロの手を取ると私達を置いて部屋から出て行ってしまう。
その姿を見て思わずシルヴァと何も言わずに見つめ合うと、小さく笑って足早に追いかけるのだった。