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第20話

 寮内を回って、通路にいる生徒達に聞き込みをして見るけれど……


「んー、その事は知らないけど、昨晩からぼくの友達がいなくてさ……」

「あ、おまえも?俺もさぁ、登校時間までに借りた本を返そうって思って、さっき部屋に行ったんだけど、昨日から帰って来てないみたいで、従者が困っててさ」

「……へぇ、そうですのねぇ」

「えぇ、そうなんですよセレスティア様、だからもう心配で……」


 人と話のが好きなセレスティアのおかげで、色んな人達から話を聞く事が出来たけど、昨晩から数人の生徒達が行方不明になっているという内容ばかりで、ツィオーネとネーヴェに関する事は一つとして出て来ない。


「……おかしいわね」

「マリス様?」

「昨晩の事を覚えている人と覚えていない人で分かれてるの、なんか変だと思わない?」

「確かにそうだね、前者はともかく……後者に関しては、共通して同じ事しか言わないのはおかしいとは思う」


 シルヴァも同じように違和感を感じているようで、周囲に聞こえないように声を抑えながら賛同してくれる。


「あぁ、確かにそうだ……ですね、覚えてない人達が皆、友人がいなくなったって言ってる、ますよね」

「けど皆、ネーヴェとツィオーネの事を覚えていない……何だか、作為的なものを感じるね」

「作為的って……どういうこと?」

「んー、これは俺の想像でしかないんだけど、もしかしたら魔法でその場にいた人達の記憶を消したとか?」


 シルヴァの言うように、昨晩ツィオーネとネーヴェに起きた事件の場にいた人達の記憶が消されたというのが事実だとしたら、誰がいったい……何の為にそんな事をしたのだろうか。

覚えていられたら困るような事がその場で起きたのか、それとも──


「……ツィオーネとネーヴェを守る為に、記憶を消した?」

「守る為って、どういう事ですの?」


 思わず考えている事が口から出てしまう。

すると、聞き込みが終わったセレスが、少しだけ疲れた顔で戻って来て、不思議そうな顔で聞き返して来たけど、何で答えればいいのか分からずに言葉に詰まる。


「えっと……」

「マリス様?」

「ちょっと、言葉を頭の中で整理するから待って貰えるかしら」

「んー、別に構いませんけど、それなら場所を変えませんこと?通路で話し込んでいると、他の方が気にしてしまいますわよ?」


 確かに早朝から四人で通路の隅に固まって話していると、周囲の注目を集めてしまう気がする。

現に、先程から私達に気付いた生徒達が、セレスに挨拶をしようと近付いては、彼女が挨拶代わりに笑顔で手を振って去っていく。

今はまだそれで何とかなってはいるけれど、登校時間が近づいて人が増えて来たらセレスだけでは対処が出来なくなるだろう。


「……そうね、それならどこに移動しましょうか」

「んーだったら、中庭で……はダメか、逆に俺やセレスが早朝から中庭に居たら目立つ、じゃあ……」

「こういう時に、人があんまり来ない場所があったらいいのですけど……アーロ様は何処かいいところとか、知りませんか?」

「ん?あぁ……そう、ですね、ここは上級貴族用の階層だから、下の階に降りるとかはどうですか?」

「それだと、もっと周囲の注目を集めてしまうんじゃないかな……」


 とはいえ、場所を変えようにも……少しずつ部屋から出る生徒達が増えて来ている状況で、私の部屋にシルヴァとセレスを入れるわけにはいかないし、二人が使っている王族用の部屋に入るのも良くない。


「……わたくし達の部屋にって考えては見ましたけれど、マリス様はわたくしのお姉様になるのだから良いとして、アーロ様を入れたとなると面倒な事になりますわね」

「セレス、いつ誰が通るか分からない現状で、軽はずみにそんな事を言うのは良くないよ……でもそうだね、マリスの従者とはいえ騎士である以上、立派な準貴族だからね、」

「あぁ……なら、おれ……いや、私は部屋に帰りましょうか?それならマリス様がセレスティア様達の部屋に行けると思う、ますし」

「それはわたくしが嫌ですわ、滅多にアーロ様とお話が出来ませんのに……」

「アーロ……そう言う事だから、戻らないで大丈夫よ?」


 セレスの機嫌を損ねるような事をしたら、聞き込みが上手く行かなくなるかもしれない。

そう思うと、アーロには悪いけど側にいてもらわないと困る。


「俺からもお願いするよ、セレスは君の事を気に入ってるみたいだからね」

「わかりました……それなら、とりあえずここから移動しましょう、このままだと目立っちゃうので」

「そうね、とりあえず下の階に行きましょうか……力になってくれそうな人に心当たりがあるわ」

「心当たり?それはどなたですの?」


 これは私の勘でしかないけれど、始業式の際にお互いに名乗り合って友人となったヴァネッサ・リリアナ・フォーチュネイト、彼女なら力になってくれるかもしれない。


「……フォーチュネイト男爵家のヴァネッサよ、始業式の際にお友達になったの、彼女なら力になってくれるんじゃないかしら」

「あぁ、確かアデレード様が仲良くなるように言ってた子でしたよね」

「なるほど、そう言う事なら頼るのも良いかもしれないね」

「フォーチュネイト男爵家の、わたくしも是非仲良くなりたいですわ!」


 セレスの仲良くなりたいは、化粧箱が欲しいって事だと思うけど……行く場所が決まった以上、ここから早く移動をした方がいい。

私達は静かに頷くと、急いでヴァネッサの部屋へと向かうのだった。

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