目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第23話

「悪いわね、掃除して貰っちゃって……」

「私達が突然、連絡も無しに訪ねて来たのだもの、これくらいはして当然よ」

「へぇ……マリスさんって、結構良いひとぉ……なのね、あなたとはもぉっと親しくなれそうねぇ」


 特徴的な赤い目を細めて笑みを浮かべるヴァネッサを見て、余りの美しさに引き込まれそうになる。


「さ、お茶を用意したから座って?部屋の掃除もしてくれたから、特別にフォーチュネイト男爵領で取れた特別な茶葉を使ったの、あなた達の好みに合うと嬉しいかな」

「……それは、ヴァネッサ嬢、気を使わせてしまい申し訳ない」

「あら?シルヴァ王子が謝る必要何て何も無いの、私はただ皆の働きに応えてあげたいだけ、だって……」

「だって?」

「私の怠惰で、掃除を怠っていたのが悪いんですもの、本来ならいつ誰が来ても恥ずかしくないように、部屋を綺麗にしておくのが貴族じゃなぁい?」


 確かに、貴族である以上、いつ誰が尋ねて来るか分からないのは確かだ。

特に下級貴族となると、学園にいる間に独自の派閥を作る事で、自分達の身を守る必要がある。

そうしなければ、自分よりも身分の高い方達の前では無力だから……


「あぁ……それなら、何で部屋を汚したままにしてんだ……です?」

「あら?部屋に入れる前に言ったでしょう?化粧箱の浄化をしてたって」

「……あの、ヴァネッサさん?化粧箱の浄化っていったい何なんですの?」

「なぁに?ってそれは、あなた達が片してくれた瓶の中に、黒いすすのような物が溜まってたでしょ?これを綺麗にするの……まぁ、詳しく知りたいなら座って?」


 テーブルの上にティーカップを置くと、ヴァネッサに促されるままにそれぞれが椅子へと腰かける。

確かに化粧箱の事は気になるけれど、今はそれよりもここに来た事に関してを説明した方がいい。

このままだと、彼女のペースに飲まれて話が出来なくなりそうな気がする。


「……確かに気になるけど、私達がここに来た理由を話してもいいかしら?」

「あぁ、あなた達を持て成そうって言う気持ちが先走って、しまってたわ……ごめんなさい……それでぇ、どういう用件で私のところまで来たのぉ?」

「それは──」


 椅子に座ると、興味が無さげな仕草で私達を見ているヴァネッサに、何があったのか話せる範囲で伝えてみる。

すると細めていた目が、ゆっくりと見開かれ……


「……そう言えば昨日、アリステア侯爵家のツィオーネとネーヴェが酷い目にあってたわね」


 と微かに聞こえるような声で小さく呟く。


「ヴァネッサ嬢……それは本当かい?」

「えぇ、その時近くにいたもの、けど変ねぇ……どうしてだぁれもなぁんも覚えてないのかしら」

「……そうですわね」


 近くにヴァネッサがいて、他の人達が覚えていない事を覚えている。

その事実に、どこか……不気味さを感じるけど、今は少しでも情報が欲しい。


「ヴァネッサ……あなたは、側にいたのに友人を……ツィオーネを助けようとしなかったの?」

「助けようとしたわ、後を追って……ツィオーネが部屋に連れ込まれたのを見て、咄嗟に中に入ったら、彼女に乱暴をしようとしているのを見えて、私も……」

「……まじかよ」

「ヴァネッサ嬢、辛い事を思い出させてしまったすまない……これ以上は無理に話さないでも──」

「いいえ、全て話すわ……けど、その前に私の用意したお茶を飲んで?冷めてしまうとまずくなってしまうわ?」


 話に何処か矛盾を感じるけど、確かに……お茶を出して貰って飲まないのは失礼だ。


「確かにそうね……じゃあ、頂くわ」

「えぇ、どうぞ?良かったらお茶菓子も出すわよ?」

「気持ちだけ受け取っておくわ……あら、美味しいわね」


 上品な甘みと爽やかな後味……そして華やかに広がる香りが、口内から全身へと広がり、心と身体を満たしていく。


「……あら、素敵な香りですわね」

「そうね、じゃあ話を続け……あれ?」

「マリス、どうしたんだい?」

「いえ……なんでも、ないわ」


 さっきまで誰かを疑っていたような、不気味さを感じていたような……それに何かに矛盾を感じていたような気がするけど、思い出す事が出来ない。

あぁ……でも、思い出せないって事はどうでもいい内容だったのかもしれないから、今は話を続けよう。


「気に入って貰えたようで良かったわ、それでね……二人で必死に抵抗して、何とかツィオーネだけ逃がす事が出来たのだけれど、変わりに私が……ね、ここから先は分かるでしょう?」

「……そうね、けどあなたのおかげでツィオーネが助かって良かったわ」

「私も、お友達を助けられて良かったわぁ……けど、変ねどうして誰も覚えてないのかしらねぇ」

「あのさ……ですけど、もしかしたら誰かが魔法で目撃者の記憶を消したとかってないっす、ですか?」

「そうね、私も同じ事を考えてたわぁ」


 その仮説が事実だとしたら、周囲の記憶を消す理由は何だろう。

もしかして……生徒を守ろうとした?それとも、被害にあったツィオーネ達を守る為だろうか。

考えれば考える程、答えが良く分からない。


「……嫌な感じがするわね」

「そうね……あのね?マリス、あなたさえ良ければこの件、私も協力させて貰っていい?」

「……協力?ヴァネッサさえ良ければ是非お願いするわ、けど……大丈夫?辛い思いをしただろうから、無理はしないでいいのよ?」

「ふふ、大丈夫よ?だって私達は友人なのでしょう?助け合わうのは当然だし、ここで力を貸さないって言う怠惰な行動はしたくないわ」


 真剣な眼で私達を見るヴァネッサを見て、彼女の事なら信じて良い気がする。

自分が傷つくのを恐れずに、友人を守る事が出来る彼女なら……


「アーロ、シルヴァ、セレス……ヴァネッサに力を貸して貰っても良いかしら」

「えぇ、是非力になって頂きたいですわ!」

「俺も、ヴァネッサ嬢なら信頼できると思う」

「そうだ……ですね、彼女なら大丈夫だと思います」


 三人も同じ考えのようで、私を見ながら頷いてくれる。


「ありがとうヴァネッサ、あなたと友人に慣れて良かったわ」

「ふふ、決まりね……それなら明日から本格的に行動を開始しましょう?」

「えぇ、そうしましょう」


 椅子から立ち上がり、ヴァネッサが右手を差し出して握手を求めるのを見て、反射的に立ちながら彼女の手を握り。


「私達、お友達同士仲良く協力しあいましょうね?」

「えぇ、これからよろしくね?ヴァネッサ」


 と互いに笑顔を浮かべるのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?