教室に着いた私達を見て、生徒達が驚いたような反応をしているけれど、これはもう……手を繋いで入って来たこちら側に問題があると思うからしょうがない。
「アーロ、あなたは後ろにいてくれるかしら?」
「後ろ?あぁ……わかりました」
「何かあったら呼ぶから……その時は頼んだわよ?」
「はい、直ぐに行けるように準備してます」
アーロが私達から離れると、後ろにある従者の為に用意された席へと向かって行く。
「……アーロ様、行ってしまいましたわ」
「そうね」
「従者の彼を貴族の席に座らせるわけにはいかないからね」
ロザリア学園長の計らいで、今年から従者も私達と同じ講義に参加できるようになった。
何でも、従者として恥ずかしくない教養を身に着ける為らしいけれど、アーロが覚えられるだろうか。
彼の事だから、頑張って覚えようとはするとは思うけれど……少しだけ心配になる。
「さて、マリス俺達は何処に座ろうか」
「どこにって、さすがに教室に入ったら別のところに座るわよ?」
「……え?」
「えって……シルヴァあなた、私が常に側に居るわけないでしょ?だって私にはあなた以外にも仲良くしたい人がいるんだから」
「そうですわよ?お兄様も、学園にいる間に味方を増やしておいた方がいいですわよ?」
確かにセレスの言うように、将来この国の王になるのなら学園にいる間に味方を増やしておいた方が良い。
以前の人生では、私以外に頼れる人がいなかった彼の事を考えると……心が痛むけれど、突き放すのも必要だと思う。
「確かに、それもそうだね」
「大丈夫ですわ、お兄様は多少強引なところがあるせいで、勘違いされやすいですけれど……根は素直ですもの、何かあったらわたくしがフォロー致しますから安心して、色んな方達と話してくださいまし」
「そうよ?あなたはちょっと、独りよがりなところがあるから……失敗から学ばないとね?未来の王様?」
「……二人して、示し合わせたかのように辛辣な事を言うね」
「だってねぇ……?わたくしの後ろでマリス様の気持ちを考えようとせずに、あのような事をしているのを見たら、小言の一つや二つ言いたくなるものですわよ?」
確かに私も思うところはあるけれど、セレスが味方に言いたい事を変わりに言ってくれたおかげで、少しだけ安心する。
「ささ、行きますわよお兄様」
「分かった、分かったから背中を押すのは止めてくれないかな」
「ダメですぅ、お兄様はこうやって誰かが背中を押してあげないと、自分から動けないじゃないですか」
「そうね、あなたは結構……人見知りをするタイプだから、若い内に人慣れしておかないとだめよ?」
困ったように笑うシルヴァに手を振りながら、二人と分かれると教室内をゆっくりを見渡してみる。
ツィオーネは何処にいるだろうか、昨日の事があるから……孤立してなければいいのだけれど……
「……いないわね」
あの性格だから、一人でも問題無いとは思うけど、それでも友人が孤立している姿を見たいとは思わない。
「――なのねぇ、可愛そうだから一緒にいてあげようかなぁ」
「いらないわよ別に、それに……同情されてまだ、誰かと一緒にいたくないし」
「ひどぉい、お友達を心配して側に来たのに、悲しくて憂鬱な気持ちになってしまいそう」
「あぁもう!悲しいとか、憂鬱とか何なのもう……勝手にすれば?」
すると、聞き覚えのある声が聞こえて来る。
何をそんなに大きな声で騒いでいるのか気になって、つい見てしまうけれど……
「ヴァネッサ以外には誰もいないのね」
あからさまに避けられていると分かるくらいに、異様な光景がそこに広がっているけれど、ヴァネッサがツィオーネと話しているおかげで、嫌な雰囲気にはなっていない。
きっと……彼女がいなかったら今頃は、私ですら近づくのに一瞬ためらうような状態になっていたかもしれない。
「あらぁ?マリスもツィオーネに会いに来たの?」
「え、えぇ……折角友人になったから、一緒に講義受けようと思って」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、離れたところから二人を見つめている私を見つけたヴァネッサが笑みを浮かべると、大きく手を振って迎え入れてくれる。
「……別に一緒に講義を受ける必要ないでしょ?ぼくは別に孤立してても気にしないし」
少しだけ困ったような、でもどこか嬉しそうな、何とも言えない表情をしたツィオーネを無視して彼女の隣に座り
「バカね、私が気にするのよ……あなたが友人が孤立してる姿を見たい友人がいるものですか」
「……あなたまで、もう勝手にしたら?」
「えぇ、勝手にさせてもらうわ、だって友人だもの」
と言葉にすると、あたらめて周囲を見渡してみる。
ツィオーネが近くにいるのなら、兄のネーヴェも近くにいると思うのだけれど、いくら探しても姿が見えない。
「ねぇ、ツィオーネ、あなたのお兄さんはどうしたの?」
「お兄ちゃ……お兄様なら、やる事があるらしくて今日は別に行動してるけど?」
「……やる事?」
「えぇ、あなた達になら特別に話してあげるけど、私達が学園を卒業した後のコネ作りをしてくれてるの」
「……へぇ」
卒業後のコネ作りは確かに必要だと思うけど、本当に今からやらないといけない事だろうか。
そう思いながら、改めてネーヴェを探してみると……
「へぇ……面白いわね」
シルヴァの隣のに座り、何やら楽しそうに会話をしている二人の姿が視界に入るのだった。