彼の事だから、交流を深めて味方を増やすついでに、ネーヴェの事を気にしてくれたのかもしれない。
学園を卒業した後の居場所を求めるアリステア公爵家の庶子と、王になる為に少しでも味方が欲しいシルヴァ、お互いに目的も噛み合っていると思うから良い組み合わせだと思う。
「……二人とも上手くやってるようね」
「そうねぇ、けど……私的にはあんまり良くないと思うけどぉ?」
「良くないって、お兄様が何かしたってわけ?」
「……良く考えてみたらわかるんじゃなくて?」
ヴァネッサの言いたいことは分かるけど、本人に直接言う必要があるのだろうか。
「ヴァネッサ……それをツィオーネに言うの?」
「えぇ、私は言うわよ?だって友人だもの、変に隠して傷つけて憂鬱な気持ちにさせてしまうくらいなら、直接伝えるわねぇ」
「けど、それなら伝え方があるのではないかしら?」
伝える事が出来なかったせいで、傷つけてしまうくらいなら言った方が良いと言う気持ちも分かる。
けど……
『アリステア侯爵家の庶子が、王子様と仲良さげにしていたら……余計に周囲の反感を買うんじゃなくて?』
と伝える事は私には出来ない。
「ふぅん、つまり……ヴァネッサは、お兄様がシルヴァ王子と仲良くすると、今以上に酷い事になるって言いたいわけ?」
「そうねぇ?」
「マリスはそれを伝えたら、ぼくが更に酷い目にあうかもって心配してるんだ?」
「えぇ……」
「ふふ、バカね……その程度でぼくやお兄様が傷つくことは無いけど?侯爵家にいた時はもっとひどい目にあっていたもの、与えられるのは辛い記憶で、奪われてばかりの日々、それと比べたら何も感じないわ」
……本当に何も感じないのだろうか。
心の痛みに慣れてしまって、分からなくなってしまっているだけが気がするけれど、本人がその事に気付いていない以上、私からとやかく言う事は出来そうに無い。
「ならいいわ、けど……困った事があったら何時でも言うようにね?」
「えぇ、そうするけど……なに?妙に過保護じゃない、そんなにぼくの事が心配?」
「……えぇ、昨日の事を思い出したら気にするのは当然でしょう?」
「友達思いねぇ、そういうところ嫌いじゃないわよ?」
もしかして、私が気にし過ぎなのだろうか。
二人の反応を見てると、思わずそんな気持ちになってしまうけれど……多分、おかしくない筈。
「そう?あぁ……えっと、そういえばヴァネッサ?ちょっとだけ気になる事があるのだけれど、良いかしら?」
「んー?気になる事ってなぁに?」
「あなた……私達より後に学園を出た筈なのに、どうして先についていたの?」
けど、何だか少しだけ気まずくて、咄嗟に話題を変えようとするけれど……さすがに強引すぎた気がする。
「どうしてって……あなた達の隣を普通に歩いて行ったわよ?」
「……え?」
「もしかして……気付いて無かったのぉ?あぁ、でもそうねぇ……仲睦まじく二人で手を握り合ったかと思ったら、あんなに恥ずかしいやり取りをしだすんだもの、自分達の世界に入り込み過ぎて、なぁんにも覚えてないよねぇ?」
「え?なにそれぼく知らない!マリス?いったいシルヴァ王子と何があったの?ぼく的にはそっちの方が気になるんだけど!」
さっきまでの、どうでも良さげな態度は何だったのか、ツィオーネが目を輝かせながら椅子から立ち上がり、近づいて来る。
その姿に思わず気圧されて後ろに下がりそうになるけど、ここで反応をしてしまったら、何かがあったと認める事になる気がして、必死にその場に踏みとどまり。
「あか……気になるって、ただ成り行きでそうなっただけよ」
と口から出た言葉は苦し紛れな言い訳のようで……これだとまるで、どっちにしろ何かがあったと言っているようなものだ。
「ふぅーん、そう……へぇ」
「あぁ、もういいでしょ?それよりももうすぐ先生が来る時間じゃない?静かにしないと」
「あ、逃げたわねぇ……ツィオーネ、どうするぅ?」
「どうするって、面白そうだから暫くはこれをネタに弄ってあげる、あぁ……けどそうだね、もしマリスがシルヴァ王子と婚約したらその時は祝ってあげる」
「そうねぇ、その時は私も化粧箱を沢山あげるわねぇ?」
祝ってあげると言われても、本当に婚約する事になるのかはまだ分からないから、あんまり余計な事を言いたくない。
だけど……以前の人生では、私達が親しい関係になった事を祝ってくれる人がいなかったから、伝える事は出来ないけど嬉しい気持ちになる。
「……そうね、気持ちだけは受け取っておくわ」
「あら、そこで顔を赤らめたらかわいかったのに、ざぁんねぇん」
「残念ってここで私が余計な事を口にしたら、彼に迷惑がかかるでしょ?」
「へぇ……何だかそういう相手を思うことが出来るって良いかもね、ぼくにはお兄様がいるから縁が無いけど、素敵な関係ね」
「だからそんなんじゃないって言って──」
さすがにこれ以上、同じこの話を続けてしまうと……本当にシルヴァに迷惑を掛けてしまうかもしれない。
そう思って二人を止めようとした時だった、教室の扉が開くと気難しそうな雰囲気の講師が中へと入って来るのだった。