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第63話 剣の聖女

 翌日――。

 リーサの父・アルノルトに連れられ、リーサと共に王宮におもむいたオレは、ネクスフェリア王と謁見えっけんすることができた。


 ちなみにフィオナとユリーシャは、リーサの母・アンドレアと共にクラウフェルト邸でお留守番だ。


 オレは、七十絡みの白髪しらが好々爺こうこうやといった感じの王さまの前で片膝をつき、深々と頭を下げた。

 興味津々といった様子の王さまが、長く真っ白なアゴヒゲを撫でながら口を開いた。


「何とまぁ、本当に勇者どのがこの国にやって来るとはのぅ……。いやいや、オーバル王より連絡は受けていたのだが、こうやって目の当たりにするとまた感慨深いな。まさに歴史の一ページ。千年の歴史を感じるぞ」

「恐れ入ります、陛下。ところで、つるぎの聖女用の装備はどちらに?」

「おう、それじゃそれじゃ。では早速、先代勇者カノージンの残した宝箱のところに案内しよう。余もあの宝箱が開くところを見たいと子供のころからずっと思っておったゆえな。亡き父も叶わなかった夢をようやく余が叶えるわけだ。わっはっは」


 ところが、宝箱の中身を知りたかったのは王さまだけじゃなかったらしい。

 重臣たちに貴族たち、各騎士団の高位騎士など、あっという間に人が集まり、ツアーと化した。

 その数、およそ四十人。


 何が起こったかと使用人たちがひそひそ話で見送る中、ぞろぞろぞろぞろと宮殿内を歩いて移動し、最終的に着いたのは、古びた尖塔せんとうの一室だった。


 話によると、この城が建てられた初期も初期に使用していた部屋で、カノージンが娘の結婚式列席のためにこの国を訪れたときに、奥方ともども泊まった部屋らしい。

 さすがに老朽化して危ないため、今では月に一度の掃除日以外誰も入らないとのことだ。


 そうして王さま以下四十人のギャラリーがワクワクしながら見守る中、アッサリと宝箱を開けたオレは、割れんばかりの拍手を浴びながら、中から指輪を取り出した。

 中身はオーバルのときと同じ。金色に輝く指輪が一個、むき出しで入っていただけだ。


「星と羽根だ……」


 剣の聖女用の指輪は、星と羽根を模した精緻せいち意匠いしょうが入っていた。


「この模様、どこかで見たような……。そうか! 剣だ! リーサはオレとの合流前に聖女用の武器を入手していたのか」

「ん。これでしょ?」


 リーサが腰にいた剣を剣帯けんたいから外して見せてくれた。

 つばに掘られた模様が、指輪と全く同じ、星と羽根だ。

 考えてみればあり得る話だ。


 生まれてすぐ神官から託宣たくせんたまわり、以来ずっと剣の聖女として扱われてきたであろうリーサであれば、冒険前に国から聖剣が与えられることは充分に考えられる。

 お偉いさんの娘でもあることだしな。


 オレは周囲の見守る中、片膝立ちの姿勢を取ると、リーサの左手をそっと取った。

 顔を真っ赤にするリーサの薬指にそっと指輪をはめる。

 ユリーシャのとき同様、指輪が一瞬ポワっと光る。


「旦那さま……」


 リーサがまぶしそうに指輪を陽にかざす。

 万雷の拍手のなか振り返ると、重臣たちに隠れるようにして、リーサの父・アルノルトが必死に涙をこらえていた。

 それに気づいた王さまが、オレに向かって可愛くウィンクをする。


「さ、皆の者。野暮はいかんぞ。しばし勇者どのと剣の聖女とを二人きりにしてやろうではないか。では、ごゆるりとくつろがれよ」


 ニコニコしながらさっさと階段を降りていく王さまに続いて、重臣たちも、最後まで抵抗を続けるリーサの父・アルノルトを羽交い絞めにしながら、ぞろぞろと階段を降りて行った。

 これでしばらくリーサと二人っきりだ。

 なんともまぁ、粋な王さまだね。


 三十畳ほどの広さのこの部屋は先代勇者夫妻にあてがわれた部屋だけあって、窓からの眺めも最高だった。

 遥か彼方に、海まで見えるぜ。

 月に一度の清掃もつい数日前に行われたばかりとあって、ベッドメイクもバッチリだ。


「疲れちゃったね、旦那さま」


 リーサは王様から下賜かしされたファー付きの真っ白なマントを取ると、部屋に備えつけのクローゼットにかけた。

 マントには金糸で複雑な紋様もんようが刺しゅうされている。


 ユリーシャもそうだったが、マントは指輪と違って体型や耐久に問題があるので、先代の聖女が着ていた現物を与えることはできない。

 一応この国には先代のマントが残っていて、国の歴史館に飾られてはいるらしいのだが、さすがに千年も経っているので聖衣はボロボロ。そこには歴史的・文化的価値しか存在しない。


 代わりに、王家には勇者カノージンが女神メロディアースより教わった秘密の紋様が受け継がれている。

 これを刺しゅうすることでマントが秘力を得、それぞれの聖女を守り、その能力を増幅させることとなるのだ。


 剣と指輪とマント。

 これでユリーシャに続いてリーサも、聖女の三点セットをコンプリートしたわけだ。


「旦那さま……」


 景色を見ながら感慨かんがいにふけっていたオレの背中に、リーサがピトっと寄り添ってきた。

 振り返ったオレの目に入ったのは、なんと、どエロい格好をしたリーサの姿だった。


 リーサはいつの間にか、さっきまで着ていたいつものギャル制服も脱いで、下着姿になっていたのだ。


 レースたっぷり白のビスチェに白のショーツ、白のガーターベルトに白のストッキングと、全体的に白で統一した一見清楚いっけんせいそなランジェリーセットなのだが、健康的にけて小麦色になったリーサの肌の色にとんでもなく似合っている。

 だが問題はそこじゃない。


「ま、丸見えじゃねぇか……」


 思わずオレの鼻の穴が、サッカーボールが入るんじゃないかってレベルでふんすかと広がる。

 ブラジャーはオープンバスト、ショーツは穴あきで、上も下も丸出しだ。大事なところが、これっぽっちも隠れていない。

 け、け、け、けしからん!! なんてハレンチな!! 


「ほら、旦那さまが好きそうなランジェリーをオーバルで買ったって言ったでしょ? お店の人に相談して頑張って選んでみたんだけど、どうだろ、気に入ってくれるかなぁ……」


 リーサが顔を真っ赤にしつつ、恥ずかしそうに手を後ろに組む。

 モジモジと恥ずかしさに顔を逸らしながらも、オレの反応が気になるのかチラチラこっちを見るリーサの仕草しぐさがまた可愛い。


 ムクっ。ムクムクっ。キュピーーーーン!!


 こらこら、パオーン号、ここは客室だぞ? 一応鍵はかけたけど王宮の中なんだぞ? そんな、ズボンを突き破りそうなほど元気になってどうする! 


「……駄目かなぁ?」

「リィィィィサァァァァァァアアア!!!!」


 オレの反応を知りたくて小首を傾げるリーサを目の当たりにしたオレは、我慢限界、リーサを一気にベッドに押し倒した。

 もう知らん! もう知らん! 知らんからなぁ!!


 そしてオレはケダモノと化した。


 ◇◆◇◆◇


 リーサ相手に散々欲望の種を放出してようやく落ち着きを取り戻したとき、すでに昼を大きく回っていた。


「おい、リーサ。起きろ」

「う、うぅん。旦那さまぁ……」


 むき出しになったリーサの小麦色のお尻を優しくペンペンと叩くと、リーサが寝ぼけ声で反応した。

 ショーツはどっかその辺に転がっているだろ。

 脱がすなら着せるなって話なんだが、まぁそれぞれの格好で楽しむってことだな……オレが!


 ようやくあくび交じりに起き上がったリーサが、のそのそと服を着始める。

 さすがに替えの下着は持ってきていないようで、例のハレンチランジェリーの上にギャル制服を着ている。

 マントを羽織はおるからいいものの、それがない状態で風にでも吹かれたら、ミニのスカートがめくれて大惨事になりそうだ。


 準備が終わっていざ部屋を出ようとしたオレは、ふと、室内に漂う濃い臭いに気がついた。

 同時に気づいたリーサと、思わず顔を見合わせる。

 ヤバい! 部屋に臭いが充満しちまっているじゃねぇか。シーツなんか、色が変わっているのがひと目でわかるほどあちこちぐしょぐしょに濡れている。


 慌てて部屋の換気をしたオレは、汚れたシーツを無造作に丸めると、真っ赤な顔をしたリーサの手を引きつつ一階まで降りた。

 リネン室にいた洗濯係に金と汚れたシーツを押しつける。


 まるでラブホテルからそそくさと出るカップルのように王宮裏口から出ようとしたオレたちを、衛兵の一人が呼び止めた。

 心臓が飛び出るかと思うくらい動揺どうようしながら振り向くと、二十歳そこそこといった感じの若い衛兵が、何やら言いにくそうにしている。


 「あの……お若いですし、お綺麗な奥方さまなので興奮なさるのは分かるのですが、次からは少々控えめにお願いします。あそこは塔の天辺てっぺんですので、その……あまり大きな声を出されると周囲に丸聞こえになると申しますか……。えー、奥方さまの声が」

「!!!!!!!」


 途端に顔を真っ赤にして、唇をわなわな震えさせ始めたリーサの手を慌てて引っつかむと、オレは裏口が見えなくなるまで走った。

 いやはやだ。 


 ◇◆◇◆◇


 こうして剣の聖女専用三点セットを入手したオレたちは、早々に北の大国ネクスフェリアの首都ノースフェルンを後にした。


 お義母さんには悪いが、城から帰ったオレたちはお茶を飲む間も惜しんで旅装を整え、リーサの実家を飛び出したからな。

 だって、夕方になってお義父さんが帰宅して顔を合わせたら、オレ殺されそうだもん。

 お義母さんが笑って見送ってくれたから、ヨシとしよう。


 そんなわけで、パルフェに乗ったオレたちは、次の町へと旅路を急いだのであった。

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