ガキャァアン! カキャァアアン! ガキャァァァアン!!
オレが放つブーストモードの連撃がフェルエルの魔法防壁を襲うものの、砕けるのは一番上の層だけだ。
自分で言うのもなんだが、ブーストモードっちゃ結構早いぞ?
一秒間に五回は斬りつけているのに、それでも向こうの防壁補充のスピードの方が早いんだよ。信じられねぇ。
こっちゃあ肩が外れそうだってのに!
一枚破っても、すぐ次の防壁が補充され、七層の防壁を突破することができない。
やはり、七枚同時に破らないとフェルエルにダメージを与えられないようだ。
こちらが四苦八苦しているのが可笑しいのか、防壁越しにフェルエルの余裕の笑い顔が見える。
鹿頭に笑われて、めっちゃ悔しい。
「やぁぁぁぁぁああ!!」
その時、もう一体の相手をしていたはずのリーサが不意に振り返って、オレの戦っていたフェルエルの背後から斬りかかった。
気づいたフェルエルが魔法防壁を背後に移動させるも、さすがにリーサの斬撃の方が早かった。
ザシャァァァァアア!!
「グゥォォォォォォオオオオオオ!!!!」
思わずリーサの方に振り返ったフェルエルの背中に大きな斬り傷ができて、そこから大量に血が吹き出している。
そうか! フェルエルの魔法防壁は発生は早いわ、強力だわ、移動もできるわと超
ま、見るからに複雑そうな術式の防壁を七層構造で張っているからな。
こんな無敵防壁を三つも四つも出されてたまるか。
つまり、卑怯な話ではあるが、二人がかりで相手をすれば倒せるってことか。
フェルエルは怒りでオレの存在を忘れてしまったようで、リーサに向かって何やら呪文を唱え始めた。
その瞬間、オレの剣が背中から真っ直ぐに心臓を貫く。
「弱点さえ分かっちまえば、もう怖くねぇぞ、鹿頭野郎!!」
「グフォォォォォォオオオ!!」
フェルエルは信じられないものでも見るような目で胸から飛び出した剣先を見たが、やはり致命傷だったようで、ゴフっと血を吐くとそのまま音を立てて前向きに倒れた。
続いて、仲間が殺られて慌てるもう一体を、オレとリーサはコンビネーションで仕留めた。
だが、ホっとしたのも束の間、再びオレの髪が逆立った。静電気だ。
死んだ鹿頭の遺体を挟んでオレのすぐ目の前に立っていたリーサの髪の毛も、みるみる逆立ち始めた。
回避が間に合わない。直撃が来る!
リーサは一瞬恐怖に満ちた目でオレを見たが、そここそが唯一生き残る道だと言わんばかりに、迷わずオレの膝元に飛び込んできた。
しゃがんでオレの足にしがみつく。
よし、それでいい。
オレはリーサを左手で庇いつつ、右手に持った蛇腹剣を上方向に向かって全力で振り回した。
間に合え!!
『
「
オレの振るった蛇腹剣は、
蛇腹剣を構成していた細かい刃と、刃から放たれた光刃とがオレの頭上で一斉に、傘を回すが如く、反時計回りにグルグルと回転し始める。
刃の回転スピードがみるみる上がり、あっという間にオレの頭上に円形の光の盾の残像が現れた。
下から見ると、頭上で光の円盤が回っているかのように見える。
ドドドドドドドドォォォォン! パシャァァァン!!
ドドドドドドドドォォォォンンンン! パシャァァァアン!!
オレとリーサ目がけて凄まじい勢いで雷の雨が降り注ぐも、頭上に発生した光の盾が、そのことごとくを弾き飛ばしている。
リーサが目をギュッと
落雷で視界が
そうだ、それでいい。
光の盾の直径はわずか二メートルだ。
炎や風の魔法を広範囲に放たれていたらおそらく
だから避けられたのだ。
雷が止む。
リーサがオレの服に掴まりながら、泣きそうな顔でよろよろと立ち上がった。
よほど怖かったのだろう。
新たに三匹のフェルエルが、空から余裕たっぷり、ゆっくりと降りてきた。
が、下降中のフェルエルが、下で待ち受けるオレに気づき、表情を
そりゃそうだ。これだけ雷の雨を降らせたんだ、間違いなく黒焦げになって死んでいると思っただろうさ。
「散々好き放題やりやがって。美味しく調理してやるからとっとと降りてこい、このジビエ肉が!」
意味が分からないなりに暴言を吐かれていることだけは分かったようで、三匹そろって顔を真っ赤にしてオレを睨みつけた。
まんまと挑発に乗りやがった。
しょせんはケダモノ、チョロいぜ。
「色欲帝ルクシャーナ=デルタ、オレに力を貸せぇぇ!
柄の中にしまわれたルクシャーナの
途端にフェルエルから表情が消える。
オレは悠々と光刃防壁を解除して剣を通常状態に戻すと、地面に降り立ったばかりの三匹のフェルエルの間を
ほんの
続けて重々しい音を立てて、身体が倒れた。
その様子を見ていたリーサが、ビックリした表情でオレに尋ねてくる。
「何……したの? 旦那さま?」
「邪眼だ。意識に強制的に空白となる時間を差し込んだ。ほら、オレがルクシャーナにやられた技だよ。意識が飛んでいる間に技を食らうと避けることすらできない。相手が知的生物であることと目を合わせることが術を発動する絶対条件なんだが、決まれば効果は絶大だな」
とそこへ、舞い上がった埃にケホケホと軽い咳をしながら、フィオナとユリーシャが近寄ってきた。どうやら怪我がなさそうで何よりだ。
ところが、コイツら開口一番ジト目で言いやがった。
「あぁ、よその女とエッチしてたときにかけられた技だっけ? しかも実は人間に化けた魔族でしたーって、勇者の振る舞いとしてはちょーっとどうかと思うな、テッペー」
「ユリちたちの目を盗んで他の子とエッチなんかするからだよ、センセ」
グゥの音も出ない。
「旦那さま、あの人たち、いないね」
リーサの声に振り返ると、術を行使していたフェルエルが死んだからか、部屋を分断していた炎の壁が綺麗さっぱり消えている。
その向こうにいたはずの久我たちの姿も見えない。
上手いこと脱出できてりゃいいが。
「ユリーシャ、パルフェの結界は大丈夫か?」
「あ、うん。一応丸一日、魔物はもちろん、ユリちたち以外の誰が来ても入れないようにしてあるよ。術式が結構複雑で大変だったんだから。褒めて褒めて!」
「さすがだ、ユリーシャ。お陰で帰りは安泰だろう。助かったよ。ま、一日かからないだろうけどな」
オレはユリーシャの頭を優しく撫でてやった。
途端にユリーシャがドヤ顔をする。
そこへ、フィオナがズイっと出てくる。
「はいはいはーい! わたしは指示通り、あの短い時間でパルフェ用のエサとお水もちゃんと用意したよ、テッペー。それから、皆の分の水と携帯食料の入ったリュックも忘れずに持ち出したよ! 偉い? 偉い?」
「上出来だ、フィオナ。これで探索中に余計な心配をせずに済むよ。ありがとう」
よしよしとフィオナの頭を撫でると、フィオナがにへらっと笑みを浮かべる。
「え、えっと……ボクは……何もしてないかな、ごめんなさい、旦那さま」
オレの前でピョンピョン跳ねながらお手柄アピールをしたフィオナとユリーシャと違って、リーサがおずおずと謝ってくる。
「そんなことはないさ。リーサのお陰でフェルエルの攻略法を思いついたしな。大金星だ。助かったぜ」
「えへへ」
リーサが奥ゆかしげに微笑む。
「皆、準備はいいか? 充分に気をつけつつ先に進むぞ」
「はい、旦那さま」
「オッケー、テッペー」
「ユリちにおまかせ!」
三者三様の返事を聞きながら、オレは自分の分の
そして次の瞬間、フェルエルとの激しい戦闘で
……コントかよ。