盗賊団が暮らす村は、森の奥深くにあった。なるほど、見つからぬわけだ。こんな山奥まで捜索するのは大変だろうからな。それに、もし大規模な捜索が行われていると気がついたらすぐに逃げ出せばいいわけだ。これほど森の奥まで捜索するとなると、時間がかかるであろうしな。
もっとも、苦労して森を切り開いて作った村を簡単に手放したくはないだろうが......。
あるいは、何らかの部隊が捜索、討伐に来たら返り討ちにするつもりなのか?
まあ我は彼らを逃すつもりはないし、魔王である我はかなり強いので返り討ちにされることもないだろう。さっさとこの村を滅ぼそう。
今回使うのは剣ではない。触手だ。馬車を守るときは使えなかったが、ここでなら構わないだろう。
我の背後の影が伸びていく。そして、自由自在に動き始める。我はこの影を、触手と呼んでいる。我の第三の手だ。とんてもないパワーを秘めていて、自由自在に伸び縮みする。形も自由自在で、何かを掴む、投げる、締める、殴る、刺す、切る、さらに、時には盾にもなる優れものだ。しかもリーチはかなり長い。まだ限界まで伸ばした事はないので分からぬが、少なくとも50mは伸びる。
まあかなり不気味な代物なので、これを使っているところを誰かに見られたら、たとえ姿が人型であっても一発で魔族だとバレてしまいそうだがな。
とはいえこの盗賊団の村は殲滅予定なので、見られても問題ないだろう。死人に口なしだ。さっそく触手で次々と盗賊団のメンバーの首を絞め、抵抗できないように釣り上げる。人間というのは、地面に足がつかないと何もできない哀れな生き物なのだ。それに、首吊りは苦しくない死に方だと言われている。我は人間を痛めつけて殺す趣味はないので、安らかに永眠してもらおう。
「な、なんだ!? 何事だ!? 何が起こっている!?」
どうやら盗賊団たちは我の襲撃に気が付いたようだ。怒号と悲鳴があがる。しかし、襲撃に気が付いたところでどうしようもないだろう。盗賊団のメンバーの数が減っていくにつれ、悲鳴も怒号も上がらなくなる。
何人かこっそり逃げ出そうとする奴や、死んだふりで難を逃れようとするものもいたが無駄だ。我の知覚範囲は広く、呼吸や脈があるかどうかもわかってしまうのだ。我から逃れるのは不可能である。
そうして盗賊団は片付けたのだが、まだ生きている者たちがいるようだ。どうも囚われているようで、一つの家屋にまとめて入れられている。
もしや奴隷か? この世界、奴隷制があるのだろうか? 後てローナに聞いてみるか。
とりあず、我は奴隷たちの囚われている家屋に入った。中に入るとすぐに鉄の檻があり、その中に複数の人間がすし詰め状態になっている。女子供だ。
ううーん、これどうしよう。
ここの人間たちは盗賊団に捕まってしまっただけの善良な人間だろうし、助けてあげたいところだ。ここでいきなり殺すのは忍びない。魔王に転生してまだ数日、我にはまだ前世の倫理観が残っている。盗賊はすぐに殺してしまったがな。
しかし、ここでただ解放してあげてもすぐに死んでしまうだろう。戦えるようにも見えないから、森の魔物にやられてしまいそうだ。あるいは、別の人間にまた攫われてしまうことも考えられる。ここから無事に元の家に帰るのはほぼ不可能であろうな。
我が一時的にでも保護してやりたいところだが、我が国には人間に恨みを持つ者も多い。人間などを保護したらなんと言われるか……。
「死なない程度に拷問いたしましょう。それなら魔物たちも人間を痛めつけて遊んでいるだけだと納得します」
「うわっ!?」
いつのまにかそばにいたローナに声をかけられ、我は驚いて振り返った。我の感知能力に引っかからずにここまで近づくとは。魔王の力も万能ではないらしい。過信は禁物だな。
「ど、どうしてここに?」
「魔王様がなかなかお戻りにならないので、どうされたのかと思いまして。まさか私を置き去りにして、お忘れだったというわけではないですよね?」
そ、そういえば馬車を襲う人間と戦う前に、ローナを待たせたままであった。そのことが盗賊と戦った時に頭から抜け落ちていたようだ。ローナから強い視線を感じる。
「む、無論だ。後で迎えに行こうと思っておった」
「それなら良いのですが。で、その人間たちを連れ帰りたいのですよね? それなら拷問でもすれば、配下の魔族たちもとくに文句は言わないと思いますが」
「い、痛めつけるのはちょっと」
「ならば、犯してしまうのはどうでしょう? それならば人間たちの体を傷つける事はありませんし、配下たちも納得するでしょう。魔王様は淫魔の末裔であられるわけですし」
と、ローナはとんでもないことを平然と言った。
我は結局、奴隷の人間たちを連れ帰ってきてしまった。一人一人を触手でぐるぐる巻きにしてだ。あの場に置いておくのは忍びなかったのでな。置いておいたら、野垂れ死んでいたであろうし。
我がダンジョンに帰ると、数人の魔族たちが我らを歓迎する。
「魔王様がお戻りになられたぞ!」
「見ろ、人間を連れているぞ! 本当にお一人で人間の村を滅ぼしてきたのか!」
「しかし何故人間を生かして連れて帰ってきたんだ? もしかして、俺たちにも恨みを晴らすチャンスを?」
「おお!! なんと良き王なんだ」
まずい、勝手に期待しているようだ。どうにか誤魔化さねば。
「こいつらは我の玩具だ。何もしていない貴様らなどに分けるものか」
そういうと、我は触手を出す。複数の触手が、少女達にいやらしく絡みつく。
「いや! やめて!」
少女達は悲鳴を上げ、体をよじり必死に拒否するが我が触手から逃れることはできない。触手が奴隷の少女達を撫でまわし、服の下へ入り込んでいく。ごめん、痛くしないので許してほしい。これも配下の目を欺き、君たちを守るために必要な行為なのだ。
痛めつけず、しかし人間と敵対している事をアピールするには、結局凌辱する演技をするのが一番都合がいいのかもしれない。他のアイディアは浮かばなかった。
「我はこいつらで遊んでくる。ローナ、あとは任せたぞ」