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第4話 拷問

 我は連れ帰ってきてしまった奴隷の少女達を牢に入れた。これは閉じ込める為ではない。彼女たちを守るためだ。魔族や悪魔を入れる事を想定されている我がダンジョンの牢はかなり頑丈だ。しかもそれなりの広さがある。この中にいれば魔族たちに襲われることはないだろう。鍵は我がもっているしな。


 牢に入れられた少女達は、体を震わせ恐怖に染まった瞳で我を見つめてくる。ううむ、怖がらせてしまったか。


 我は触手越しに回復魔法を使う。彼女たちの体に細かい擦り傷や切り傷、打撲の跡があったからだ。盗賊たちの扱いが悪かったのだろう。触手が触れたところから傷が治っていく。回復魔法を覚えておいてよかった。


「あっ、あん。んんんんーっ」


 少女たちが声を押し殺し呻く。回復魔法は少しむずむずするようだ。


 回復ついでに、汚れている体も洗ってあげよう。我はちょうどいいお湯をシャワーのように少女達にかける。これはかなり難しい魔法だ。お湯の温度や水の勢いをちょうどよくコントロールするのは相当難しい。しかし、我は魔王。魔法もお手の物というわけだ。彼女たちに優しいシャワーをかけ、触手で体を洗う。


 触手が泡立つ。我が触手から洗剤を出したからだ。これで彼女たちの体は綺麗になるだろう。ただまあ触手に洗われているその姿は、まさに敵に捕まり凌辱されているヒロインのような見た目であるが……。


 とりあえず綺麗になったので、次は食事だな。それからちゃんとした服も用意しなければ。この布切れのようなぼろぼろの服ではかわいそうだ。盗賊の奴ら、まともな服を与えなかったらしい。


 そのあと彼女たちをどうするか考えよう。帰る家がある者は家まで送ればよいが、無い者もいるだろう。孤児を受け入れてくれる場所があればよいのだが。そのような事を考えていると、そこへローナがやってくる。


「配下の者たちの様子はどうだ?」

「おおむね魔王様に好意的です。みな人間の村を滅ぼした事を評価しております」

「それはなによりだ」


 ふう、これでしばらくは人間を滅ぼしてくれなどと懇願されることはないだろう。次はいつにするのか、とは言われるかもしれないが。


 やれやれ、いきなり魔王をやらされるのも大変だな。まだろくに顔も覚えておらん配下に気を配らねばならんとは。


「しかし、魔王様が連れ帰った人間たちの処遇について、配下のものたちは興味深々です。いったい魔王様は人間たちにどのような拷問をなさるのか、と。連れ帰ったこの人間たちに何も危害を加えないと、いささか問題かと」

「やはりそうか」

「どのような拷問をなさいます? もし必要なものがあるならご用意しますが」

「うーん」

「ご、拷問するなら私にしなさいよ! そのかわり、他の子には手を出さないで!」


 我らの会話に、大声を上げて参加した者が居た。

 長い耳で、僅かに薄っすら緑かかった白い髪の、子供と大人の間の年齢の少女だ。人間に似ているが、人間ではなさそうだ。


「エルフですか。魔王様、これは珍しい物を拾いましたね」

「エルフ?」

「魔族とも人間とも違う、亜種族です。なかなか見つからないので、てっきり絶滅したのかと思っておりました。生き残りが居たとは存じませんでした。我々淫魔ほどではありませんが、エルフは人間からはかなり美しく見えるらしく、かつて人間に乱獲されていたのです。そのうえその血を飲めば、若く美しくなれると信じられていたようで血を抜かれていたとか。そのせいですっかり希少になってしまったようです」


 なるほど、確かに美しい少女だ。

 しかしまあ、そのせいで乱獲されてしまうとはなんとも可哀そうに。


「そこのエルフよ。エルフは人間にずいぶんひどい目に合わされたようだな。それなのになぜかばうのだ?」

「すべての人間が悪いわけじゃないわ。この子達は私に良くしてくれたもの。だから、私が守るの。それに、ここでは私が一番年上だもの。拷問なら、私にしなさい。他の子に手を出したらただじゃおかないから!」

「ふむ、いいだろう。気の強い女は嫌いじゃない。おぬし、名は?」

「エルよ!」


 エルフのエルか、覚えやすくていい名だな。


「エルよ、そこまで言うならまずはおぬしだけを拷問してやろう。ただし、耐え切れなかったら別の者にも拷問するからな。いつ降参してくれても構わんぞ」


 ううーん、我も悪役が板についてきたな。


「ふん、死ぬまで降参なんかするもんですか」


 これだけ気の強そうな女だ。多少の拷問になら屈することはあるまい。配下の目があるので何もしないわけにもいかぬし、申し訳ないがちょっとだけ拷問に付き合ってもらうか。


 だが、決して痛めつけたりせん。むしろ気持ちいはずだ。これほど他人の為に身を挺することができる善良な者を痛めつけては、我の良心が痛む。なので、ちょちょいと触手で凌辱する演技をして、気持ちよくなっていただこう。


 我はエルフの少女だけを触手で捕まえて、隣の牢に移す。


「くくく、覚悟はよいな?」


 我の背後で、影が蠢いた。

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