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第6話 検問

 最近、奴隷の少女達の様子が変だ。地下牢に行くと顔を真っ赤にし、期待した目で我を見つめてくるのである。


「サタンさん、もう拷問はしないのですか?」


 奴隷の少女の一人が我に問いかけてきた。また拷問されるかもしれないと不安なのだろうか? もう拷問はしないと言ってやりたいが、配下の者の目が気になる。またしなければならぬ可能性もある


「ふん、我の機嫌次第だ。拷問されたくなかったら、せいぜい我の機嫌を損ねないことだな」

「あの……次に拷問するなら私にしてください!」

「ほう?」


 正義感というやつだろうか? 他の人を守りたいのか? なかなか良い心がけだ。


「いいだろう。次拷問するときはお前にしてやろう」

「ま、待ってください!」


 すると、別の少女が声をあげた。なんだろうか?


「拷問なら私に!」

「いや私にしてください!」

「あ、あの……私にも拷問してください」


 次々と奴隷の少女たちが声を上げる。うん? あれ? もしかして、皆拷問を求めてないか……? 触手よ、お前はいったいなにを見せたんだ? エルが拷問されている姿を牢の中で見ていた少女たちが、興味深々なんだが?


「だ、ダメ! あ、あんなこと、あなたたちにさせるわけにはいかないわ! 拷問なら、私にする約束でしょ!」


 と、エルが大きな声で言う。


「ひ、一人占めはズルいと思います」


 我の触手、大人気すぎん? なんで?


 ちなみにこの奴隷少女たちに大人気な触手拷問、配下の魔族たちにもおおむね好意的に受け止めているようである。


 エルの悲鳴(?)は我のダンジョン中に響き渡ったようなのだが、それを配下の魔族たちは人間が苦しみ絶叫していると解釈したようなのだ。


 たぶんエルは苦しんでなかったと思うし、そもそもエルは人間ではなくエルフなのだが……魔族の耳には何が聞こえてるんだ?


 まあ我が配下の者たちは弱小な者が大半で、人間から逃げ続けて生活していたようであるからな。真の人間の悲鳴など、知らぬのかもしれん。


 助かった。

 魔王様、人間たち全然苦しんでないですよね? と突っ込みを入れてくる配下がいなくて。我が配下の魔族の目は節穴のようだ。この調子ならもうしばらく人間たちをかくまうことができるだろう。


 とはいえいつまでも置いているわけにもいかぬし、さっさと手放したいところだ。せっかく助けたのに配下の魔族に殺されてしまっては意味が無いからな。早いところ近場の人間の町にでも送り届けてやらんとな。




 そんなわけで、我とローナは一度人間の町に行くことにした。この奴隷だった少女たちの預ける先を探さねばなるまい。それに、少女たちに与える食事と服も必要だ。しばらくは盗賊のアジトの村にあった食料で持ちこたえていたが、それもすぐに尽きてしまうからな。人間の町で買ってこようというわけだ。金なら盗賊たちから奪ったものがある。


 魔族なのに、人間の町に入って大丈夫なのかという心配はある。ただ、我が臣下のローナは何度か人間の町に潜入しているそうだ。そのローナの話では、ほぼ問題ないという事だ。それを信じよう。


 まあ、我とローナは人間と姿はそう変わらん。我もローナも、角や尻尾など、魔族的特徴は簡単に隠せるしな。見た目で見破られることはまずない。ただし、大きな街には人型の魔族を見破る魔道具が置かれていることがあるらしい。そういった魔道具にだけには気を付けてくださいとのことだ。数は多くないから、そんなに心配しなくてもいいらしいが。


 そんなわけで我とローナは、ローナが用意した人間の庶民が着るような服を着て人間の町に向かったわけだが……なにやら、町の入り口に列ができている。何の列だ?


「魔王様、まずいかもしれません」


 ローナが深刻そうな顔で、我に警告した。


「む、どうした?」

「今まで私が人間の町に入る時に、検問などありませんでした。しかし、今日はなぜか検問があるようです」

「……それはまずいな。一度出直すべきか」

「いえ、今からこの場を離れると不自然です。堂々と乗り込みましょう。町の人は私の顔を知っているので、それほど疑われないはずです。バレたらその時はその時、大暴れすれば良いのです」


 ううむ、暴れるのは最後の手段、できれば避けたいところだ。我の存在が人間たちに露見するのは非情に困る。魔王は最強クラスの強さを有しているが、人間たちにも我と同等の強さを持つもの、勇者がいるらしい。万が一我の討伐に勇者が派遣でもされてきたら困る。我も命は惜しい。


 しかし、我らはもう列に並んでしまった。今更抜け出せぬ。それに、列はスムーズに進み、もう我らの番は目の前だ。やむおえん。覚悟を決めるか。不安そうにすればバレやすくなる。ここは堂々といく。


 そうして、我らの番になった。


 町の入り口で出入りする人間をチェックしていたのは、統一された鎧を着ている者たちだ。何らかの集団だろう。我はこの世界の人間について詳しくないが、騎士団のようなものか?


 まずはローナがチェックを受ける。女性騎士がローナのボディーチェックを行う。特に問題ないようで、すぐにチェックが終わり町の中へ。我もそれに続く。


 男性騎士が我のボディーチェックをなにやら念入りに行う。当然なにも見つからない。我はほっと一息つき、町の中へ入ろうとする。しかし――


「あ、いや、君はちょっと待ちたまえ」


 男性騎士が我を呼び止めた。そして、我の腕をがっちりと掴む。


 む? もしやバレたか……?

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