町の入り口で、何故か検問を行う騎士の集団。我はその検問をパスすることが出来ず、呼び止められてしまった。怪しい行動はしなかったと思うが、なにがいけなかったのだ?
「ああいや、すまない。君ちょっとイケメンだから、もう少し詳しく確認させてくれ」
どこかこちらを怪しんでいるような目で我を見つめる騎士の青年。下手に抵抗するとさらに怪しまれるだろう。ここは堂々といく。
「イケメンと言われれば嫌な気はせんな。もう少しだけなら付き合ってやろう」
「助かります。実はあまり知られていないのですが、人間に化けている魔物はほとんどが美男美女なんですよ。そういうわけですみませんね」
なるほど、イケメンだと疑われるのか。それは知らなかったな。
まあ確かに、我の知っている人型の魔族はみな美男美女であるな。なにか理由があるのか? 人型の魔族は人間を油断させるために、美男美女に進化したのだろうか?
「うちのような田舎部隊に魔物判定の道具はないので、代わりにこちらを使ってみていただけますか?」
そういって、我の前に出されたのは小さな二本の棒きれとお椀。お椀の中には、なにやら小さな粒のようなものが入っている。
この小さな棒切れはあれか、箸か?
「あなたが人間であるなら、もちろん使えますよね?」
じっと棒切れを見つめていると、疑り深い目で我を見つめる騎士の青年。
この地域では、箸が一般的なのか……? これ本当に箸か? わからん。なにも分からんが、ここで黙ってじっとしていれば疑われるだけだろう。
我はイチかバチか堂々と箸を持ち、それでお椀の中の小さな粒を持ち上げた。
「これでいいか」
「……ありがとうございます。完璧ですね。その綺麗な所作、もしかして、どこかの貴族では……ああいや失礼しました。なんでありません」
よかった、これで正解のようである。
「一応聞くが、なぜ、このような事を我にさせたのだ?」
「魔物どもは人間の姿は真似できても、我々の文化を真似することはできないんですよ。とくにこいつ(箸)を正しく使うには、それなりの練習が必要でしょう? 魔物にこいつを正しく使うことは不可能なんですよ。だから判定に使っているのです。金が無いなりの、我々の知恵です」
……なるほど。我が元日本人でなければ、たしかにこれでバレていたであろうな。結構ギリギリだったのかもしれん。それにしても箸か。偶然か? 昔、我と同じように日本人が転生してきて広めたのではというのは我の考えすぎだろうか?
「使えなくても、別の地域から来たかもしれんだろう?」
「はは、その場合は言葉が違いますからすぐにわかりますよ」
「それもそうか」
「ご協力ありがとうございました。もう町に入ってかまいません」
「うむ」
こうして我は、ようやく人間の町に入ることに成功した。
町に入ると、すぐにローナがやってきた。
「サタン様、少々時間がかかったようですが問題がありましたか?」
「うむ、少し疑われたようだ。どうやら監視もついてきているようだな」
我の後ろから、一定の間隔でついてきている人間がいる。先ほどの検査を受けたあとからだ。疑われているだけなのか、確信をもってついてきているのか。どうも無事に町に入れたとは言い難いな。
監視を撒くべきか? それとも、気が付かぬふりをして、尾行に怪しくないことをアピールすべきか? どちらにしろ、さっさと用事を済ませてこの町から去ったほうがよさそうだ。
「すみません。これほどチェックが厳しくなっていると知らずにサタン様をお連れして」
「かまわん。このくらいどうという事もない」
「今少し情報を仕入れたのですが、どうもこの町に魔族が出入りしていると噂になっているようです。それで、急にこのようなチェックが行われるようになったとか」
「まさかそれは、ローナのことではあるまいな」
「まさか。私はそこまで下手ではありません。――どうも、人間の女子供が行方不明になることが多発しているようなのです。それが魔族のせいだ、と噂になっているようです」
女子供ねえ……偶然か? それとも、我が壊滅させたあの盗賊団、なにか噛んでいたのか? 全滅させずに、あの奴隷の少女たちについて尋問しておけばよかったかもしれんな。今更後悔しても仕方ないが。
まあ我には関係のない事か。
「今はあまり長居せんほうがいいかもしれぬな。必要な情報だけ集め、盗賊の財産を金に換えて、衣服と食料を買い込んでさっさと帰るぞ」
「かしこまりました」