我とローナは人間の町に入り込み、まずは孤児などを引き受けてくれる場所を探した。
いくつもの教会や孤児院を訪問するが、なかなか彼女たち全員を受け入れてくれる場所はない。どこも今の人数でいっぱいいっぱいのようだ。
仲良くなっているようだったし、全員同じ場所に入れたかったがそれは無理か。複数の場所に分散するしかないようだ。あと、孤児院は経営が苦しそうなところばかりなので盗賊から奪った財産の一部も寄付したほうがいいかもしれん。魔族にはあまり使い道がないしな。
一通り奴隷の少女たちの預け先を探した後、ローナと手分けして食料と衣服を買い込み再び我がダンジョンへ帰ることにした。まずは牢へ奴隷の少女たちの様子を見に行くか。
魔族のダンジョン奥深くにとらわれているというのに、人間たちは大人しくしていたようだ。暴れる者や脱出しようとする者などいない。非常に落ち着いている。
さっさく我らは手に入れてきた食事と衣服を分け与える事にした。
まずは食事だ。素材をそのまま買ってきたので、まずは調理せねばなるまい。持ち帰り用の弁当などという便利なものは、この世界では売っていなかったのだ。保存食くらいはあったが、毎回保存食でも可哀そうだろう。盗賊団から奪った食料も保存食だったので、もう食べ飽きているだろうしな。
そんなわけで買ってきた素材を我が調理する。正直我もそれほど料理が得意ではないが、魔族に料理ができる者などいるわけもない。それなら、少しでも知識がある我がやった方が良いだろう。
生前は一人暮らしだったので、最低限の調理はできる……はずだ。素材も調味料も全く違うので、自信はないのだが。
しかし、しょうゆ、味噌、塩、さとうなどの調味料があったのはありがたい。塩は分かるが、しょうゆも味噌もあるのは意外だった。箸を使うというのもそうだし、本当に日本に近い文化である。あと、米もあった。
まあ、似た別物の可能性も大いにあるがな。
我は背後の影から鍋を取り出し、米を水に浸す。炊飯器なしで米が炊けるかどうか少し不安だ。
あとは、みそがあるので味噌汁を作るか。よく分からない謎の野菜たちを触手で切り、鍋に放る。そして水を入れて火であぶる。あとはまあ味噌で味付けすればそれほど失敗はないだろう。本当は出汁もとりたかったが、カツオも昆布も煮干しも見つからなかった。これほど日本文化に近いのだし、もっとよく探せばあったのかもしれないが、まあ仕方がないだろう。
それから、よくわからない魚を焼いて、塩を振ればおおよそ完成だ。残りは米が炊けるのを待つだけである。水に浸してあった米を火にかける。
これが我特製の焼き魚定食だ。見たことのない素材ばかりだった割には、頑張った方だろう。調味料と米があったのでなんとかなった。
米が炊け次第、食事を一人ずつに配る。人間たちは受け取るや否や、すぐにご飯をかき込んでいく。よほど腹が減っていたのだろう。
「おいしい。おいしいよぅ」
「うぅ、なんでこんなにおいしいの」
ご飯を食べながら、泣き始める少女たち。ど、どうした? 何故泣く? いままでまともな食事にありつけてなかったのか? 皆まだ炊き立てで、熱い米をはふはふと頬張る。
「あ、あの……おかわりありますか?」
「ん、ああ。ご飯と味噌汁ならまだあるぞ」
「お、おかわりください!」
「私も!」
「ほれ、今よそってやるからあわてずゆっくり食え」
これほど喜んでもらえると、作った甲斐があったな。そうして我の作った料理は、あっという間になくなっていった。
次は服だ。さすがに我が女性の着替えを見るわけにもいかんだろう。服を配るのはローナに任せよう。
そんなわけでローナに着替えを任せ、時間を置いてからもう一度牢に戻ってきたのだが……。
な、なんだこれは!
「……ローナ、これはどういうことだ?」
「どういうこととは?」
「この服はなんだ?」
奴隷の少女たちが着ていたのは、極端に布地の少ない服だった。端的に言えば下着だ。
「魔王様を楽しませるために、最高の服を用意いたしました。人間の間では勝負下着と呼ばれている服だそうです」
「……なぜこの服に?」
「魔王様がこの少女達を犯すとき、この服の方が盛り上がるかと愚考しました。気に入りませんか?」
「犯さんわ! もっとしっかりした服にしろ!」
「……かしこまりました」
ローナは表情を変えず、淡々と言った。
服はローナに一任していたのだが……失敗だったかもしれん。
奴隷の少女達を着替えさせるというので外で少し時間をつぶし、再び牢に戻る。そこにはどこぞの王宮と見間違うような光景が広がっていた。
「……この服はなんだ?」
「しっかりした服でございます」
「たしかにしっかりしている、しっかりしているが……」
今度の服はしっかりしてはいた。赤や黄色、紫といった派手な色の服である。ようするにドレスである。
まるでお姫様が着るようなドレスが嬉しいのか、笑顔が浮かぶ少女達もいる。食事をとり、体の汚れも落ちた彼女たちにその服は良く似合っていた。本当のお姫様のような美しさだ。もしかすると、盗賊たちは美しい少女を狙って連れ去ったりしたのかもしれない。
「何故この服に?」
「主様のおそばに置くならば、高貴な服装が良いかと愚考しました。気に入りませんか?」
「……村人が着ているような服にしてくれ」
我がそういうと、奴隷の少女達は明らかに落胆しているようだった。どうやらドレスを気に入っていたようだ。
「あー、その服は取り上げなくていい。新しく村人が着るような服を用意してやれ」
我は気を使い、仕方なくそう言った。
その後しばらくたったあと、我は奴隷の少女達を人間の町に送り、孤児院や教会の前に置いていった。幸いにして、多くの孤児を受け入れてくれる孤児院が見つかったのだ。
もちろん帰れる場所や親や親せきがいる子はそちらに帰したが、そうした場所がある子は稀だ。ここに残りたいという子も多かったが、そういうわけにもいかない。ここは魔族の住むダンジョンだ。いつ殺されてもおかしくはないのだぞ。
配下の魔族たちには、連れてきた人間たちは皆殺しにしたと言った。これでひとまず解決である。
まあ、エルフのエルだけは手元に残ってしまっているのだが。エルフは人間の町ではやっていけぬそうだからな。エルフは貴重で高価なので、すぐ捕まってまた奴隷にされてしまうのが目に見えている。
エルフってどこに返せばいいのだ?