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第12話 ギルド

 農家の娘、ノノカに任せた農業。それからルーナとルーナの家畜? に任せた畜産事業。どちらも着々と準備が進んでいるようだ。


 ただ、一つ問題が浮上した。金だ。


 当然だが、魔族は金など持たない。しかし、農業にも畜産にも金がかかる。必要な道具を買わねばならんし、種や家畜も買わなければならない。それに、彼らに給料も払わなくては。無償でやらせるほど、我はブラックではないぞ。


 少し前なら盗賊団のアジトにあった財産があったのだが、それも盗賊に捕まっていた奴隷たちを教会に預ける際に寄付してしまってもうあまりない。


 どうやら、それなりにまとまった額を稼がねばならぬようだ。


 一番手っ取り早い金の稼ぎ方は、お金を持っている人間をぶっ殺して財産をすべて奪うことだ。しかしまあ、前世の記憶がある我としてはそのような倫理観に欠ける行いはしたくはない。となると方法は一つしかない。


 真面目に働くか。




 そんなわけで、我は仕事を探すためにそれなりに近い町にやってきた。とはいえ我の就ける仕事など、かなり限られている。


 何らかの物を作る、いわゆる製造業は技術が無いとできない。商人になるには元手となる金が無い。なんらかの手伝い、例えば酒場のウエイターなどのサービス業は信用がないとやらせてもらえない。金を盗むかもしれぬ見知らぬ他人を雇うような酒場など、この世界にはないようだ。


 となると、我が就ける職など一つしかなかった。冒険者である。


 冒険者とはなんぞ? という話だが、要はハンターのようなものだ。あるいは害獣駆除業者か?


 要するに、魔物を狩ることを生業としている者たちのことだ。


 ちなみに、魔物と魔族は別物だ。人間どもは魔族も魔物もひとまとめに魔物という事があるが、そう言われると魔族はぶち切れである。人間はナチュラルに魔族を煽っているのだ。


 そんなんだから人間たちは魔族に襲われているのだ。


 ただまあ、魔族と魔物の境界はあいまいなところもあるから、仕方のない面もあるのだが。


 正直我も、魔王に生まれ変わってから日が浅い事もあってどっちなのか分からん奴もおるしな。とりあえず、人間以外でそれなりに知能がありそうな生物だったらそれは魔族だと思っておけば間違いない、らしい。


 逆に言えば魔族を魔物と見做すというのは、お前知能ないだろ? と煽っているのと同義なのだ。ぶち殺されても仕方ないわけだ。気をつけねばな。


 さて、冒険者になるにはどうすればいいのか? どうやら冒険者協会、通称ギルドなる組織でライセンスを取得すればいいらしいが……。


 ギルドというのは、猟友会みたいなものなのだろうか?


 こちらの世界には、電話などない。だから電話一本で魔物駆除を請け負うというわけにはいかない。当然中間業者が必要になる。その中間業者が、ギルドってやつなのかもしれんな。


 とにかく、まずはギルドに向かおう。


 周囲は木造の建物ばかりなのに対し、ギルドはレンガ造りの頑丈で大きな建物だ。非常に目立つので見つけやすい。頑丈に作られているのは、魔物の襲撃に備えるためなのか、それともハンター同士のいざこざで壊れないようにするためなのか。


 中に入ると受付のような場所があったので、そこにいる女性に話しかける。


「ギルドのライセンスを取得したい」

「はい、ライセンスの取得ですね。どのランクの取得ですか?」

「ランク1だ」


 ギルドライセンスにはランクがある。ランク1は一番下のランクだ。ランク2以降は実務経験が必要なので、いくら実力があってもいきなり取得はできない。しばらくはランク1で我慢するしかないだろう。


「かしこまりました。受験料はこちらになります」


 どうやら、ライセンスを得るにはお金が必要らしい。幸い、それほど高い料金ではなかった。我がそれを支払うと、受付はなにやら紙を差し出してきた。


「はい、ではこちらに名前や出身地などをお書きください。書けない場合は口頭でも構いません」

「わかった」


 我は紙を受けとり、必要事項を記入していく。実は我は、この世界の文字の読み書きができる。


 どうも魔王というのは、頭の出来も人間とは違うらしい。少なくとも記憶力はかなりいい。言語については少しローナに教わっただけなのだが、あっという間に覚えられてしまった。


 魔王って、実はかなりハイスペックじゃないか? これであとは、人間と敵対関係で無ければ最高だったのだが。


 ま、魔王だとバレなければ問題ないがな。魔族を判別する装置にだけ気をつければいい。


 とりあえず記入用紙を適当に埋め、受付の女性に渡す。


 ちなみに記入内容は嘘だらけだ。


 当然だ。我の名は魔王サタン、0才である。出身地はダンジョンだ、などと書けるわけがない。


 年齢も出身地もでたらめである。年齢は18才、出身地は最近魔物の襲撃で滅んでしまったとある町の名前を記入させてもらった。


 すでに滅んでいる町ならば、たとえ疑われても調べようがないだろうからな。


 その後、ライセンス取得のための試験について説明を受ける。


 試験がある理由として、多少能力で選別しないとけが人や死傷者が多数出てしまうためとの事だ。


 ただまあそれほど難しい試験ではないらしい。どうも、冒険者は底辺の仕事らしい。金もなく技術も土地もコネも知識も無い者が、その身を危険にさらして命懸けで働く、普通の人間なら避けるような仕事だ。


 要するに、冒険者とは普通の職に就けないガラの悪い連中の集まりなのだ。そんな連中でも受かるような、受験料さえ払えば大体受かるような簡単な試験ということらしい。


 これで我が落ちたら恥ずかしいな。受かるとよいのだが。

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