我は冒険者になる為、試験を受ける事になった。試験には筆記試験と実技があるようだ。ただ、まず試験前に簡単な講習があるらしい。試験とは、講習内容がきちんと理解できているかを試す為だけのもののようだな。
そして講習と試験は、月に一回しか行われないらしい。冒険者ライセンス取得のために、その試験日まで待たなければならないようだ。実に面倒だ。
ただまあ、それだけしっかりしたライセンスだということなのだろう。いちいち一人一人試験を行うというのも大変であろうし、仕方ない。
幸いにして、その試験日はもうすぐとのことだった。何日も待たされずに済みそうだ。
そんなわけで我は試験を受けるために後日、再び町のギルドを訪れた。
筆記試験はギルドの二階にある会議室のような場所で行うようだ。そこに机と椅子が並んでおり、すでに我の他にガラの悪そうな若者たちが数人いた。
彼らの会話に聞き耳を立てたところ、彼らはどうやら家を追い出された次男坊たちのようだ。長男が家を継ぎ、次男以降は家を追い出されてしまう。そうして追い出されると、まともな職にありつくのは難しくなる。それで冒険者に、という事らしい。世知辛い世界だ。
だだ彼らは別に悲観的ではなく、むしろポジティブなようにも見える。冒険者に夢を見ているらしい。
「へへへ、楽しみだぜ。俺の栄光の第一歩がいよいよ始まるぜ」
「あのなあ、冒険者なんて底辺の仕事だぜ? 栄光もなにもないだろ」
「知らないのか? 隣の大都市には、ドラゴンを倒して大金持ちになった冒険者がいるんだってよ」
「ドラゴンなんかそうそう出るわけないだろ。それに、出たとしても俺たちに倒せるわけがねえ」
「はっ、弱気だな。まあ見てな、今に俺がドラゴンどころか魔王まで倒して、新英雄として崇められるのをな」
「はいはい」
と、筋肉隆々のガラの悪そうな若者たちが話していた。
まあ、夢を持つのは自由だ。ただ、彼らの実力で我が負ける可能性はゼロだ。ドラゴンを倒すこともできまい。無理して死ぬことが無いように願おう。
あと、人数は少ないが女性もいるようだ。どうやら、女性でも冒険者になれるらしい。稼ぎが良いようであれば、後でローナにもライセンスを取ってもらおうか。
そんなわけで、さっそく冒険者の講習が始まった。基本的な身の守り方と、なんと法律についてだ。
冒険者たちは、危険な武器を持ち歩くことになる。そいつを町の中で振り回したら捕まるから、町の中では絶対に取り出すな、とか、安全のために、知らない魔物には挑むな、とか。確実に倒せるように、弱い魔物を囲んで狩る事を推奨されたりとか。そういった事を、淡々と語られる。
うーん、講習を聞いてると、危険な魔物を倒して成り上がるなんて、そんな夢物語みたいな事はなさそうだ。一対一で命懸けの勝負はしてはいけないと、何度も言われている。
この世界に転生直後に思っていた、アニメや漫画の冒険物語みたいなことはないようだ。ちょっと残念である。少し憧れていたのだが。
転生先が魔族の王だった時点で、諦めていたからいいのだが。
説明を一通り聞いた後、試験用紙が配られた。いよいよ試験だ。
とはいえ、たった今聞いた内容がそのまま試験に出されているだけだし、かなり簡単なものだったが。
それが終わると今度は実技だ。この実技は最低限武器が扱えるか、身体能力に問題が無いかどうかを試すものらしい。それがないと命の危険があるからだろう。
我々はギルドの建物の外に集まった。ギルドのそばには、広いスペースがある。ちょっとした公園ぐらいの広さだ。
「それではみなさん武器を配りますのでそれを持ってみてください」
と、試験管の男が言う。
渡されたのは少し長めの剣だ。我はそれをを持ってみる。実に軽い。こんな剣では、すぐに折れてしまいそうだ。それに、刃が研がれていない。これではなにも切れないだろう。練習用の模擬剣なのだろうか?
「まずはそれを持ったまま、全力で走ってください。走るのが遅い者は不合格とします」
「なっ!? こんな重い剣を持ったまま走れってのか!?」
と、筋肉隆々の男が騒ぐ。
うーむ、この剣重いか? めちゃめちゃ軽いが。この軽さでは、振っても振った気がしない。我には少々使いにくそうだ。
「いいですか、足の速さは命にかかわります。危険な魔物、状況から素早く逃れる能力が無い者に、冒険者は務まりません。そして武器は命綱だ、手放すなどありえない。さあ持ったまま早く走り始めてください」
試験管の男がそういうと、皆一斉に走り出した。
……皆足おっそいなあ。ま、我は人間とは種族が違うから、身体能力に差があっても当然なのかもしれぬが。
ここでぶっちぎって先にゴールすることは簡単だが、あまり目立って魔族だと疑われても困る。二番目ぐらいをキープするか。そう思い、先頭を走る者の後ろを走る。どうやら先頭を走っているのは女のようだ。なかなかいい尻している。尻を見つめていると、我の触手がムズムズしてくる。
いかんいかん、こんなところで触手を動かしたら大変なことになる。
尻を眺めながら走っていたら、すぐにゴールだ。大した距離ではないから、あっという間だ。
ゴール後、後ろを振り返り我は驚いた。なんと、後ろとはかなりの差があったのだ。どうも、先頭を走っていた者は他の者と比べてかなり足が速かったらしい。
失敗した。前の尻ばかり見ていて、後ろを確認していなかった。ちょっと目立ってしまったかもしれん。