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第20話 護衛騎士

「ヨルを私の護衛にですか!」


クライド様から広間に呼び出された私は驚きの声を発した。


クライド様の隣にヨルも控えていた。

ヨルから私の護衛騎士を進言するとは聞いていたが、まさか彼が私の護衛騎士になるとは想像していなかった。

彼は国王陛下の従者なのだから。


「お前の護衛騎士はまだ決まっていない。その期間だけヨルがお前の騎士に着くだけだ」


「でも…そしたらクライド様は別の方を従者に選ばれるということですか?」


疑問を口にする私にクライド様は冷静な態度で答えた。


「別に私は従者など付けなくとも一人で充分だ」

「あなたは国王陛下です。いくら強くても従者は必要です。私のことは良いので今までどおりヨルをあなたの従者のままにして下さい」


心配する私にクライド様はふっと笑った。


「大丈夫だ。心配するな」

「でも…」


「一人で充分だと言っても建前状ほかの騎士を付けるつもりだ。ヨルが来る前もそのようにしていたのだからな」

「でも……」


彼はきっと自分の意思を変えるつもりはないのだわ…。

護衛騎士が決まるまで自分の従者を付けるなんて余程のことかもしれない。

ここで彼の気持ちを無下出来ない。

私はクライド様のお気持ちを素直に受け取ることにした。


「承知致しました」

「お前の護衛騎士が正式に決まったら伝える」

「はい。では失礼します」

私はヨルと共に広間を後にした。


廊下を歩きながら少し離れた位置にいるヨルに私は心配した表情で言った。


「本当に大丈夫かしら?クライド様…」

「相変わらず心配症だな。お前は」


ため息をつきながら言うヨルに私は彼に振り向く。


「当たり前でしょう!相手はこの国の国王陛下よ。私なんかより優秀な護衛を付けるのは彼の方なのに…」


「もしかして陛下のことが気になるのか?」

「そんなんじゃないわ…。ただ私のせいで彼に負担を掛けたくないだけ。いつも助けてもらってばかりだから……」


クライド様の負担になりたくない。

既に助けて貰ってばかりだけど私はそんな思いを抱いていた。

そんな私にヨルは私の頭を優しく撫でた。


「!」


驚いて顔を上げる私にヨルは優しい顔をして言った。


「陛下も言ってたろ。心配するなって。それにあの人は俺よりも強い。お前が気にすることねぇよ」


「そう…」


ヨルのゴツゴツとした大きな手。

暖かみを感じる。

昔は良く辛いこと、悲しいこと、心配なことがあると撫でてくれると自然と安心できた。

あの頃と変わっていない。


私達の間に懐かしさと何とも言えない空気が漂う。

私は気恥しさを感じながら彼に言った。


「ヨル…。もう大丈夫だから…」

「あ…ああ。そうか…」


ヨルは私の頭から手を退かし、視線を逸らした。

だけど耳は赤くなっていた。

もしかしたら照れたのかもしれない。


「そろそろ行くか…」

「ええ…」


誤魔化すように言うヨルに私は小さく頷いた。


****


一方。

アリス達がいなくなって入れ替わるように広間にクラリスが入って来た。

彼女はクライドが広間にいると聞きつけて来たのだった。


「お兄様!」

「何だ。お前か…」


笑顔で言うクラリスに対して冷たい態度を取るクライド。

クライドはアリス以外の女性に対しては常に冷たい。

それは義理の妹でさえも同じこと。


「何しに来た?私はあの夜会の件でのことをまだ許した訳ではない」


「あの時は申し訳ございませんでした。アリス様のことも考えず勝手が過ぎました」


クラリスはクライドに頭を下げて謝り、そして言葉を続けた。


「アリス様に直接謝りたいのですが彼女と面会の機会を頂いても宜しいでしょうか?」


瞳を潤ませ、健気に懇願するクラリスに対してクライドは面倒くさそうにため息をついた。

「勝手にしろ」

「有難う御座います。お兄様!」


ぱぁと花が綻ぶような笑顔を浮かべるクラリス。

クラリスはクライドの腕に抱きつき、自分の豊満な胸を押し付ける。


「私…お兄様とも仲直りがしたいのです。だから仲直りの証に一緒に街にお買い物に行きたいのですが…ダメ?でしょうか?」


クラリスはクライドに上目遣いで甘えるようにねだる。

他の男ならば身体を密着させ、甘い言葉を言えばすぐに落ちる。


それにヨルはアリスの護衛騎士となったことをクラリスは侍女達の噂で知った。

いつもクライドにアプローチする時、いつもヨルが邪魔をし、何かと理由をつけて自分を追い払っていた。


一度ヨルを誘惑し、自分の手下として扱おうとした時期もあった。

顔が良いから。

だけどヨルは「王女様、俺性悪女タイプではありませんので」と笑って言われたことがあった。

王女の私に無礼を働いたと騒ぎ立てたが、クライドの言葉で不問となった。

それ以来、クラリスとヨルは天敵となったのだ。


(あの邪魔な男がいない今がチャンスだわ)


そう思っていたクラリスだったが、返ってきた答えは冷ややかなものだった。


「離せ」

「でも、お兄様…」


「何故、私がお前と街に行かなければならない」

「先程も申しました通り仲直りとお兄様との仲を深めたいと思って…」


食い下がるクラリスに対してクライドは呆れるように言った。

「断る。私は自分の妻意外と出掛けるつもりは毛頭ないからな」


クライドはクラリスに対して冷たく言い放つと広間から出て行った。



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