クラリス様が連れて来た場所には三人の令嬢がいた。
三人のうち一人は気の強そうな、高価なドレスに身を包み、ツリ目の顔でいかにも悪役令嬢みたいな方がいた。
残り2人は大人しそうな雰囲気だが私を品定めするように見ている。
そう感じとれた。
「アリス様。こちら私が仲良くして頂いている方々達なんですの」
「初めまして。アリス·フィールドです」
私はカテーシーをしながら挨拶をした。
「ご機嫌麗しゅうアリス様。私は伯爵令嬢のカヤと申します」
「同じくリアス伯爵家の長女リリスです」
「シラクラ公爵家の次女ラタナと申します」
三人はそれぞれ私に挨拶を返した。
三人とも位が高い貴族だった。
それもそのはずだ。
クラリス様の友人ならば爵位が高いだろう。
三人それぞれ流行りのドレス、アクセサリーを身につけている。
煌びやかと言えば聞こえは良いが上品さとは些か僅かにかけ離れた派手な格好である。
カヤは私を見下すように言った。
「実はアリスはフィールド家の方だと最近知って驚きましたわ。フィールド家のミカ様とは仲良くして頂いていた時期がありましたが、アリス様のお姿を見たことがなかったものですから…」
「そうですか…」
「ああ…。でも、アリス様に良く似た侍女を見掛けたことはあります。いつもボロボロの姿でみすぼらしく、ミカ様が困っていましたわ」
カヤはミカと交流があり、私が過去にフィールド家で侍女の仕事をしていたことを偶然目にしたのだろう。
直接彼女に虐げられたり、何かを言われたことはないがミカが私に関することでデタラメなことを言ったのだろう。
「まぁ、そうでしたの?いくら侍女でも身なりぐらい気をつけて欲しいですわね」
「そうですわ。我が屋敷ではそのような方がいたらお父様が追い出してしまいそう…」
口々にカヤ達は好き勝手に言い出す。
彼女は知っているのだろう。
私が侍女をしていた時のことを。
だからこうやってわざとこの場の話題にしたに違いない。
「でも、どうしてアリス様は社交界には出て来られなかったのですか?是非ご挨拶したかったですわ」
「カヤさん。アリス様だって何か事情があったに違いないわ。そのように踏み込んでは駄目よ…」
「ごめんなさい。私ったら…」
クラリス様が私を庇うように言うがカヤは反省しておらず、挑発的に私の出方を伺っていた。
もう耐えるのはやめた。
私は笑みを浮かべ静かに口を開いた。
「カヤ様。考えて言葉を発して下さい」
静かな笑みを崩さず、私は姿勢を但して凛とした表情で告げた。
「私はクライド様の婚約者です。私を貶めるというのは国王陛下を貶める行為と同じことです」
「そんな…私はただ…」
慌てるカヤに私は真っ直ぐな目を彼女に向けて言葉を続ける。
「伯爵令嬢である貴方はそれくらいご存知だったかと思いますが…」
「…………ッ」
カヤはかぁと顔を赤くした。
私から指摘されて自分が行った行為を恥じたのだろう。
(私から言い返されると思ってなかったかも…。昔の私はミカの言うことに対してじっと耐えていただけだったから…)
もし彼女がそのことを知っていたのなら私なんて簡単に言い任せることが出来ると思ったのかもしれない。
「アリス様…。カヤさんも悪気があった訳では無いの。許して。私が今後このような無礼なことが無いように気をつけるから…」
「クラリス様…」
クラリス様はそっとカヤの手を取って、「大丈夫よ」と優しく微笑む。
まるでどっちが悪人なのか分からない。
周囲にいた貴族達は遠巻きに私達のことを見てヒソヒソと噂をした。
『伯爵家のご令嬢が婚約者様に無礼を働いたみたいだな』
『しかし、令嬢に非があったとはいえ国王陛下のお名前を出すとは飛んだ強気なご令嬢だ…』
『でも、さすがはクラリス様ね。伯爵家のご令嬢を庇い、この場を納めようとするなんて』
周囲に取ってクラリス様が全て正しく見えているのかもしれない。
でもそれは違う。
王族ならば自分の友人であろうとも正しさを示さなければならない。
それが上に立つ人間の責務だ。
「アリス様…」
クラリス様は弱気な態度で私を見る。
そんな彼女に私はにこやかな表情を浮かべた。
「分かりました。ではこの場は王族であるクラリス様にお任せ致します」
「良かったわ!分かってくれて…」
「王女のクラリス様はどのような処分を彼女に下されるのか私には存じませんが…」
「でも、私は彼女を処分なんて…!」
焦るクラリス様に私は真剣な表情で言う。
「王族ならば国王陛下の婚約者である私への発言をした彼女を貴方は庇うのではなく、咎めるべき。そうではありませんか?仮にも貴方様は王女です。間違いを起こした場合正すのが正しい在り方だと思います」
「そ、それでは貴方は彼女に罰を与えたいの…!」
私から正論を突き付けられて図星になったクラリス様はムキになって私に食ってかかる。
何も私はカヤに罰を与えたい訳では無い。
自分の地位を勘違いして、弱き者を見下すことが問題なのだ。
彼女のことを本当の友人であれば怒り、正しさを指摘しなければならない。
それがクラリス様の役割だ。
間違っても兄の婚約者の私を陥れる為だけに協力させてはならない。
クライド様がどのような人なのか知っているのに…。