「えっ…?」
困惑する私にクライド様は言葉を続けた。
「何かあったら私に言うようにお前に言ったはずだ。まさか忘れていたわけではあるまい」
「でも、ヨルから聞いたはずでは…?」
「私は確かに聞いたが私はお前の口から直接聞いていない」
私は彼の言葉に口ごもる。
クラリス様から招待状を貰った時、本当はクライド様に相談すべきか迷った。
建前では王女様の誘いだから断ることができないと自分に言い訳をしたが、本当はクライド様に心配を掛けたくなかった。
「夜に私の部屋に来い」
「えっ…」
戸惑う私にクライド様は平然とした表情で言った。
「私と一緒に寝てもらう」
「!?」
「大丈夫だ。安心しろ。何もしない。ただの添い寝だ」
「でも、それは……」
(添い寝って…そんなの無理よ…。あんなことがあったばかりなのに…)
不安に思う私に彼は素っ気なく、でも優しい口調で言った。
「一人だと色々思い出して考えるだろうお前は。だから今日ぐらい一緒にいろ。命令だ」
彼が私のことを考えてくれているのだと感じた。
彼に私のことを諦めて貰うためにはここで受け入れてはいけない。
だけど今の私は素直に彼の優しさを受け入れることにした。
「…ありがとうございます」
****
夜。
クライド様の自室のベッドの上に座っていた。
「何故お前はそんなに離れた場所に座ってるんだ?」
「いえ、そんなことありません。これが普通です!」
慌てて私は彼に誤魔化す。
今の私の格好はネグリジェの上に薄手の羽織ものを羽織っている姿だ。
私がクライド様の自室に呼ばれたことを知ったカミラは大いに勘違いして、王宮に帰って来るとすぐに浴槽の中に浮かべた花の湯で温め、身体を念入りに磨いてくれた。
お陰で全身ツヤツヤだ。
私はクライド様の方をチラッと見た。
彼の姿は白のガウンを身に纏い、逞しい胸板が見えて、風呂上がりということもあって彼の顔は少し熱ったように見えた。
これで緊張しない方がおかしい……。
クライド様は私の前に立ち、私に顔を近づけて真剣な表情で言った。
「来い…」
「!」
クライド様は突然私を抱き抱えた。
「あ、あの…クライド様!?」
慌てる私を彼はベッドの中に運んだ。
(これってもしかして……)
「誤解するな。ただ寝るだけだ」
クライド様はそう言って私の身体を抱き締めたままベッドに横になる。
彼の暖かに包まれながらも私はドギマギとする。
こんな体制で寝るとは思わなかった…。
一緒に寝るとは聞いていたけど、まさか抱きしめられるなんて…。
そんなことを考えている私に彼は言った。
「こうすると落ち着くだろう…」
「私の為に…」
抱きしめられたまま彼の顔を見上げる渡しに彼は平然とした表情で言った。
「ほかに何がある」
私は込み上げてくる温かさを感じて彼の顔が見れずに俯いた。
彼が私を気遣って、不器用ながらに優しくしてくれたことに嬉しさを感じる。
クライド様は言葉が足らなく、時に冷たく見えることもある。
だけど今私は彼の優しさが無性に嬉しかった。
「…ありがとうございます」
突然、腕の中で少しだけ優しく、そして強く抱きしめられた。
「お前も疲れただろう。もう眠れ」
「そうですね。そうします…」
私は彼の言葉に従い、目をとじる。
やがてすぐにうとうととした微睡みがやってきて、私は眠りに落ちていった…───。