翌日の朝。
クライド様と朝食を終えた私は庭園にいた。
柔らかい風が吹き抜け、美しい花々が揺れた。
(ここの庭園は相変わらず美しいわね…)
クライド様は執務室にこもって仕事をしている。
昨日私が襲われたことを気にしていた彼は私の護衛を強化すると言った。
城内でもそのようにされてしまうと、息が詰まってしまう。
私は彼を宥めて城内ではヨルに護衛をお願いしたいと申し出た。
そして今彼はクライド様に用があると言って、別の騎士が離れた場所で私を護衛している。
花を愛でながら私の心は癒されていく。
花は昔から好きだ。
いつも悲しい時、辛い時に花を見ていると癒されて元気になれた。
もしあのままクライド様達が駆けつけてくれなかったら私は今頃、花を愛でることも出来ないくらい精神的深く落ち込んでいたのかもしれない。
「アリス…」
後ろを振り向くと別の騎士と交代したばかりのヨルが私に近づいて来た。
「ヨル。もう終わったの?」
「待たせて悪かったな……」
「ううん。大丈夫だよ」
ヨルは私の顔を見つめた。
「ヨル……?」
神妙な面持ちをする彼に私は不思議そうな顔をする。
「まずはお前に謝らせて欲しい」
そう言ってヨルは私に頭を下げた。
「悪かった。俺が傍を離れたばかりにお前をあんな目に合わせてしまって」
「顔を上げて!そんなのヨルのせいではないでしょう。あの時は仕方なかったのよ…」
「しかし…」
「良いから」
私の言葉に申し訳なさそうにヨルは顔を上げる。
「ねぇ、本当に怒っているわけではないの。ヨルは私と離れたあと何処にいたの?」
私は彼に疑問を投げつける。
クラリス様達が居なくなったあとヨルは何処にもいなかった。
いつもの過保護な彼ならば何も言わずに私の前から居なくなることはない。
もしかしたら何か理由があったのかもしれない。
「お前と離れたあと。俺は宰相の知り合いの貴族に捕まって、長々と話をしていた。相手は伯爵だ。無下にも出来ねぇし、それに陛下から頼まれていたこともあった。すぐにお前の傍に戻るつもりだったが。あんなことになるとは……」
「何度も言うけどヨルのせいではないわ。私自身が注意に掛けていたのよ。だから自分を責めないで」
罰が悪そうな顔をするヨルに私は彼の手を握って顔を覗き込みながら言った。
「でも、ヨル達は私を助けに来てくれた。それだけで私は嬉しかった」
「アリス…」
「だから気にしないで。自分を追い込んで責めるのも無しだからね」
「お前がそう言うなら……」
わざと怒った振りをする私にヨルは苦笑して答えた。
ヨルと顔を見合わせて思わずクスッと笑った。
「聞きたいことがあるんだ。お前が倒れる前に何か異変とかはなかったか?例えば…誰かがお前に飲み物を渡して来たとか…」
真剣な顔で話すヨルに私は思案する。
そして私はある事を思い出し、ハッとした。
「怪しいかどうかは分からないけど…。あの時、侍女からカクテルを貰ったの。カクテルを飲んだあと、急に眠気がしてしまって…」
「おそらく睡眠薬を盛られた可能性が高いな。