午後の昼下がり。
パシヴァール王国の下町。
幾つもの屋台が並び、活気づく人混みの中に私とヨルの二人はいた。
私とヨルはいつもの格好とは違い、私金髪の髪を後ろで一つの三つ編みに結い、民族衣装のワンピース姿にヨルは私と同じ黒地の民族衣装を身に纏い、腕には金色の腕輪を付けていた。
「やっぱり似合うな。俺の目に狂いはなかった」
私の隣を歩くヨルは満足気に言った。
それに対して私は彼に問う。
「ねぇ、ヨル。この服どこで手に入れたの?」
「知り合いから買ったんだよ。お前に似合うと思ってな」
(こんな可愛い服着たの初めてだわ)
いつも城内では綺麗なドレスを着させてもらっているけれど、コルセットが無くて着やすくて可愛い民族衣装を着るのは初めてだった。
ヨルは昔からセンスが良いと思っていたけれどここまでだったとは……。
「色んな店があるのね…」
私は周囲の立ち並ぶ店を眺めながら呟くように言った。
市場には美味しそうな匂いがする串刺しの店、変わった果物がある店、アクセサリーといった露店が並んでいた。
「ここの下町は色んなものが売っているからな。たまに隣国の商人とかが来るんだよ」
「じゃあ、他国でしか買えない珍しいものもあったりするの?」
「そうだ。だからいつも人が多い」
「そっか」
私はヨルの言葉に納得した。
隣国の商人が出入りしているならば当然のことなのもしれない。
屋台の中を歩いていくと何やら芳ばしく、食欲をそそるような美味しそうな匂いがした。
「おっ!ちょっと待ってろ」
「ヨル…!」
ヨルは急に何かを見つけて、慌ててその場から駆け出した。
どうしたんだろう。
急に……。
私は近くの近くにある壁際に背を預けて彼を待っていることにした。
(それにしても…こんなところがあったなんて今まで知らなかった……)
街には何度も行ったことはあるが下町は初めて来た場所だ。
周囲を見ると活気づく店、笑顔で買い物をする親子連れ、隣国の商人が物を売る光景。
誰もが楽しそうにしていた。
(良いな。こういうの……)
私は心が和むのを感じた。
全てが終わったあと、庶民になって下町で住むのも悪くない。
そう思えた。
「待たせたな。ほら」
声と共に急に後ろからパイを差し出した。
後ろを振り向くとヨルだった。
パイを受け取り、私はヨルにお礼を言った。
「ありがとう。もしかしてこれを買いに行っていたの?」
「ああ。熱いうちに食ってみろ。格別に美味いからさ!」
ニッと笑うヨルに私は半信半疑でヨルに言われたとおりに一口パイをほうばった。
サクッとした軽い音と共にパイの中から牛肉の旨みと人参、玉ねぎの野菜の甘みが口に広がった。
「美味しい!」
「そうだろう。ビーフランパイって言うんだよ。王都にはなくって、ここでしか買えないんだ。お前に食わせたいって思ってさ」
「ヨルは良くここに来るの?」
「たまにだ。小腹が空いた時にたまにふらっと立ち寄る程度。でも、ここには美味いもんが色々あるからな」
「なるほど…」
私は呟くように彼に答えてから手に持っていたビーフランパイをあっという間に平らげてしまった。
「見たい店とかあるか?初めてだろ。こういう場所」
「そうだなぁ……」
歩きながら立ち並ぶ店を見ていく中で私は思わず一つの露店の前で足を止めた。
その露店は珍しいアクセサリーが多く並べられていた。
「綺麗……」
並べられているアクセサリーの数々はとても綺麗で美しく、変わった水晶石を使ったものが多くあった。
その中で私は銀色のブレスレットに目を止めた。
細くてシンプルだが水晶石が嵌め込まれていて吸い込まれそうなくらい美しかった。
「そいつが欲しいのか?」
「ううん。ただ綺麗だなと思って…」
ヨルに私は慌てて誤魔化すように答えた。
「お目が高いね。お嬢さん。コイツは隣国の鉱山でしか採取できない水晶石を使ったブレスレットなんだよ。しかもこの水晶変わったもので、夜になると水晶石だけが光るんだよ。ご令嬢たちに人気の品だ」
(珍しいものなんだ…)
店の年配のおじさんに言われて私は驚く。
確かにおじさんが言うように見れば見るほど美しいブレスレットだ。
女性に人気があるのも頷ける。
「親父、コレを一つくれ」
「まいど。良かったね、嬢ちゃん。彼氏からプレゼントもらって…」
「あ、あのヨル…私は……」