遠慮する私を無視してヨルは商人のおじさんにブレスレットの代金を渡す。
そして彼はその場から歩き出した。
「また宜しく」と言うおじさんの声を背に私は彼の後を慌てて追いかける。
「ヨル…待って!」
ヨルは突然、立ち止まり私の腕に銀色のブレスレットを付けた。
「あのヨル…お金私払うから」
「要らねぇよ。これはお前にあげたくて俺が勝手に買ったんだ。要らなかったら捨ててくれて良いから」
「捨てるわけないでしょう」
私はヨルに微笑んでお礼を告げた。
「ありがとう。大切にするから…」
私は素直な気持ちを口にした。
昔は彼が私のことを妹にしか思っていないかもと考えたこともあったけれど、ヨルはいつも私のことを気遣って、大切にしてくれた。
このブレスレットだって私のことを想ってプレゼントしてくれたのが伝わった。
心が満たされるような嬉しさが溢れ出す。
私は彼の気持ちが嬉しかった。
「なぁ、アリス…。ブレスレットの意味って知ってるか?」
「それってどういうことなの?」
不思議そうな顔をする私にヨルは私のブレスレットに手を触れた。
「『永遠』『共にいる』ということだ」
「そんな意味があるんだ…」
「あとは…」
ヨルは私の耳元で囁くように言った。
「『束縛』」
彼の甘い声に思わず全身が痺れるような感覚に陥りそうになった。
私は顔が赤くなる。
「だから俺的には毎日お前が付けてくれると嬉しいんだけど。でも強制はしない」
「~~~~」
顔を赤くして動揺する私を見てヨルは私の手を握って歩き出した。
「他の店も見て回ろうぜ」
私はヨル連れられて歩き出す。
大切な人からこんなことを言われたら嬉しくないはずがない。
彼の真っ直ぐで偽りが無い気持ちに私は嬉しさを感じている。
だけど何故か心のどこかでクライド様の顔が浮かんでしまった。
どうしてなのか自分でも良く分からない。
私は複雑な気持ちに陥ってしまっていた。
***
オレンジ色の空が広がる中で私とヨルの二人は街を見渡せる小さな丘の上に来ていた。
「凄く綺麗……」
夕焼けの中で街を見渡す。
夕焼けに照らされた街並みはとても美しく、壮大に見えた。
「ここからだと王都の街並みが良く見えるだろう?それに夜になると街並みが夜景に変わって綺麗なんだ」
「今でも充分綺麗なのに…。私こんな素敵な場所があるなんて今まで知らなかった……」
感嘆な声をあげながら言う私にヨルは満足気な顔をした。
「俺もつい最近知ったんだ。それでいつかお前をここに連れて来たいって思ってた。お前のことだから絶対気にいるだろうと思ってな」
「ヨル……」
街並を眺める私の隣でヨルはふっとした表情で言った。
「こうやって二人でいると思い出すな。あの時、二人で夜に星を見に行ったこと」
「そうだね。あの時見た星はとても綺麗だったね」
「お前なかなか来ないからさ、帰ろうと思ってたんだぜ」
呆れたような顔で言うヨルに私は笑って返した。
「だけどヨルは屋敷から抜け出すのに手間取っていた私を迎えに来てくれたじゃない」
私は幼い頃。ヨルと二人でフィールド家から少し離れた森の湖の近くで星を見に行く約束をしていた。
当時の私は継母、侍女達から大量の仕事を押し付けられて夜遅くまで仕事をしていた。
子供だった私は作業が遅く、終わったのがヨルと約束していた時間過ぎ去ろうとしていた。
私は慌てて屋敷を抜け出そうとするが、運悪く屋敷の前を衛兵が歩いていた。
子供一人屋敷から抜け出したのがバレてしまったら屋敷に連れ戻されてしまう可能性が高い。
お父様は世間体を気にする人だ。
暫く外出禁止にされてしまうおそれだってある。
そうなればヨルに会えない。
私は屋敷の外の庭か抜け穴が無いか必死で探していた。
そんな時「こっちだ」と言う声が聞こえた。
疑問を感じながらも声の方に進んで行くと、庭の住みの塀の壁に小さな抜け穴を見つけた。
穴を潜ると屋敷の外に出られた。
そして目の前にはヨルがいた。
彼は私を屋敷まで迎えに来てくれたのだ。
それから私達は二人で森の湖の近くまで星を見に行った。
彼と二人で見た夜空に浮かぶ満点の星々は美しく煌めいて嫌なこと、辛いことなんて忘れてしまうくらい綺麗だった。
あの時の光景は今でも忘れられない思い出だ。
「アリス…」
突然、彼から名を呼ばれて私は彼の顔を見た。
「どうしたの?」
「俺はお前のこと諦めるつもりはないから…」
真剣な顔で見つめる彼を見て私は思わずドキリとした。
「でも、私は……」
私は彼の言葉に戸惑ってしまう。ヨルの手を見ると手が微かに震えていた。
ヨルは自分の想いを私に伝えてくれた。
だったら私も彼に自分の気持ちを話すべきだ。私は口を開き、彼に言葉にして伝える。
「私は昔からヨルのことが好きだった。ずっとあなたのことを待っていた…」
「アリス…」
「だけど、今の私誰とも結婚する気はないの。時が来たら私はクライド様の婚約者という立場を捨てて、この国を出て庶民になって一人でひっそりと暮らしたい。そう思っている」
「だったら俺も…!」
ヨルは私を抱きしめて必死な表情をして言った。
「俺が今まで地位に就いたのはお前の隣に居たかったからだ!お前は貴族令嬢でスラム街の俺とは身分が違う。だから国王陛下の従者という地位を手に入れてお前を迎えに行くつもりだった」
ヨルは私を強く抱き締めた。