(まさか…。その声は……)
つい、そのまま返事をしてしまったことに後悔してしまうが、もう遅い。
部屋の中にクラリス様が入って来た。
「クラリス様…」
緊張した面持ちの私にクラリス様は私の方に駆け寄って手を取り、ぎゅっと握った。
「アリス様!ご無事で良かったですわ!私、アリス様のお話をお聞きしました時、胸が張り裂けそうで心配しておりましたの。アリス様に何かあったらと思うと…」
目に涙を浮かべて悲しそうに話すクラリス様。
これがきっと彼女が周囲を魅了し、騙してきた演技なのだろう。
少し前の私ならきっと騙されていたのかもしれない。
だけど今は違う。
私はそっと彼女の手を話した。
「心配して下さってありがとうございます。この通り私は無事です」
「本当に何処も怪我はないの?」
「ええ」
クラリス様は心配したあと、一瞬だけつまらなさそうな顔をした。
私はそれを見逃さなかった。
私の視線に気づかなかったのか彼女はすぐに私を気遣う振りをする。
「良かったです。さすがお兄様ですね。窮地に陥っているアリス様を見事に救い出すなんて。ところでアリス様。お兄様は私のことを…その何か言っていたかしら…?」
さりげなく彼女は私に探りを入れて来た。
(もしかして、クライド様がクラリス様のことを疑っているのだと勘づいたのかしら?)
ここは下手な切り返しよりも知らない振りが良いだろう。
クラリス様は嘘をつくことが上手い。
こちらが下手に鎌を掛けて情報を引き出すよりも向こうの出方を待った方が良いだろう。
私は小首を傾げながら不思議そうな顔をする。
「クライド様がですか?」
「知らないなら良いのです。変なことを言ってしまい、申し訳ありません。忘れてください」
クラリス様は私に微笑みを浮かべた。
「アリス様のご無事が確認出来たので安心致しましたので、私はこれで失礼します」
「もう、行かれるのですか?」
「ええ。これから少し予定が入っていまして…また今度一緒にお茶しましょうね。では、ごきげんよう」
クラリス様は部屋を後にした。
彼女が去った後。
私は息を吐き出した。
(何か仕掛けて来るかもと思っていたけれど、結局何もなかった…。でも考えればそうよね。ここで動けば自分が疑われることは間違いないんだもの)
「大丈夫ですか?アリス様」
カミラの言葉にハッと気づき、私は苦笑した。
「平気よ。少し疲れただけ」
「では座ってて下さい。疲れが取れるハーブティーをお淹れしますね」
「ありがとう」
私はカミラに促されてソファに座った。
カミラはテーブルの上に置かれたティーカップの中にハーブティーをゆっくりと注ぐ。
湯気と共に清涼感漂う香りが鼻腔をくすぐった。
「どうぞ」
「ありがとう」
ハーブティーが入ったティーカップを手に取ろうとした瞬間、再びドアをノックする音が聞こえた。
私は返事をし、室内に入って来たのはクライド様だった。
今日は来客が多い。
私は慌てて席を立った。
「クライド様!」
「座ってろ」
クライド様は私の目の前のソファに腰を下ろす。
カミラは彼の前に紅茶を差し出した。
「お前に話が会って来た」
「お話というのは…?」