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第57話 王太子の来日

「一見見るとエリオット·ユージニス無害な男だ。だが奴はクラリスと友人関係にある。もしクラリスが動くとしたらユージニスに接触を測ってくるはずだ」


「あの我儘王女か…。結局あのあと我儘王女と大臣の繋がりとなる証拠は調べても出て来なかったんだろう?」


クライドはため息をついた。

「ああ。大臣の屋敷、城内で大臣が使用していた部屋、全て合わせて調べたがクラリスと繋がっている証拠は一つも出て来てない。証拠が無いということは大臣はクラリスに接触を測り、計画を実行する前だった…ということかもな」


「どちらにせよ。大臣があの我儘王女の部屋に入って行くところを他の侍女が見たんだ。何かあったのは間違いないはずだ」

「………………」


今回大臣からクラリスと繋がる証拠が見つかればクライドは義妹を国から追放しようと考えていた。

義妹はこれまで自分が欲しいと思った物に対して強引な手段で手に入れ、飽きたらすぐに捨てていた。

表では優しい聖女のようだとチヤホヤされているが影では自分の利益の為だけに簡単に他人を切り捨てる。

我儘で傲慢な王女だと影で言われていた。

もっともクラリス自身そのような噂に気づいていない。


自分のもっとも大事な女性であるアリスに危害を加えようとした時点で許さるべき行為なのだが。


しかし自分の一存でクラリスを国外追放することは可能だが、クラリスの方には亡くなった王妃に忠実だった一部の貴族達が付いている。

さらに彼らの他に場内ではクラリスを支持する派閥も存在している。

クライドは前国王の指示で次期国王とされていたが、もしそれが無かったとしたら王位継承権を義妹のクラリスと争うことになっただろう。


クラリスを国外追放すれば派閥達は黙っていないはずだ。

だからこそ、彼女を追放する為に大臣と繋がりがある証拠を手に入れたかったのだが…。

ままならない…。


「証拠が無い以上、あの女の追放は難しい。エリオット·ユージニスの滞在中のアリスの護衛任せたぞ」


「承知致しました。陛下」


ヨルは静かに答えたのだった。



****


二週間後。

条約会談当日。

淡いパープル色のシックなドレスを着た私はカミラと共に会議室に向かいながら廊下を歩いていた。


(うぅ……。緊張する……)


王族の会議なんて初めてで、どうしたら良いのか分からない。

クライド様はただ隣で座っていれば良いと言っていたのだけど、本当に私が出席していいのか、場違いではないのか戸惑ってしまう。


だけど引き受けた以上、お飾りとしてでも自分の役割を果たさなければならない。


(ここは頑張るしかない!)


私は弱気になる心を振るい立たせて決意を新たに前を向いた。


「助けてくれ~~」


その時、突然遠くから何か聞こえた。

私は思わずその場に足を止めた。


「どうかされましたか?」

「ねぇ、何か聞こえない…?」

「いえ、得には…」


不思議そうに言うカミラ。

私は違和感を感じて、もう一度静かに耳を済ませた。

やはり遠くから声が聞こえる。


「少しだけ待ってて!」


私は声が聞こえる方へと駆け出した。

渡り廊下から中庭に出ると庭園にある大きな木の前にたどり着いた。

木の枝の上には金髪で青い瞳の青年が子猫を抱き抱えて木にしがみついていた。


(どうして、あんなところに人が…)


私の存在に気づいたのか、青年は私の姿を見つけると、ぱぁぁと安堵した表情を浮かべた。


「良かった!助かった~~」

「あの、なぜそのようなところに…?」


「庭園を散歩していたら木の上で降りられなくなった子猫を見つけてしまって、助けようとしたんだが僕まで降りられなくなってしまって…。それで助けを呼んでいたんだ」


子猫を助けようとして自分まで降りられなくなるなんて。

他の人なら見て見ぬ振りをするのに、この人は優しい人なのかもしれない。


「わかりました。今すぐ助けを呼んで来ます!」

「えっ?きみが助けてくれるわけではないの?」


急いで助けを呼びに行こうとする私の背に青年は焦ったように身を乗り出す。


その瞬間。

ボキッと音を立てて青年が乗っていた枝が折れてしまい、私の方へと青年と猫が降って来た。


「アリス!!」


突然、声と共に誰に身体を押されてしまい、地面に転びそうになる。

足を地面に強く踏みしめ、何とかその場で体制を保ちことに成功する。

直後、ドサッとした大きな音がした。

振り向くとヨルが私の代わりに落ちてきた青年の下敷きになっていた。

私は慌ててヨルに駆け寄る。


「ヨル!大丈夫!?」

「ああ。問題ねぇよ」


ヨルは何事もなかったかのように身を起こし、身体についた土を払った。


「ありがとう。きみたちのお陰で助かったよ~~。この子も無事だ」


青年は私達に近づき、腕の中にいる子猫を見せた。

白猫の子猫は人見知りせず、あどけない可愛さでこっちを見ていた。


「可愛い…!」

「触ってみる。可愛いよ」


和やかな雰囲気の中、ヨルは軽く咳払いをして青年に視線を向けた。


「エリオット殿下。あまり無茶をされては困ります。あなた様に何かありましたらユージンニス国に顔向けできません」


「あははは。そんな大げさだよ。僕がこのくらいで死ぬはずないじゃないか」

「ユージニス国…。もしかしてこの方は……」



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