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第58話 波乱の会議

「ああ…。この方は…」

ヨルはハッとし、口元を押さえて口調を正す。


「このお方は隣国のユージニス国の第一王太子殿下。エリオット·ユージニス様です」


(じゃあ…この方がクライド様が言っていた隣国の王太子!?)


私はチラッとエリオット様を見る。

確かにクライド様の言ったとおり誰でも気さしく、人当たりが良い印象だ。


「あっ!もしかして、きみがクライド国王の婚約者なのかい?」

「大変申し遅れました。私はアリス·フィールド。クライド·パシヴァール国王の婚約者となります」


私はドレスの裾を摘んでカテーシーで挨拶をする。

エリオット様は顎に手を当てて私をじっと眺めたあと、腕に抱いていた子猫をヨルに預けた。


「ちょっと持ってて」


エリオット様はずいっと顔を近づける。

「!」


まじかで見る彼の顔は整っており、思わずドキリとしてしまう。


「アリスと言ったね。良く見るときみ可愛いね。さすがあのクライド国王の婚約者なだけあるよ」


「あの……」


戸惑う私を無視してエリオット様は私に手を差し出してきた。


「会談が行われる会議室の場所が分からず迷ってしまっていたんだ。もし良かったらきみが案内してくれないか?」


「申し訳ありません。エリオット様。アリス様はこの後少々用事がございますので、私が代わりにご案内致します」


「僕は待つのは構わないよ。それにきみには猫の世話があるだろう?」


平然と言うエリオット様にヨルは笑顔で返す。

「いえ、この子猫は他の者に任せますので、私にご案内させて下さい」

「好きにしていいよ。ではアリス。またね」


エリオット様はため息をついてその場から歩き出し、その後ろ姿をヨルが彼に気づかれないように明らかに面倒くさそうな顔をしてついて行く。


(あの強引さは、ちょっと厄介かもしれない……)


私は彼らの後ろ姿を見てそう感じてしまう。

クライド様から忠告されたとおり、エリオット様には関わらないようにした方が良いのかもしれない。

さっきはヨルが機転を効かせてエリオット様から私を遠ざけてくれたが、もし彼に誘われてしまえば断れなかったはずだ。


(なるべくエリオット様には近づかないようにしなきゃ)


私はそう決意をする。

(そういえば、何か忘れているような気が…)


私はカミラを渡り廊下で待たせていたことにハッと気づいた。


(ヤバい…!はやく戻らないとカミラが心配してしまう!)


私は慌ててカミラの元へと急いだのだった。


****


王宮の会議室。

円卓に似たテーブル席があり、そこには王族、宰相、貴族、ユージニス国の代表であるエリオット様、彼の従者が席についていた。

私の侍女であるカミラは会議室まで付き添ってもらい、通常の仕事に戻っている。

ヨルは私の護衛騎士でもあり、クライド様の騎士でもある為会議の参加を特別許されている。


(本当にここに私がいても良いのかしら…。場違いな気がするのだけど…)


会議室の中で漂う緊張感を感じながら、私は内心萎縮してしまう。

そんな中、クライド様が口を開いた。


「この度はエリオット王太子に我が国までお越し頂き、感謝申し上げます」


「ありがとうございます。僕もパシヴァールに訪れるのは初めてなもので、どのような国か興味がありました。仕事が終わりましたら観光させて頂こうと思いまして、今から楽しみです」


「もし、ご必要でしたら案内の者を何名か付けることは出来ますので、何なりとお申し付け下さい」


「では、貴方様のご婚約者…」

「断る」

和やかに話すエリオット様に対して冷ややかに答えるクライド様。

一瞬場の空気が凍ってしまう。


「で、では全員揃いましたので、条約会議を始めましょう」


近くにいた50歳半ばの年配の朗らかな男性…宰相が空気を変えるように切り出した。

宰相の言葉にクライド様は小さく頷く。

宰相はクライド様の顔を見て司会を進行していった。


「では、パシヴァールとユージニスの条約の取り決めの条件と致しまして、パシヴァールの方からユージニスで収穫されている白麦と碧晶石を他の国より優先にパシヴァールに独占で輸入、その見返りとしてパシヴァールで生成されている薬と紅をユージニスに率先して送るという条件ですが、問題はありませんでしょうか?」


隣国のユージニスでは白麦といった作物と碧晶石が存在する。

白麦は名前の通り、白の麦といったもので他の麦より少しばかり甘みがある麦だ。

主にパン、ケーキなどに使用されており、ユージニス国では白麦を炊いて、粘り気がある丸いかたちにする。

それを野菜スープの中に入れて食べるとモチモチした食感でスープの味が染みて美味しいと評判だ。


碧水晶石は他の宝石と比べて価値は高く、純度が高い宝石に近い。

アクセサリーに加工したものは貴族達に人気だ。


それにパシヴァールとユージニス国は交友関係がある国。

これを切っ掛けに両国は今回取引と共に同盟国として手を結ぼうと考えていた。


「そうですね。では…」



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