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第64話 王太子の目的

「ごめん、ごめん。そうだったね」


エリオットはクラリスに軽く笑って答えた。

そして紅茶を手に取って一口飲む。

口の中に上品な香りとほのかな甘さが口の中に広がった。


「きみの言ったとおり僕は国王の婚約者殿に会ってきたけれど、彼女は悪女って感じではなかったよ。むしろその逆で世間知らずのお人好しって感じで、困っている人を見捨てることが出来ないタイプの人間に見えた」


エリオットは真面目な顔をしてクラリスにそう言った。


夕食の食事を出された時、ユージニス国に無い料理を目の前に出された。

食材の味をメインにした料理ではなく、香辛料や調味料を使用した料理。

国の文化は違う。

それは料理も同じこと。

違う料理を出されたからといってエリオットは食事を無下にすることはなかった。

出された食事は感謝を込めて頂く。

それは王族、庶民だからと言って関係ない。

世の中には食べたくても食べれない人だっている。

だからこそ食への感謝は忘れてはならない。


あの時、わざとエリオットはアリスを試した。

クラリスの言葉通りの悪女かどうかを見極めるために。


「それにワインを掛けた侍女を庇うために隣国の王太子に意見をするなんてさ、いくら国王陛下の婚約者であっても、場合によっては不敬に問われてしまうのにそれを気にしないなんて。本当に面白い子だよね。あんな子、早々いないよ」


エリオットはクスクスと笑う。

まるで面白い玩具を見つけた子供のように。

そんな彼にクラリスは否定をした。


「で、でも、それはエリオット様の前だから敢えてそのような行動を取っただけなのかもしれません。貴族らしからぬ行動をして他人を魅了するのがあの方のやり方なのです」


クラリスは一度言葉を切り、続けた。


「彼女に魅了されたお兄様は以前と比べて変わりました。お兄様は国王として厳格な態度で公平な裁きを下してこられていたのに、彼女のせいで変わられた。それが私には許せないのです」


「……………」


クラリスを一瞥するエリオットにクラリスは演技で瞳に涙を浮かべさせた。

何が何でもエリオットを自分の味方に付けておかなければならない。

今のクラリスの立場は危うい立場にある。

パシヴァールの第一王女で彼女を支持する派閥もある。

だが、クラリスはアリスを城から追い出す為だけに貴族の男性を襲わせた。

キズモノになったアリスは国王陛下の婚約者として役目を果たすことはなく婚約者の立場を失うはずだったが、結局作戦は失敗し、未遂に終わった。

それに加えて大臣の件では彼が一人で暴走して自滅し、捕まった。

おかげで大臣に関わっていたクラリス様でもがクライドから疑いの目を向けられている。

今度こそ失敗する訳にはいかないのだ。


クラリスは兄のクライドを諦める気はなかった。

初めて彼と出会った時、彼の美しさに酷く惹かれた。

心から欲しいと思った。

欲しいものは全て手に入れる。

どんな汚い手を使ってでも。

それがパシヴァール第一王女クラリスだった。


「昨日、アリス様の本性を見るためとはいえ、侍女にワインをわざと掛けた時は正直良心が痛んだけど…。きみがそこまでいうのだったら分かったよ。きみの頼みを叶えてあげるよ」


クラリスはぱぁと嬉しそうな表情をして喜ぶ。

「ありがとう!エリオット様!」


クラリスは内心ほくそ笑んだ。

エリオットが自分の味方についたのは大きい。

これであの生意気な女を城から追い出すことができる。


「お礼を言うのはまだはやいよ。それに僕はきみと取引をしているからね。成功した時の報酬は忘れないでくれよ」


「もちろんですわ。それよりも、くれぐれも彼女を好きにならないで下さいね」


「当たり前だろう」


エリオットは手にしていた紅茶を静かにソーサーの上にカチャと置いた。

彼は庭園の景色の方へと視線を逸らす。


「僕は誰も好きにならないと決めたんだから……」


エリオットはそう呟くように言った。


****


翌日の朝。

廊下を一人で歩いていると突然、一人の若い騎士から声を掛けられた。


「アリス様…」

「何でしょうか?」


「ヨルを見掛けませんでしたか?彼を探していまして…」

「ヨルなら、確かさっき修練場に行くと言っていましたけれど」


ヨルは今現在私の護衛を続行しているが、大臣が捕まってからは私の身の安全が多少なりとも確保されたようで、どうしても外せない用事の時だけは私から離れることがあり、それ以外は常に一緒にいる。

最も彼が傍にいない間は侍女のカミラ、または別の騎士が私の傍にいるのだが、今日は二人とも用事で忙しいみたいなのでヨルがいない間だけ私な一人でいた。


「修練場か…。困ったな。ここからだと修練場まで時間が掛かってしまう。このあと隊長のところに急いで行かなければならないのに……」


「でしたら、私が届けましょうか?」

「いや、しかしアリス様にそのようなことをさせる訳には…」


「私なら今手が空いていますし、それに困った時はお互い様です」


騎士は少し迷いながらも、ヨルに渡すのである資料を私に差し出した。


「大変申し訳ないのですが、お願いしても宜しいでしょうか?こちらが資料になります」

「ありがとうございます。では責任を持って渡しておきますね」



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