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第66話 猫の散歩

どうして猫の散歩に?

私は疑問を浮かべる。


そんな私を他所に子猫は気まぐれにその場から歩き出す。


「ほら、行こう」

「あっ…」


エリオット様はそう言って歩き出した。

(もう、仕方ないなぁ…)

私は放っておけず、彼の後ろをついて行った。


修練場から少し離れた森に近い園庭の中を歩く。

園庭の中は木々が生い茂っており、木々の隙間から陽の光が差し込み、暖かかった。

サクサクとした草を分で歩く足音がその場から聞こえる。


「いい天気だね~~。園庭の中にこんな場所があったとはね。緑があるのは実に良い。国に帰ったら僕も城の園庭に似たような場所を作るのも悪くないかな」


周囲の風景を気に入ったのかエリオット様は満足そうに眺めていた。


「エリオット様、本当は私に何か用があったのでないのですか?」


前を歩く彼に私は言った。

修練場で私に会いに来たというのは何か私に用があってのことだ。

自分から直接会いに来ればクライド様とヨルから咎められるかもしれないと思い、猫を連れてきたのかもしれない。


エリオット様はふっと困った笑みを浮かべた。


「やはり…散歩という言い訳は無理があったようだね」


先に行くと小さな木陰があった。

エリオット様は先を歩く子猫を捕まえて木陰に腰を下ろした。


「ここ気持ち良いよ。きみもこっちにおいでよ」


エリオット様にそう言われて私は彼の傍に座った。


「失礼します」

「そうだよ。きみの言うとおりだ。僕はきみに用があったんだ」


「用とは何でしょうか?」

「前にきみに観光がてらに街の中を案内して欲しいと言っただろう?実はあれは妹のお土産を選ぶためでもあったんだ」


ユージニス国ではエリオット様の他に第二王太子とは別に末の妹がいる。

王女はエリオット様と歳が離れていると聞いたことがあった。

まだ13歳でデビュタントしていないといわれていたが、話の内容からして彼女のことなのかもしれない。


「きみも噂で知っているかもしれないけれど、僕と妹は歳が離れているんだ。だけど最近はドレスや流行りのアクセサリーではお気に召さなくってね。市政のものに興味があるみたいなんだ」


「どうして王女様が…」

「実は前に一度だけお忍びで妹と市政の屋台に行ったことがあってね。その時にどうやら市政のものが気に入ってしまったようなんだ」


王族や貴族は毎日贅沢品に囲まれて暮らしている。

初めて庶民のものに触れたのならば、きっと物珍しく、刺激になったのかもしれない。

貴族達が口にする豪華な料理は庶民は口には出来ないが庶民には庶民の美味しい食事もあるし、宝石には多少劣ってはしまうがガラス細工で出来た腕輪や髪飾りなども女性から人気がある。

きっと王女様はそれらを気に入ったのだろう。


「それできみに選んで欲しいと思ったんだ。聞くところによると、国王陛下の婚約者でありながらきみは貴族らしからぬところがあるみたいだからね」


(何だか凄く失礼なことを言われたような気がするのだけど…。気のせいかしら…?)


王女様の為に私に観光の案内をして欲しかったのかぁ…。

確かに他国で従者を連れて店を見て歩いても自国ではないので何が女性に人気なのか分からないかもしれない。

貴族相手ならばそのようなことはないと思うが、市政のものなら尚更だ。


エリオット様は申し訳なさそうに私に言った。


「国王陛下からきみの案内は遠慮して欲しいと言われてはいるが、やはりきみの方が詳しいと思ってしまって。無理を承知で頼むがやっぱり付き合って欲しいんだ」


必死で頼み込むエリオット様を見て私は罪悪感に駆られてしまった。

クライド様から言われていることとはいえ、妹の為にここまで頼まれると弱い。

きっと彼は妹のことを大切に思っていることが見て取れる。


王女様のお土産選びくらい付き合っても大丈夫かしら…。

そんなことを思っていた。

その時。


「駄目です」



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