声と共に私の肩を誰かが掴んだ。
私はビクッと驚き、後ろを振り向くとにっこりと笑うヨルがその場に立っていた。
(あっ、これは怒っている…)
顔はニコリとしているが目が笑ってない。
もしかして私が勝手にいなくなってしまったことに対して怒っているのではないだろうか…。
エリオット様はヨルの顔を見て「またきみか…」と呆れたようにため息をついた。
「相変わらずきみは神出鬼没だね。まさか最初から付けてきたの?」
「私はアリス様の護衛騎士ですからね。それよりも…」
ヨルはエリオット様を一瞥したあと、言葉を続けた。
「以前にも申し上げましたがアリス様は観光のご案内は出来ません。私の方から代わりの者を付けるように致しますので、どうかご理解下さい」
「彼女には僕の妹のお土産選びに付き合って欲しいんだ。そのくらい良いでしょう?」
「ならば、侍女をお付け致します」
「融通が聞かないね。きみは。何ならきみと国王陛下も着いてきたら良いよ。それなら文句ないよね」
「えっ、でも…」
エリオット様の言葉に私は慌てる。
ヨルは私の護衛騎士だといっても他の仕事だってあるし、クライド様に至っては多忙だ。
彼らの手を煩わせる訳にはいかない。
やはりここは私がエリオット様に付いて行くことでこの場が収まるのであれば、そうした方が良いのではと思い始めていた。
「では、そうしましょう。陛下に報告させて頂きます。ご日程はどのように致しましょうか?」
「そうだね~。出来れば今日が良いかな。もし不都合があるのなら明日でも構わないよ」
「承知致しました。では、そのようにお伝えいたします」
(私抜きで勝手に話が進んでる…!!)
「わかった。では頼んだよ」
「承知致しました。ではアリス様行きますよ」
「あ、あの…ヨル…」
ヨルは私の手を取り、その場から私を連れ去るように歩き出した。
彼に手を引かれるように園庭の中を歩く中、ヨルはぼやいた。
「たっく…。あの王太子。油断も隙もねぇな」
「でも王女様にお土産を選んで欲しいって言うのは本当みたいだったわよ」
「そりゃあそうだけどよ。何でお前なんだよ」
「それは…」
ヨルは短くため息をついた。
「引き受けたものは仕方ねぇ。取り敢えず俺は陛下に報告してくるから、お前は今度こそ部屋で大人しく待ってろよ。いいな」
「うん……」
私はヨルに短く頷くのだった。
****
(やっぱりこうなるのね…)
午後の昼下がり。
私はエリオット様の観光案内でクライド様達と一緒に街の中を訪れていた。
結局、エリオット様の申し出にクライド様は承諾をした。
私達の姿は街に馴染むようにあまり目立たない服装にした。
その方が王族だとバレない為だった。
「へぇ~~。これがパシヴァールの街か…。色んな物があるね。実に興味深い」
街の中にはガラスで出来た鈴を売る店、庶民や貴族でも気軽に入れるブティク、オシャレなカフェ、鶏肉の屋台などもあった。
エリオット様は興味深そうに店を眺めながら歩いていた。
そんな彼に私は訊ねる。
「何か気になるお店などはありましたか?」
「そうだね~~。どれも気になるけど、ガラス細工の髪飾りってあるかな?それを見たいんだ」
「でしたら、向こう側のお店にあります。行きましょう」
私はエリオット様達を案内しながら奥にある一つの雑貨店に入った。
カラン、カラン。
店内に足を踏み入れると、店内の殆どはガラス細工で作られた商品が所狭しと並べられていた。
硝子の鈴、調度品に腕輪と髪飾り。
どれも透明でキラキラしていて女性が喜びそうな品物ばかりだった。
クライド様は近くにある薄い青みが掛かった腕輪を手に取り、珍しそうに眺めた。
「硝子なのに色が付いているのか?」
「こちらは特殊な素材を使って色を付けているみたいですね。透き通る透明な断面だけではなく、色味を与えることによって様々なデザインを作っているみたいです」
「詳しいのだな」
「以前、本で読んだことがありましたので」
「種類が色々あるな。どれが女性に人気なんだ…?婚約者殿。悪いけど選んでくれないか?」
「私がですか?」