しかし、着いてきてみればエリオットは真剣に妹の土産を選んでいるようだった。
少しばかり彼女にちょっかいをかけるのは頂けないが、今のところ大きな問題はない。
女性の贈り物ならばアリスの方が適任だったのかもしれない。
ヨルの言う通りこれでは何のために同行したのか分からない。
ただ自分たちは言葉どおり着いてきただけに過ぎない状態だ。
(しかし、面白くないな…)
アリスの方に目を向けると彼女は楽しそうにエリオットに人形作りの材料選びをしている。
彼女が目を輝かせて楽しそうにしている姿を目にするのは悪くない。
むしろ好ましく思う。
ただその相手が自分でないことに僅かな苛立ちを感じる程度。
エリオットが帰国するにはまだ時間がある。
クライドはこんな思いを暫くしなければならないのかと思い、思わずため息をついたのだった。
****
「今日はきみのお陰で助かった。ありがとう」
縫いぐるみの材料を買い終えて街の中を歩く中でエリオット様は私にお礼を言った。
「いえ、私は特に何もしていません。でも良い材料が手に入って良かったです。縫いぐるみ作り一緒に頑張りましょうね」
「ああ…」
エリオット様はふっと笑ったあと、小さく呟いた。
「話に聞いていた女とは違うな…」
「えっ?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
彼にそう言われて私は考えることをやめた。
少し気になるが、彼の言葉どおり私には関係がないことかもしれない。
(痛っ……)
突然、足に鈍い痛みを感じた私は自分の足をそっと見る。
すると靴擦れを起こしていた。
履きなれない靴だったからかもしれない。
帰りは街の近くに馬車があり、そこまでたどり着かなくてはならないのだが、距離がだいぶある。
ここは我慢してやり過ごすしかない。
そう思っていた。その時、突然身体が浮いたと思ったら、いきなりクライド様は私を抱き抱えた。
状況が理解出来ない私にクライド様はエリオット様達に静かに告げた。
「すまないが、私は彼女と一足先に戻る」
クライド様は私を抱えたままその場から歩き出した。
「あ、あの…クライド様。下ろして下さい」
「駄目だ」
気恥しさと羞恥心を感じながらも彼に言うが、彼は私の言葉を聞き入れてくれなかった。
暫くして。
街から歩いた先の小さな小道に小さな馬車が停まっていた。
(あれ?今朝乗ってきた馬車じゃないわ…)
どうみても二人用の馬車だ。
クライド様は馬車にたどり着くと、私を馬車の中で下ろし、自分も乗り込んだ。
「あ、あの…?」
「足を見せろ」
真剣な顔で告げる彼に従い、私はそっと靴を脱いだ。
靴擦れで赤く腫れ上がった足首を見て彼は小さく呟いた。
「やはりか…」
「いつから気づいていらっしゃったのですか?」
「さっきの店を出たときからだ。お前の顔色が悪ったからな」
(そんなことにまで気づいてくれていたなんて…)
クライド様は傷薬を取り出し、私の足首に薬を塗ると自分のハンカチを巻いた。
「いけません。ハンカチが汚れてしまいます」
「構わない。それよりもお前の方が大事だ。今は応急処置をしているが帰ったら医者に見せよう」
「ありがとうございます…。それよりも何故クライド様は傷薬を持っていたのですか?」
国王である彼が傷薬を持ち歩くことが疑問に感じてしまった。
彼には必要がないものだったから。
「これは…そのたまたま持っていた物だ。お前が気にするようなことではない」
クライド様は私からふいっと視線を逸らして言った。
「それよりも…」
クライド様は私の瞳を見つめる。
彼の綺麗な顔が私に近づく。
私は思わず彼の美しい顔にドキリとした。
「先程は随分と熱心に王太子の為に動いていたな」
「あ、あれは王女様に喜んで欲しくて…。それに家族を大切に想われている王太子様の力になりたかった。それだけです」
クライド様はじっと私のことを見つめる。
もしかして、私が積極的にエリオット様の為に動いたのがいけなかったのだろうか…。
だけど誓ってやましい気持ちはなく、ただ二人の兄妹が上手くいって欲しいと思っただけ。
私には思い合える家族はいない。
もしかしたら私は少しだけ彼らが羨ましかったのかもしれない…。
「そうか…。アリス一つだけお前に伝えておく」