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第72話 どんな手を使ってでも

「あの…どうして私なのでしょうか?」


伺うように訊ねる私にエリオット様はクスッと笑った。


「きみは自分で気づいていないかもしれないけど、素敵な女性だよ。大人しいけれど正義感が強くて、いざとなると度胸がある。そんな女性はなかなかいない」


彼は私の髪に触れ、唇でキスをしようする。

彼の行動に私は動揺してしまう。

エリオット様は何故このような行動を取るのか分からない。


「だから面白いんだ。きみは」


私は慌てて身体を引こうとした途端、突然私たち二人の前にヨルが手を付き、割り込んだ。


「近づくな」


ヨルは不機嫌な顔をしてエリオット様を凄む。

王太子相手だというのに気にしていない。

隣国の客人なのにそのような態度を取って大丈夫なのだろうか…。

私は慌ててヨルの袖を引いた。


「ヨル…」


エリオット様はヨルのことを見て面白そうな表情を浮かべた。


「きみっていつも婚約者殿が絡むと僕に突っかかってくるよね。もしかして婚約者殿のことが好きなの?」

「あなたには関係ないことです」


エリオット様の言葉にヨルは冷たく一蹴した。


「何だ。つまらないね。きみも彼女のことが好きだったら面白いのに」

「ご冗談を」


「でもさ、安心して。ただからかっただけだから。でも、クライド国王の婚約者ではなかったら興味は持ったかもしれないけどね」


「えっと、では作業の続きをしましょう。ヨルも大丈夫だから。ね」


からかうにしては少し度を過ぎているような気がしないでもないが、トラブルになるのは遠慮したい。

そんな気持ちで私は話題を変えた。

エリオット様は私の顔をじっと見たあと、にこっと笑みを浮かべて私の提案に乗ってくれた。


「そうだね。きみの言う通りしょっか」


私は内心ほっと胸を撫で下ろした。

そして私たちは作業の続きをしたのだった。


***


自室で手紙を書き終わったクラリスは封筒の中に書いた手紙を入れた。

手紙の相手はユージニス国のシル王女だ。

14歳の彼女はユージニス国で最も美しく、歌声が綺麗な王女だと言われている。

彼女は大人しく、気品があり周囲から婚約の申し出が後を絶たない。

しかし兄のエリオットは妹に対して重度のシスコン。

例え婚約の申し出があろうとも自分のお眼鏡にかなう相手ではない限り徹底的に叩き潰し、王女に近づかないようにする。

またシル王女も兄であるエリオットを慕っており彼女もブラコンだったりする。

兄に言い寄ろうとする女性を兄に近づけたいと影で邪魔をしていた。


そのことにエリオットは気づいていないが。

つまり二人揃って似た者兄妹なのだ。

クラリスはエリオットの妹である王女とは数回言葉を交わす程度の面識だが、内気な王女は兄のことになると積極的に動こうとする。

クラリスとは正反対の女性だが使えると感じていた。


彼女が書いた手紙の内容には条約会談に訪れたエリオットにアリスが彼を手篭めにしようとしている。

さらにアリスの悪評を綴っていた。

クラリスとエリオットの二人は友人関係にあり、兄の友人である他国の王女からこのような手紙を貰えばどちらを信じるのは明白。

エリオットにはアリスをこの国から追い出すよう手伝ってもらっているが、保険は掛けていた方が良いに決まっている。


(あの女は今度こそ終わりね…)


ユージニスの兄妹を利用し、外交問題に繋がれば今度こそアリスをこの国から追放することができるはずだ。

今まで失敗続きだが今度こそ成功させてみせる。

クラリスはそう思うのだった。



夕方。

薔薇が咲き乱れる庭園の中を私はヨルと一緒に歩いていた。

本当は一人で庭園を散歩しようとしたら護衛騎士であるヨルが付いてきたという訳だ。

あの後。

エリオット様と一緒に縫いぐるみ作りをしたあと、エリオット様の使いの一人が彼に用があると言って彼を迎えに来た。

作業の続きは後日となり、私たちは庭園に来た。


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