先程自分はアリスに妹が結婚するまではしないと告げた。
それは嘘ではなく。
その通りだ。
自分の中では一番は可愛い妹の幸せが何よりも優先だ。
何処かの馬の骨としか分からない軟弱な男なぞ決して認める訳にはいかないが、自分が認めた男なら考えておいてやる。
しかし、エリオットはもしアリスがクライドの婚約者でなければ先に自分の婚約者にしたいと思ってしまった。
最愛の妹よりも彼女を選びそうになってしまった。
クラリスが彼女を危険視してしまうのも少しは理解できると思ってしまう。
彼女は人を虜にする花だ。
彼女に自覚が無いのはタチが悪い。
(どうかしているな…。人のものなんて絶対に好きにならないのに)
きっとこれは一種の気の迷いだ。
この国を離れたらきっと忘れてしまう。
その程度にしか過ぎない。
(クラリスには彼女をこの国から追い出す手伝いを頼まれているが、これは断った方が良いかもしれないな。報酬は無くなってしまうのは少し痛いけど…)
罪もない者を国から追い出す気にはなれない。
そもそも、そのような権利は自分にないのだから。
エリオットが歩いて行くと見知った後ろ姿を見つけた。
アリスとヨルの二人だ。
二人は親しげに話しており、楽しそうにしていた。
距離感がおかしい。
ヨルがアリスに対する距離感はどう見ても護衛騎士が王族の婚約者に対する距離感ではない。
突然ヨルがアリスの顔に自分の顔を近づける。
二人の顔が重なる。
どう見てもそれは口付けをしているように見えた。
アリスはヨルを否定し、泣き叫ぶどころかアリスはヨルに笑いかけていた。
(二人はそういう関係なのか…)
エリオットは内心驚愕してしまう。
まさかアリスがクライドに対して不貞を行っていた?
純粋な振りをして彼を騙していたというのか。
もしそうならばクラリスの話は真実だということになってしまう。
汚らわしい。
どうして彼女に対してこんな気持ちを抱くのか自分でも良く分からない。
これがもし他の女性ならば見て見ぬふりをしたかもしれない。
胸の内にふつふつと黒い感情が沸き起こる。
それは自分が彼女を信用しかけていたのかもしれない。
彼女から裏切られた気分になってしまう。
酷く最悪だ。
エリオットは小さく呟く。
「彼女に分からせないといけないね。誰を不愉快にさせたのかを」
エリオットはその場から踵を返し、庭園を後にしたのだった。
****
翌日の朝。
朝食を終えた私はエリオット様と約束した広間に向かうために準備をしていた。
昨日の続きで彼と縫いぐるみ作りの作成だ。
体や頭のパーツはもう既に出来上がっているので、もしかしたら今日あたりには完成できるのかもしれない。
私はテーブルの上に置いている作りかけのテディベアを手に取る。
白のテディベアだ。
エリオット様に教える為に私自身が作ったもの。
(完成したら誰かにあげようかしら)
完成した後のことは考えていなかった。
誰か貰ってくれる人はいるのかしら…。
そんなことを考えながら私は再びテディベアをテーブルの上に置いた。
(こんなことをしている場合じゃない!はやく準備しないと!)
相手を待たせる訳にはいかない。
そう思って私は慌てて準備を再開する。
その時、コンコンと部屋をノックする音がした。
私が返事をすると部屋の中に入って来たのはエリオット様だった。
「やぁ、時間には少し早いけど…きみに話が会って来たんだ」
「一体どのようなことでしょうか?」
彼が私の部屋を訪ねてくるなんて珍しい。
何かあったのだろうか…。
不思議そうな顔をする私に彼は近づき、いきなりソファの上に私を押し倒した。
「!」
私は訳が分からず動揺しながらも彼に問う。
「これは一体何なのでしょうか!」
「きみは随分と男性を手玉に取るのが上手いんだね。人の気持ちを利用して振り回して、まるで悪女のようだ」
「おっしゃっている意味がよく分かりません!」