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第75話 底辺の地位の先

何故彼がそんなことを口にするのか理解出来なかった。

私が男性を手玉に取る?

勘違いも甚だしい。

私はそんな器用な人間ではないし、ましてはそのようなことをした覚えは一度もない。

どうしてエリオット様が私を誤解しているのだろうか…。


「僕見たんだ。昨日きみがきみの護衛騎士と口付けをするところを。きみは婚約者がいながらほかの男の相手をするんだね」


昨日ヨルと一緒に庭園にいたところを彼に見られたんだ。

しかも誤解されている。

はやく誤解を解かないと。

そう思い、私は慌てて彼に言う。


「違うのです!誤解です。あれは…」

「きみの話しなんてどうでも良いよ。ねぇ、僕の相手もしてくれる?僕はこの国の客人なんだからさ。もちろんクライド国王には黙ってておいてあげるよ。僕は優しいからね」


エリオット様は微笑みながら私の両手を押さえて首筋に指で触れる。


どうしよう…。

このままでは彼に迫られてしまう。

私は必死で抵抗するがエリオット様から抑えられた手首は動かない。


「くっ…」

「抵抗しても無駄だよ。きみは思い知った方が良い。人の気持ちを利用し、傷つければ最後には必ず自分に返ってくることを」


「私はしていません!お願いですから話を聞いて下さい!」

「煩いな。もう黙れよ」


エリオット様の手が私に迫ろうとした。

その時、ノックの音と共に部屋のドアがガチャっと開かれた音がした。

視線を向けるとそこには一人の侍女がいた。


「も、申し訳ありません…。アリス様に用事があって、それで…。し、失礼します!」

「ま、待って!」


私が止めるまもなく侍女は慌ててその場から逃げ出した。


完全に誤解されてしまった。

さっきの侍女は初めて見る顔だった。

少なくとも私に仕えている侍女では無いようだった。

どうすれば良いのだろうか…。

そんな思いを巡らせる私に対してエリオット様は身体を離した。


「興ざめだ。せっかく楽しめそうだったのに」

「エリオット様…」

「言い訳なら聞きたくないよ。じゃあね、婚約者殿」


そう言ってエリオット様は部屋から出て行った。

誤解されたままではいけない。

私はすぐに彼の後を追おうとした。

だけど私は足を止めてしまう。


今彼を追いかけたところで無駄だ。

彼は私のことを誤解している。

彼と会ったとしても私の話をまともに聞いてくれないかもしれない。

ここは時間を置いて話をした方が良いだろう。

それに先程侍女に目撃された件もある。

きっと不貞を働いたと問題になるかもしれない。


(一度に二度も問題が起きるなんて…)


私は一人頭を悩ませるのだった。


数日後。

「見て、アリス様よ。国王陛下の婚約者なのに隣国の王太子に色目を使って迫ったんですって」

「大人しい顔して大胆なことをなさるのね」


廊下を歩いていた私は思いっきり侍女達にヒソヒソと白い目を向けられながら噂をされていた。


あの後。

私がエリオット様に押し倒されていた姿を目撃された後、侍女を止める間もなく私が不貞を働いたとされた噂は瞬く間に城内を駆け巡った。

私に好意的だった侍女や使用人たち、騎士達は手のひらを返したように冷たく、娼婦だといって私を影で罵っていた。


(カミラはいつも通り私に接してくれているけど、私のせいで悪く言われてないかしら…)


私の侍女であるカミラはいつも私を庇ってくれる。

だけど私のせいで彼女が周囲から悪く言われるのはいたたまれない。

何とかして誤解を解きたいのだが、私が弁解しようとしても周囲は私の言葉に耳を貸さない。


あれからクライド様とは数日程会っていない。

彼は今ユージニス国とシトリックスの間で決まった書類作業で多忙を極めていた。


私はいくら言われても言いけれど…。

カミラを巻き込みたくないし、それにクライド様に誤解して欲しくない。


(あれ?どうして…私こんな気持ちになるんだろう…)


彼を悲しませたくないと思うと同時に彼に嫌われたくないと感じてしまう。

自分でも自分の気持ちが分からない。


そう思いながら歩いていると突然何かに引っ掛かりバランスを崩してその場に盛大に転んでしまった。


(痛たた…)


私はその場から身体を起こそうとする。

その時クスクスと笑い声がした。

顔を上げると2、3人の侍女が私を見ていた。


「大丈夫ですか?アリス様。でも何もないところでお一人で転ばれるなんて、アリス様は器用でいらっしゃるのですね」


「国王陛下の婚約者様ですもの。もう少し教養を身につけた方が宜しいのではありませんか?」


「そうですわ。国王陛下に護られてばかりではお飾りの婚約者になりますし、何より陛下やヨル様から愛想つかれてしまいますよ」

私を転ばせる為に脚を引っ掛けたのは彼女達だろう。

侍女達はニヤニヤした顔で私を見下ろしていた。

私は立ち上がり、にこっとした笑みを彼女達に向けた。

そしてそのまま私は無言でその場を後にする。


私が泣き叫ぶと思っていたのか侍女達は私の行動に呆気に取られた様子だった。

後ろから私に対する陰口を叩く侍女達。

あのまま何か言い返したとしても彼女達の態度は変わらないだろう。

だったら相手にせずにそのまま立ち去った方が良い。


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