このような扱いなんて実家にいた頃に比べたら散々されて来た。
今さらどうということは無い。
だけどこのままにしてはおけない。
自分を大切だといってくれた人たちに迷惑は掛けれない。
(何とかして誤解を解かなければ…)
私はため息をついたのだった。
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午後の広間にて。
私は広間で読書をしていた。
テーブルの上にはティーカップ、紅茶の茶葉、お湯が置いてある。
カミラは慣れた手つきで紅茶を淹れて私に差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
私はカミラにお礼を言いながら微笑む。
そんな私に彼女は申し訳なさそうな顔をした。
「アリス様。先程は申し訳ありませんでした。
私がいない間、あなたに不愉快な思いをさせてしまって…。先程の者達には侍女長に報告と私の方からきつく言っておりましたので…」
「そんな、カミラのせいじゃないわ!気にしないで…」
「でも…」
「私は大丈夫だから」
カミラは私の言葉に渋々納得したような表情をした。
私は紅茶を一口飲む。
すっきりとした甘い味が口の中に広がった。
「美味しい。やっぱりカミラが容れてくれるお茶が一番美味しいわね」
「ありがとうございます」
私とカミラは二人笑い合う。
そんな中、広間にクラリス様が侍女を連れてやって来た。
「ごきげんよう。アリス様」
「クラリス様…」
クラリス様の突然の訪問に私は内心驚きつつも平然を装いながら彼女に挨拶を返す。
クラリス様の傍には先程私を見下していた侍女達が後ろに控えていた。
「侍女達の件、お聞き致しましたわ。アリス様に大変な失礼を…。彼女達に変わって心からお詫びをしたいと思って…」
「いえ、もう気にしていませんので…」
「あなた達何をしているの!アリス様に謝りなさい」
クラリス様に言われて3人の侍女たちは私に「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
侍女たちは申し訳なさそうな顔をするどころか俯き、私に見えないようにニヤニヤした笑みを堪えるような顔をしていた。
彼女たちの様子に私は不自然さを覚えた。
「こちらお詫びの品です。良かったら召し上がって」
一人の侍女が私の前に皿の上に乗っていた生クリームが掛かったケーキを置こうとした。
だけどわざとらしくコケた振りをしながら私にぶつかろうとする。
私は慌てて避けようとするが運悪く彼女とぶつかってしまい、ドレスにケーキと生クリームがべっとりと付いてしまった。
「ごめんなさい、アリス様。なんて言うことを…!」
クラリス様は申し訳なさそうに私に謝るが彼女の表情は僅かに口の端が釣り上がり、どこか笑いを堪えているようにも見えた。
彼女は自分の手を下さず、自分の侍女を使って私にわざとケーキをぶつけた。
きっとエリオット様との一件を聞いて私の元に嫌がらせをしに来たのだろう。
「でも、アリス様は許して下さいますよね?以前エリオット様からお然りを受けた侍女を救ってくださいましたもの。この程度の失敗ささいなものですわよね」
「この程度!!クラリス様、お言葉を返すようですがアリス様は…」
「悪いけど、私はアリス様とお話をしているの。侍女のあなたは黙っててくれるかしら?」
クラリス様は冷たい視線でカミラを見た。
カミラは彼女の言葉にぐっと押し黙ってしまう。
「そうですね。別に良いですよ。汚れなんて洗えば落ちますから」
「ああ…。やっぱりアリス様はお優しい方だわ。許して下さるのね」
「ええ。怒っても意味がありませんし、呆れているだけです」
「それって…どういう意味なのでしょうか…?」
私の言葉にクラリス様の目が鋭くなる。
彼女はこの状況で言い返すとは思っていなかったのだろう。
私も侍女だけならば無視していた。
ことを荒らげても仕方がないことだから。
だけどクラリス様が相手ならば話は別だ。
私は凛とした表情をし、彼女の目を真っ直ぐ見つめたまま口を開いた。
「私が侍女を許すのを期待されていたのでしょう?私がドレスを汚されても、陰口を叩かれても笑って許してくれる。貴族である私よりあなた様は第一王女様だから、だから自分が言えば必ず通るのだと思われたのかもしれません」
「そんなつもりはありません…!私は…」
クラリス様は目に涙を浮かべながら私に訴えるように言う。
演技が上手い人だ…。
この場で泣けば周囲から見たら私が悪人に見えるのかもしれない。
これが彼女の常套手段だろう。
「アリス様は酷いです…。心優しいクラリス様にこんな酷いことを言うなんて…」
「そうです。クラリス様が可哀想です」
クラリス様の近くにいた侍女達が口々に私を避難した。
端的に言ってしまえば彼女達は彼女達で凄く盛り上がっていた。
私を悪女にして悲劇のヒロインのクラリス様を庇うかたちとして。
ことの発端は彼女たちの筈なのにだ。
「もとあといえばあなたが原因の筈では…」
思わず突っ込んでしまう私を無視してクラリスは告げた。
「私はアリス様のことを信じていましたのに…。やっぱりあの噂は本当ですのね。兄がいながらエリオット様と不貞を働くなんて」
「違います!私はそのようなことはしておりません!」
「あなたの言葉なんて信じれません!外交会談に来ている隣国の王太子を惑わすなんて正気の沙汰ではないわ。よって第一王女として命令します。アリス…」
「そこまでだ」
突然、クラリス様の声が遮られた。
広間のドアの方に視線を向けるとそこにはクライド様が立っていた。
彼は静かに私たちの傍に近付いた。
「お兄様…」
「クラリス。今私の婚約者相手に王族の権限である言葉を放とうとした。違うか?」
「…………ッ」
クライド様から冷たく、鋭い視線を向けられたクラリス様は罰が悪そうに彼から視線を逸らし、顔を歪めた。
「た…確かにお兄様のおっしゃる通りです!だけどアリス様はお兄様を裏切って隣国の王太子と不貞を働いたのですよ!これは婚約者であるお兄様に対して完全な裏切りです。お兄様はアリス様を許せるのですか!」
「お前はそれを見たのか?」
「そ、それは…」
氷のように冷たく告げるクライド様に対してクラリス様は怯む。
それに対してクライド様は呆れたように覚めた目をクラリス様に向けた。
「実に下らんな」